まだ少しだけ観ていきたい…の5
アルバートはたとえ自分の手がもげようとも、ルリを止めないと行けなくなった。率先して前を行くルリの方をアルバートが後ろからがっしり掴んだ。
(んぎぃっ!!)
手のひらを杭で打ち付けられたかのような痛みは多分こんな感じであろう。危うく失神しかけたが、意地で踏みとどまる。
「ア…アル?」
なんとか痛みに耐えようと悶えているアルバートを心配してルリが覗き込んだ。
「言った手前カッコがつかないから、よ。やっぱり旅の終わりまで会わなくていいと思うんだ。」
「ふふ、アルってば照れちゃって。」
口に手を当ててルリが微笑む。
そうじゃないのだ。
「じゃあアルは隠れてていいので私達だけででも…」
それもまずい。すでに本当の騎士が誰かに大切な任命書を奪われたことを他の者に告げているはずである。となると、ここでルリと会おうものなら嘘がバレる。
(ここが潮時…ではないはずだ…この流れを絶対阻止する!)
危険が近づくと大抵その場から逃げ出すのがアルバートである。これまでも利益の少ない、むしろ不利益を被るような場面ではさっさと煙に巻かれて消えてしまってきた。
だがどうしてだがアルバートは今去る気が全く起こっていなかった。
(そもそも、最初に受け取ったやつも全くやる気がなかったんだ…だったら俺が最後までやったっていいだろうが…。)
盗んだ相手の愚痴が思い起こされる。嫌々ルリのもとを目指していたみたいなので、それならば、と彼女が好みだったこともあり権利を盗んだまでだ。
「騎士団の前にルリの姿を晒すのは良くない。いくら味方といえどだな…」
「アル、仲間は信用するものです。」
「俺は疑う立場なんだよ。」
聖域にいたときにしたやり取りに近いことを言う。
だがルリはアルバートの考えが今回は気に入らなかったのかぷうと膨れてしまった。