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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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まだ少しだけ観ていきたい…の2

 キーウィの悩み事といえばもっぱら異性との関係についてである。こうしてアルバートを呼びつけて話すことといえば大抵の場合、女性のことが絡んでくる。

「んなにガツガツするなら自分から積極的にいけばいいのに。」

「いや、必死すぎるのはダサいじゃないですか。」

 今懇願するようにアルバートから今までの恋愛経験を聞き出そうとしているのは必至なことに当たらないのであろうか。アルバートは周りを確認する。ルリはまだ着替え中で、部屋の鍵はフリティアが固く閉ざしたはず。そのフリティアとオーギは向こうで何やら話し込んでいる。

「とにかく、女の子がコロッと一瞬で落ちる方法を教えてください。」

「そんなものはねえ。」

 コロッと落ちると踏んだ少女にこれだけ苦心しているのだ。存在するならアルバートもその方法をご教授賜りたいほどである。

「そういわずに。俺もさすがにこの旅が終わってから独り身は悲しいですから。」

 アルバートは頭をかいた。

「まずお前の好みは…」

「可愛くて、家庭的で、甘えさせてくれて、一途で、あとおっぱいはおっきいほうがいいです。」

 恥ずかしげもなく都合のいいことを述べてくる。このセリフをきいた女性はみんなこの男は女の敵だと思うに違いない。アルバートもそう思う。

「身分とか素養、金銭周りは気にしないんだな?」

「それはもう。愛の力で何とかできますから。」

 キーウィの条件の女性はまるで夢物語のようだが存在しないことはない。身分は高くかなり高等な教育を受けているお嬢様に多い。教養豊かで蝶よ花よと育てられた女性たちだ。その気になれば確かに縁を引き寄せることができるかもしれない。だが、キーウィは根本的に間違っている。

(そういう娘に無条件で慕われたいと思っていやがる…。)

 うんざりするほど相談を受けているアルバートはわかっている。キーウィは異性に興味津々だが奥手。(ここまではまだかわいげのある方だ。)ただ、自分から行くのではなく向こうから告白なりなんなりさせたいと考えている。何度か自分から行くようにアドバイスはしたが、ことあるごとに「もうそろそろ俺に告白してきますかね!?」なんて能天気なことを言い出す。美少女がそういうやつを好きになるとは到底思えない、というのがアルバートの見解である。

「ひとまず、キーウィお前は女慣れしてないからな。」

 それも問題だ。どうも生きてきてこれまで女性と付き合ったことがないらしい。いい年して何をやっているんだろう。だが仕方がない、向こうから来ると思い込んでいるのだからそのような機会があっても気づかなかったか逃してきたに違いない。そうやって、何年もため込んだモテたい欲は肥大化しいつしか高すぎる理想像を作り上げてしまうのだ。

「一回店にでも行って自信つけてきたほうがいいぞ。」

「アルバートさんの紹介でいきたいです。」

 キーウィは驚くほど真剣なまなざしで決まってそう答えるのだ。

「今夜あたりでもどうでしょうか!」

 こういう時はがっつくのがキーウィである。

 アルバートはこの旅の一行に加わって以来酒場以外には足を運んでいない。酒場すらあまり近寄らないぐらいである。理由は二つほどあり、一方はアルバートの懸念していることで、もう一方は簡単。アルバートについた匂いにルリが反応して不機嫌になるのである。パブに行っただけで酒気を帯びたアルバートに対しルリは難色を示す。

「私たちには世界を救う責任があるのに…」

 などブツブツと小言をしばらく言われ続けるのである。それはアルバートの望んでいない展開だ。

 ある時酒場で酔っ払いにからまれたせいで、女性ものの香水の匂いがしたときがあった。ルリがへそを曲げてしまい、口すらきいてくれなくなったのだ。自分への好意の表れだとは思うが同時に自分の評価を下げてしまう原因でもある。だから、キーウィに提案したような接客サービスの「お店」に連れて行ってやるのははばかられた。

「だから行くならお前ひとりで…」

「今夜どちらに向かわれるのですかな。」

 キーウィとアルバートが同時に驚いて振り向く。いつの間にかオーギがにこやかに立っていた。

「あ、オーギさん。その…実はですね。」

 キーウィが声を落として話始める。

「今夜あたり、街に繰り出してその、女の子のいるお店に行こうかな、とアルバートさんと話してたところなんですよ。」

 仮にも聖職者に向かってなんてことを言うんだろう。

「ほう。」

 オーギは笑顔を崩さなかった。これがものすごく怖いのだ。この顔が一瞬にして鬼の形相に変わる。何の前触れもなく変わるのだ。鬼の顔になった瞬間どういうことが行われるかはこれまで見てきた通りである。ここまで腹の底が読めない男がなかなかいないだろう。

「オーギさん、どうか見逃してください。俺たちもう我慢できないんです。」

(…俺はそんなことない。)

「いけません。巫女様を守るものとして一時の情欲に身を焦がしてしまっては。」

 オーギは諭すように言う。

「でもオーギさんも男でしょう?この気持ち、わかってくれるはずです。」

 精力溢れているのは今現在キーウィだけである。

「…わかりませんな。」

「じゃ、じゃあ神官どのはどうやって鎮めてるんですか?」

 なんてことを聞いているのだ。

「必要ありません。」

「そんな馬鹿な!」

 キーウィは声を荒げた。だがオーギからとんでもない返答を得られる。

「バカではありません。巫女様はか弱き女性。間違いがあってはならないよう…」

 オーギは胸を張った。

「私はちょん切ってきました。」

「えっ!?」

 鈍い黒の鉄のペンチのようなものを腰から取り出してくる。まるでそれは悪魔祓いの儀式に用いられるようなまがまがしさを放っていた。

「静まらないというなら、これで…」鉄の大鋏を一振りする。

「お二人に永劫の安らぎを与えてもいいのですよ。」

 その眼に見られただけで股のあたりが痛くなるようだった。

「いやっ!俺は断じて違うぞ!心配いらねえって!」

「やだなあ、オーギさん。俺たちが間違いなんて!」

 オーギはまたもとのようににこりと笑った。

「それを聞けて良かった。他の女性はもちろん、巫女様には決してそのようなことがないよう。信じておりますよ。」

 笑いながらのしのしと去っていく。

「オーギさん、かなり危ない方なのか…」

「あの人だけは怒らせないようにな、キーウィ。」

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