も、これだけは譲れない…の3
ハツネは端の端、神に届けるニエの調達係でしかなかった。もともとラルドで生まれ、18の時この白の街に商人として一つ旗揚げをしようと志してきたものの、どうにもうまく行かなかった。物乞いに見をやつすかの瀬戸際で、当時から人気であったレンリの直営店にアルバイトとして転がり込む。意外なことに働きものであり、レンリも店の視察に来た際、彼の持つちょっとした才能に触れ記憶にとどめておくことになる。
しかしレンリがますます有名になり女性やカップル客が増えてくると状況が変わる。見てくれの悪いハツネの居場所はどんどんと失われていった。
ただ言われなくやめさせることはできない。そこであるときレンリが直々に彼に命令を下す。
「この度廃砦の地下の権利を譲り受けた。君にはそこに行ってほしい。少しお願いしたいことがある。」
同じ職場のものから煙たがられていたハツネにとってレンリの言葉は深く心に響いた。こうして彼はレンリの尖兵として彼の指示を受け続けることになる。
実は権利を譲り受けたなどとは方便である。ただ単純に不気味なおぞましい噂とその空間に最適な人間が必要であった。町民や旅行客は近づいてこないが、危険を顧みない若い人間たちはやってくるようになる。
「なに、世の中行方不明になった冒険者などゴマンといる。そのうちの一分を君が担うだけのことだ。」
レンリに心のすきを突かれたハツネはもはや善悪の判断をレンリに委ねて放棄していた。