やはり危険に巻き込まれる…の4
「あんたもルリと一緒で人をあまり疑わないんだな。」
「まさか。そう思われますか?」
確かにルリほど無邪気に相手を見ることはないだろうが、それにしたってオーギは自分のことを褒め過ぎである。
「俺はそんなご大層なもんじゃないよ。」
「ははは。意外と自分に自信がないのですね。」
それは当然後ろ暗いところがあるからだ。墓場まで持っていく、せめてこの旅が終わるまでは黙っているつもりの秘密ではあるが。
「…一つも汚れのない人間なんていないだろうに。」
「そうですね。」
オーギは吐き捨てるように言うアルバートを否定しなかった。
「誰しもが皆、正しさを貫けるわけではありません。ときには信条と矛盾するようなことにも直面するでしょう。ですが、だからこそ、人は正しい道を歩もうとするのですよ。」
「それは、あんたん所の教えか。」
「いえ。言ってみれば己が矜持、でしょうか。」
聖職者の持つ、自分だけは何一つ汚れていない、という「潔癖さ」がアルバートは嫌いだった。そんなことは絶対にありえないのに、すべてを顔もわからぬ誰かが作った「教え」に責任を負わせて「私は神に従ったまでだ」という。あまりにも身勝手である。「神の名において断罪を…」などと言われようものならその場で張り倒してやりたいほどだ。手を下しているのは他ならぬお前なのだぞ、と何度でも叫んでやりたい。
「…汚れを知っているからこそ、アルバートさんはルリ様に惹かれたのでしょうね。」
アルバートはハッとする。
「恋慕は許されませんが、敬愛であれば思う存分なさるといい。そしてルリ様にはこの救世の旅、修行の道を通してまっすぐ育っていただきたい。」
ルリは汚れを知らない。
(そうか、だから…。)
一つ納得したようにアルバートは腕組をした。
だがどうもそれだけでは腑に落ちきらなかった。もっと他の、なにか因縁めいたものを彼女の写真を見たときに感じ取ったのだ。それがなんなのか、穢れなきほほ笑みだけではどうも弱い。
「みなさん、そろそろ行きましょう!」
二人の少し後方から気合の入った声が聞こえてきた。
確かにルリが笑うとなんだかささくれだった心が洗われる気がする。
フリティアからもらった鎧を身に着けてごきげんな巫女を見て、アルバートはそんな風に考えていた。