やはり危険に巻き込まれる…の5(終)
プラムジョニーはもとは若者向けの肌着メーカーであったがこの度冒険者バブルの波に乗り、十八番であるつけ心地の抜群ノンワイヤーの技術をフル活用して防具業界に参入する。従来の無骨な、相手を威圧するようなデザインから一線を画す、身に着けて可愛い合金鎧を目指している。
今までの肌着研究で培われたボディメカニクスをそのまま鎧に活かすことにより、女性らしさを損なわず且つ安全性の高いプレートメイルを生み出すことに成功した。それが、人気商品ラブメイルのシリーズである。
ざっくり言うと体にピッタリフィットしつつも、鎧と身体の間にある衝撃を軽減する緩衝層のお陰で、鎧の上から強い力で打たれてもその威力は身体には伝わりにくくなっているのだ。
「どうでしょうか!」
ルリにフリティアから与えられた胸当て、肘当て、下履きを覆うスカートのような腰巻き、見えないが多分すね当てもつけている。ピンクゴールドの兜は花冠のような装飾が施され、長い黒の髪が兜の縁からまっすぐ出ている。
「うん、いいんじゃないか。」
アルバートは、自分だけに見せつけるように腰に手を当ててふんぞり返るルリを見ると、できるだけ軽く答えた。いくら好みの姿に見えてもべた褒めはいけないのだ。フリティアが番犬のごとく傍らに立っている。
「可愛らしいと思いますよ。」
オーギが代わりにお手本のような回答をした。
「ありがとうございます。」
オーギにニコリと微笑み、鎧を贈ってくれたフリティアに感謝をした。
「でもティア、これすごくサイズがぴったりですね。噂には聞いていましたが。」
背中を見て、腕を見て、それぞれのベルト位置を確認する。ノンワイヤーなのでベルトは線ではなく面のように幅広のものだ。
「そりゃあもちろん、私はルリ様のことをよく見ていますからね。」
なにげにセクハラ臭いセリフだ。もちろんルリとフリティアの仲なので特に何事もないが。
「アル、どうです?」
もう一度、今度は名指しでアルバートに聞いてきた。だが即答はしない。
(騎士らしく、騎士らしくだ。)
ひと呼吸おいてから、
「ルリらしくていいな。」
と微笑みかけた。
フリティアの判定は、セーフ、であった。
特別な褒め方ではなく無難な回答なのだが、ルリはこれで満足したらしく、鼻の頭をかいて笑う。
「あ、そういえば、キーウィは?」
一人、道の反対側を警備していたキーウィのことが頭から抜け落ちていた。彼が向かった方に目を向けると誰もいない。
「…キーウィ!」
ルリがその名を呼んだが返事はなかった。
「これは…」
「いやいや、流石にキーウィさんも敵の接近は教えてくださるでしょう。」
自分が必要であれば勝手に持ち場を離れたり、正義感が先行して突っ走るような男である。
「どのパターンもありうる…」
かくしてキーウィの捜索が始まった。