まどろみの中…の6(終)
広場の中心には大きな植木。その下のベンチに膝を揃えてルリが座る。頭はまっすぐ前にむけているが目がキョロキョロと左右に動いている。その視界に時々誰彼構わず、あなたは騎士ですか?と聞いて回っているキーウィの姿が映る。
(絶対違いますよね…)
少しぐらい目星をつけてもらいたいものだ。今声をかけた相手などは手に赤ん坊を抱いているどこぞの奥さんである。
とはいえ。
自分から声をかけるのは苦手なので、それを代わりに、二人分、やってもらっているのでそこまで文句は出ない。
「すみません?」
いつの間にか隣に男性が来ていた。
「はいっ!」
少し驚いて、ルリは体を向ける。甲冑姿の雄々しい人であった。
(向こうから声をかけてくださるとは。)
ルリはこの者こそが聖騎士だと思った。
「この街で見慣れない女性なので、声をかけてしまいました。誰かを待っていたので?」
騎士らしき男はルリの隣にストンと座った。
「はい。」
ルリは男の問に応じる。
「騎士の方を探していました。」
「なるほど。ではちょうどよく、私が来たということですね。」
悪くない言葉遣いの男性である。ルリはホッと胸をなでおろした。
「騎士様。この先の道中でどうかお力添えをお願いいたします。」
ルリはもうこの者こそが次の者だと決めつけてしまった。ルリがペコリと頭を下げると、男は少し考えるような仕草をした。
「あの?」
「……ああ、失礼。どこまでお守りすればいいのかと思いましてね。」
「最初は目標はあの山の向こうの海神様の社です。道中でまた一人他の仲間と交流する予定ですから。」
「…ほう。かしこまりました。私はジャコウ。よろしくお願いします。」
男はそれ以上深くは聞かなかった。
そこへキーウィが駆け寄ってくる。
「巫女様!騎士の方が…って、んん?」
「あっ、キーウィ。いいところに騎士様の方から声をかけ……えっ?」
キーウィも別の男を連れてきていた。身なりもなんだかゴロツキのような質の悪そうな革鎧を着ている。
「キーウィ、その方は人違いです。この人が私達の探していた方。」
「あっ、そうなんですか?」
キーウィはちらりと自分が連れてきた男と、今巫女のそばにいる男を見比べる。なるほど確かに巫女のそばの男のほうが騎士らしい。
「ああ、こりゃ…どうも。」
珍しくバツの悪そうな顔をして、ゴロツキに人違いだったと告げた。だがその男は、
「いや、令状も持ってる。俺が編んたらと一緒に行く騎士だよ。騎士団長からの推薦状も…ほら、ここにある。」
といって懐から二枚の書状を取り出した。
「巫女様!」
その内容を確認しようと近づくルリと男の間に、騎士のジャコウが割り込んだ。身を呈して彼女を守る形だ。
「数日前に何者かに大切な書面を盗られたのですが、まさかここで出会えるとは。偽物を騙りあなたに近付こうとしたようですね。だが、無駄だったな盗人よ。」
ジャコウは剣の柄に手をかけてゴロツキを威嚇する。
「あの、今なら間に合います。その書状を、ジャコウ様にお返し願えますか?」
ルリはその男に頭を下げた。一体に緊張が走ったと思ったのもつかの間。これが意外なことに、男はあっさり二枚の書状をルリに手渡した。ルリも相手が襲ってくる、逃げ出す、暴れるなどを想像していたので、男の子の行動に逆に驚いてしまったぐらいである。
「……ありがとう…ございます。」
「ん、それはあんたが持っといた方がいい。」
「い、言われなくともそのつもりですが…。」
ルリは少し混乱したままだ。
「…少しは頭が回るようだな…。盗人よ。さぁ去るがいい!」
騎士のジャコウは睨みをきかせたまま男の行動を見つめている。男はそのままくるりと背を向けてどこかへと去っていってしまった。
その時の彼こそがアルバート。
(私を守ってくれる騎士様…。)
ルリは夢の何処かでつぶやいた。