も、これだけは譲れない…の10
緊張した様子のルリ。別の緊張が走るアルバート。
(男としてまずここはがっつかず、そらでいて適当にはぐらかして保留にするのが得策か…)
ルリが何を言い出すかはわからないが、アルバートは何が来てもノーという気は全くなかった。ただイエスと答えようものならルリの後ろに控えるフリティアに何をされるかわかったものじゃない。
「あの、アルっ…」
「ん、お、おお。」
ぎこちなく身構えるアルバート。(フリティアの存在を除いて)このようなシチュエーションは何度も経験してきたにも関わらず、彼女の気にあてられたのか一緒になって固くなる。
「…ごめんなさい!」
「へぇっ…?」
(え、今俺フラレた!?いきなり?なぜ?!)
ルリが頭を下げる姿に驚いて、アルバートはなんと声をかけるか一瞬戸惑った。それどころか第一声がこれだったのだ。フリティアが小さくガッツポーズをしたのは見間違いではない。
困惑したアルバートに向けてルリが続ける。
「アルはずっと私に警告してくれていたのに…私は…愚かでした。」
その瞳にはうっすら涙が貯まっている。
(…ああ。)
アルバートは息を吹き返した。
わかった。これは愛の告白ではない。
「あの方々に眠らされたとき…昔の夢を見ていました…アルに会ったときの夢を。」
ルリは悔しそうに唇を噛む。白い歯がぷっくりと赤い下の唇に食い込んでいた。
「あの時も、私は騙されてキーウィと一緒に危険な目に遭っていました。宿場町のときもそう…私が、私が愚かで単純だから…。」
ポタポタと地面に垂れる涙も拭わず、下履きを強く握りしめてルリは泣き出してしまった。
フリティアが見かねて近付こうとしたがアルバートは静かにそれを目で制した。今は、彼女が思うことを全部言ってもらったほうがいい。
「私、みんなの役に立ちたくて…足を引っ張りたくなくて…それで、みんなを安心させようと頑張ってたんですけど………ずっと助けてくれるアルのこともティアのこともキーウィもオーギも無視して…自分から罠に入って助けられて…」
アルバートの目の前には、その小さな身に大きな使命を背負う少女の姿があった。
「私、私、ところどころ記憶が途切れていて…目を覚ますとみんなが心配そうな顔で覗き込んでいて…その度に『ああ、またか…』って落ち込んで…」
少女の告白。アルバートは静かにそれを聞き続けていた。