気を取り直して奮い立つ…の4
自分で招いてしまった事態。自分で尻拭いをしなければならない状況。仲間がいなくなった途端、途方に暮れるとはなんと弱い人間なのだろう。
ルリは困った顔をしてその場から動けずにいた。じっとネウラリアを見ているが、かの神は特になんの反応も示さない。
「巫女様、ここはこの世のために祈るのが得策です。そして、ご迷惑をおかけした分、共に来ていた方々のもとへ向かいましょう。」
一瞬、ルリの心が揺れ動いた。しかし、優しい言葉をかけられてすぐに期待してしまった自分の姿を反省する。
「レンリ先生、だってさっきは、彼らこそ敵だと…。」
そう言っていた。
「それでも、それでもです。巫女様のお気持ちは十分に伝わりました。無理に引き離すべきではないと。」
ルリは歩み寄ってくるレンリを拒みきれないでいた。物腰柔らかな老紳士である。一言一言に重みがあり、ルリにはレンリが言っていることが本当にしか聞こえなかった。でもこの状況に陥ったのもレンリの手によるものである。
ーー巫女様。人を信じたいのであれば、真実を見極めなければならない。
信じたい気持ちが残っているせいできちんと抱けぬ疑心に苦しめられるルリ。彼女に助け舟を出したのは天神ネウラリア。
ーー疑う、のではなく問うのです。
「ネウラリア様、突然何を。」
驚いたのはレンリの方である。静観を決め込むものだと考えていたせいであろうか、突然神が巫女へ助言を始めたので動揺してしまった。
「レンリ先生教えてください。なぜ一度見捨てた彼らを助けに行くとおっしゃってくださったのですか。」
「それは、申しましたとおり、巫女様のお気持ちを慮った上での考えでございます。」
「それなら、私は最初からみんなのことを助けてほしいと、心から頼んでいました。でも断っておられましたよね。」
「あの時とは少し状況が変わりましてな。」
「どういう風に?」
「今はあなたに対して正直でいたいと思ったからです。」
レンリの言葉は本当のことのようだ。ルリはこの言葉が嘘には感じられなかった。だが、レンリたちとアルバートたちの決定的な違いにルリは気づく。
「みんなは、最初から正直でした…!」
彼らは隠し事なんかしない。曖昧なことなんて言わない。ルリは、アルバートたちを信じた。
レンリにルリの澄んだ瞳が突き刺さる。
「教えてください!世界を救うという同じ意志を持っているのに、協力し会えない理由を!協会が嘘をついていると言うなら、あなた方は何者なのですか!」
レンリは深くため息をついて首を振り、そのままローブの集団の中に下がっていった。
「巫女様の信をついに得れなくなりました。やはり、眠らせたのがまずかった。あれではどう見てもこちらが悪者であるよ。」
そう言ってどこかへ向かおうとするレンリを「お待ちください、どちらへ?」とローブの者たちが静止する。
「私は降りる。少しぐらい夢を見られるかと思ったが、こうなっては望み薄なのでね。」
「それはだめだ。」
引き留めようとするが、老人とは思えぬ身のこなしでするりと手からこぼれるように包囲を抜けていった。
あっさり出口に到達する。
「あとは諸君らのお好きなように。もっとも指一本触れられないだろうが。」
「まっ、待て!」
ローブの集団が叫ぶ、レンリはお辞儀をして扉に手をかけた。
だが、彼が開けるよりも早くーー。
「なっ?!」
老人が小さく叫び、壊れた扉とともに吹き飛ばされる。
砂煙を巻き上げながら、息を荒げる四人の戦士たちが乗り込んできた。
「あっ!」
それと見た瞬間、ルリの目が輝く。
やつらが、きた。