も、これだけは譲れない…の11(終)
ごめんなさい。
ルリは言った。アルバートは頭をかく。
「…ルリよ。」
彼女は体をこわばらせた。口を固く結び、眉間にシワを寄せる。涙がたれ続けても鼻をすするだけで、それ以上は動かなかった。
「ルリは俺が怒ってると思ってんのか?」
「…そうでなければ…呆れているか……」
「そうか。」
アルバートは堂々と屹立したままルリに詰め寄る。
「俺は…ルリが無事に危機を切り抜けられてよかったと思ってる。」
「私は、あなたを信じなかったんですよ…?」
「信じてただろ。」
ルリは顔を上げた。
「俺の心配事はわかってた…がルリはあの男のことも信用していたんだ。」
信じるものが相反するとき、どちらかを疑って切り捨てるのではなく、信じたい思いが強い方を残す。アルバートの警告は警告として受け取り、尊敬する人を信じることを選んだ。
「だから俺は怒ってない。俺のことを信じてなかったなら、ルリは根拠のない話は止めるよう促すはずだ。」
アルバートは泣き顔のルリに向かって微笑んだ。おおよそいつもの皮肉っぽい笑いとは違っている。
また、ルリの目から涙がこぼれはじめた。
「俺たちが来る前まで、お前は一人で戦ってたんだ。」
「私、何も。」
できなかった。相手の言葉に惑わされていただけだ。
「ルリの身がなんともないのがその証拠だ。あの人数を相手に退かなかったんだ。泣き出さなかったんだ。ならいいじゃないか。」
ルリは自分の身を守る聖なる加護のことは知らない。だからどうやって自分の体に指一本触れさせなかったかがわかっていない。わからないから全く実感がなかった。
「向こうが、私を大事にしているのか…乱暴なことをしてこなかっただけです。」
だがアルバートはわかっている。感情を爆発させれば、どこにいてもルリのいる場所が禍々しい風の中心にあるとすぐにわかる。ただアルバートたちがたどり着いたのはアルバートが用意した指輪の力である。
「怖かったのに、不安だったのに、冷静に相手を見極めようと言葉をもって制してた。それは誇りに思っていい。」
それでもルリはなかなか気持ちに区切りがつけられないでいた。
「あとな…」アルバートはまた頭をかく。
「お前は俺を信じなかったことを謝ったが、俺は全く気にしちゃいない。前にも言ったろ?」
『信じるのがルリで疑うのが俺だ。』
(そうです…あの、初めて助けられた時も同じことを。)
アルバートはハッとしたルリを見て笑った。
「お前のいいところなんだ。相手を信じられるってのは。…それを俺が疑い、フリティアが守る。キーウィが勇気づけ、オーギがケアをする。それぞれがルリを想ってやってることだ。」
「アル…アルバート…」
ルリはうつむいて顔を覆い涙を拭った。
「ありがとう…。」