も、これだけは譲れない…の6
乾いた世界にぽつんとそびえる神殿で、怯える人間たちを食べるだけの存在というのは本当に物悲しい。だからニエは受け取るが、ここから先見せられないと追い出して、連れてこられた人たちと軽い世間話から深い人生相談までいろいろこなしてこっそり帰ってもらっていた、という。
ーーしかしもともと、私への信仰心が薄れて私を祀る社は閑散としていました。そのときに引っ越しの声をかけてきたたのが彼、レンリです。
昔を懐かしむ瞳はむき出しの複眼といえど柔らかかった。
ーー彼は類まれない魔法の力を持ちながらもその力の発揮する場面がなく、途方にくれていました。見かねた私が扉をちょろっと開いて招き入れたのが始まりです。お互い語り合い、意気投合したところで彼が提案したのです。
当時、式場のスタッフのアルバイトをしていたレンリがチャペルへの移転を申し出たのだという。
「あそこならば街も一望できます!人々も集まってきます!なにより天神様は恋愛がお好きでしょう!」
ーーそんなことを言っていました。どこで彼があんなことになったかは知るよしもありませんが…
ルリはそう思い出に耽るネウラリアの話をじっと聞いていた。あまりにも巨大な翅の昆虫のようなグロテスクさへの驚きや恐怖は薄れて、ただただネウラリアの人格へ共感を抱いていた。
「見知った方が、豹変してしまうのは…やはり寂しいものですよね…」
ーーありがとう。
天神はそれだけ言った。
ーーで、もう一度願いますが、「ニエ」として私とお話していただいても?
今度は迷わずうなずいた。
「でも、何から話せば…」
ネウラリアが顎をカチカチと鳴らして微笑む。
ーーそりゃああなた…。
大きく羽ばたきキーウィに風を吹き付けた。
ーーこれよりは男人禁制で!さあさ出ていってくださいな。
キョトンとして動かないキーウィは、ルリとフリティアと、それからネウラリアによって神殿の外に押し出されてしまった。戸が固く閉ざされる。
「そ、それで…?改めまして何から話せば…」
ーーそりゃああなた。
繰り返して笑うネウラリア。
ーー私の大好物ですよ。
「マナの話ですか?」
そういうルリのことをネウラリアは大きく笑った。
ーーまさか、いったでしょう?私は惚れた腫れた好いた浮いた、すったもんだの恋バナですよ。
「こっ…恋…。」
まだお題を出されただけなのに急激に顔を赤らめるルリ。フリティアはそれに構わず、
「私はルリ様を心の底からお慕いしております!」
と胸を張って答える。それにルリも乗っかった。
「私も、ティアのことは…その、好きです。」
好き、という単語を使うことは同性といえどなかなか恥ずかしいことらしい。だが、ネウラリアは当然のように満足していなかった。
ーーまさかそれで語ったおつもりですか?…私はすでに見抜いておりますよ、巫女様が…今恋しているお人が…
「いっ!いませんよ!?」
手をブンブンと振って表情を悟られないように覆い隠す。