なんだかんだで頼り切り…の2
年下のまだ心も未成熟な少女にどうして惹かれてしまったのか。それがなければ、危険な目には遭わなかったし、こうやって軽い手かせを付けられるようなこともなかった。ただそれと同時にあの、明日も見えない生活を今も続けていたことだろう。
(それを抜け出すためにすべてを捨てて、たまたま転がって来たチャンスをつかんだ。ルリはきっかけに過ぎない、よな。)
アルバートはちゃんと喋られないこの機会に一つ一つを思い起こし頭の中で整理した。10代のような一目ぼれしておいて「きっかけに過ぎない」は甚だ失礼ではあるが、どうせ聞こえないので、と好き勝手に志向を巡らせている。もとい、自分自身に言い聞かせている。
(…体目当て…そう、体目当てだ!)
最低である。
「アル、なんだか目の焦点が合ってませんよ?」
ルリが急に邪念溢れるアルバートの様子をうかがった。
「おふぁへほほほはんふぁへへは」
「も、もお……変なことではないですよね?」
自分のことを考えていたと正直に言われたのでルリは頬を抑える。ただし彼女の問いにコメントを控えた。
(…先の聖域でだいぶ俺に心を許している…と見ていいよな。普段だったらもう一歩強めに踏み込んでもいいころ合いなんだが…)
「先ほどからルリ様を不躾に眺めて…目隠しもしとけばよかったですかね。」
そのうち五巻のすべてをフリティアに奪われそうである。
アルバートはルリに触れられない。どうしても触れられない、触れたところで激痛が襲い掛かる。この頃はなんだかより一層強くなった感じもする。
「ルリ様、お荷物をお持ちしましょうか?」
街で買い込んだ日用品、魔法道具、その他なんだかこそこそ買ってた小さい小瓶などが両手の袋一杯になっているので少し足がもつれている。
オーギが親切心で手を差し伸べたが、ルリは首を縦には降らない。
「大丈夫です!これは全部私が必要なものなので、みんなの負担にはしたくないです!」
「かしこまりました。」
オーギはルリの考えを邪魔しないよう潔く引き下がる。
「あ、ルリ様、左をご覧になってください。」
安心安全の観光ガイドのような発言をするフリティア。彼女が平気でルリの肩を叩き左手に広がる海岸線をルリに見させた。
「おぉ…」
打ち寄せる波の音が木々に囲まれた静かな街道まで運ばれてくる。長い間潮風にさらされたマツのような樹木の間から昼の海がキラキラと見え隠れする。まるで自然災害などが起きてるとは思えないほどののどかさであった。
「…この辺りの気候が安定してるのも、巫女様が天神様に祈りを捧げたからなんですかねえ?」
大帆船が港にやってこられるぐらいには海や風が穏やかになっているのであろう。キーウィが何気なく言ったことをルリは胸を張ってうなずく。彼女の行いは間違っていないのだ。
アルバートと邪悪な輩以外はこうやって彼女に触れることができる。
(触れると触れないの基準はどこなんだろうな…。)
触れたところで今すぐ行動を移すようなタイプではない。というより今の自分に対する警戒態勢においてそのようなことをしでかせば、おそらく、五体満足ではいられなくなる気がする。
わいわいと朗らかに語り合う四人をよそにアルバートは終始上の空であった。