気を取り直して奮い立つ…の1
ジャコウに騙されていたと知って、窮地に陥って、その後…アルバートに助けられた。いつもそうだ。
(私は簡単に騙される。騙されて、危なくなってからようやく気づく。今だってこうやって…私は…)
ルリは夢か現か定まらぬおぼろげな視界のままじっとしている。
(ごめんなさい…みんな…ごめんなさい…)
味方が自分を守って危機に遭うことが、ここに至るまでに何度もあった。その度に自分の不甲斐なさを嘆いていた。守られるだけではだめ。役に立つ、みんなを引っ張る存在になりたかった。
大人しく言うことを聞いていれば。
少しでも疑っていれば。
抵抗できるほどの強い力を持っていれば。
(それがないから今、この状況なんですね。)
自分へ向けた冷笑が彼女の胸をつまらせる。
声が聞こえる。
占い師レンリのものだ。はっきりと何を言っているかはわからないが、どうもこのような事態はあまり喜ばしくないようだった。
横たわるルリの瞳が鈍く動く。小指にはめたリングが目に止まった。きらめく小さな銀のリング。
(アルは私を助けたときになんて言ってくれましたっけ…)
大事にしていた、ドキドキしていた、はじめて言われて嬉しくて、自分のことを認めてくれた一言。それすらもまどろみの中に沈むルリにはもう思い出せなかった。
ーーその娘はニエですか。それとも巫女ですか。
建物の中であろうか、この世のものとは思えない何かの声が響く。
「はい、天神様。彼女は巫女です。」
レンリが腰を折って答える。
ーーふむう。ならばなぜ寝ているのです。
「長旅疲れていましてな。」
ーー嘘はいけない。
「説明が行き違えて、折り合いがつかなくなったため、しばし眠っていただいた。」
ーーこれまた強引な。
「私もそう思います。」
ぎょろりとその大きな眼、であろうか、大きな水晶球のようなものを動かして天神は巫女とレンリを交互に見る。
ーー君と私の仲だから言いますがね。彼女は使命を帯びて各地を回っているはずなのです。このような形では彼女だって拒絶します。起こしてあげなさい。
「はっ」
レンリはにべも無くルリに駆け寄り彼女の方を叩いた。
だが。
「ぎゃっ!」
老体から悲鳴が上がる。その様子がおかしかったのか天神はその四枚の翅を動かして笑った。シャラシャラとこすれる音がなる。
ーー巫女の護りは強烈でありますな。
「一度信頼を失ってしまったということでしょうか。」
ーーいいや。たしかにそれもありますが…。巫女の護りは錠が2つあって、その一つは邪悪を拒むのです。相手を信頼していようが、腹に一物ある者は心の何処かで受け入れられないのですよ。
レンリは痛む手をさすって天神にたずねた。
「なんと…。善だの悪だの…そんなものはさじ加減では。」
ーーくくく、絶対的な価値観、はあるのですよ。
「…そ、それは一体?」
ーー君が巫女に拒まれた以上は答えられません。
天神は翅を強くこすりあわせた。
「なんですと……!」
ーー当然ではありませんか。あら愉快。
シャラシャラと言う音だけが神殿内に響いていた。