まどろみの中…の3
大きな青銅の鐘のある街。石畳がきれいに並んだ平屋の多い大通り。一軒一軒塀で仕切られており、大体の家に庭がある。塀の入り口から玄関まで飛び石を敷いているのが今のトレンドらしい。
「私の街は木造家屋が多かったですからねぇ…。」
およそ2日かけて歩いて次の街に到着した。ここでおそらくもう一人の仲間、聖騎士が待っているはずだ。
ついた頃にはもう夜であった。途中で休み休み歩きながらも特に危ない目にも遭わず、足が疲れたぐらいだった。
「早速お宿を取りましょう。えーと…お金は…」
旅立ちの時に持たされたものとキーウィが協会から支給されたものを合わせて大人一人小人一人でなんとかなりそうであった。
「ま、これならすぐ見つかりますよ。」
ジャラジャラと小銭入れの口を持って振ってみせる。
「……その、キーウィ。『大人二人』でお願いできませんか。」
「え?なぜ?」
確かにルリは成人していないので書類上は小人に属する齢である。
「なぜって、その。」
「こっちのほうが安いですよ?」
「そうじゃなくて!」
モジモジと言い出しにくそうである。ルリはキーウィに気を遣いながら伝えた。
「大人一人小人一人では…同室することになってしまうではないですか…だからその別々にしていただけないか、と…。」
「同じ部屋なら護衛がしやすいですよ!」
なんで通じないのだ!ルリの鼻息が荒くなった。
「男の人と同じ部屋で寝るのは抵抗があるんですっ!」
「ああっそっか!」
キーウィが手を打った。途端に照れくさそうにニヤつきながら髪をかいてうつむく。伏し目がちでたまにチラチラ様子をうかがってくる。
「キーウィ。」
ルリは渋い顔をせざるを得ない。
「失礼。」
往来で立ち止まってくだらないやり取りをしていたので、道行く人の邪魔をしてしまっていたようだ。
「あっすみません。」
二人は脇にはけて紳士然とした男性に道を譲る。そのものに軽く会釈をして見送った。
「とにかく、大人二人、でお願いしますね。」
切実な願いである。
キーウィは事情はわかりましたと頷いた。
さてようやく今日の宿探しである。流石に贅沢は言えないが、そこまでグレードを落としたくないのがルリの本音である。
「お布団はいつもきれいなものでしたし、お部屋もいつも暖かかったです。」
巫女見習いだからこそ、大切に扱われてきたようである。それに慣れているので、キャンプなどの特殊な条件でない限り、大きく乖離した部屋には入りたくないという思いが心の隅に鎮座している。
そのせいで宿探しは難航する。門構えが汚い店には近づかなかったし、どう見ても高級なところは避けて通る。しかしこの時間帯である。ちょうどいい宿はほとんど埋まっていてなかなか見つからない。
「明日から仲間を探さないといけないのに…」
歩いてこの街までやってきた上、さらに土地勘のない場所をさまよい歩いているのだ。ルリは相当疲弊していた。
「あ、ここなんてどうです?」
いかにもボロっちいところであるが、この際もう贅沢はいっていられない。ルリも腹をくくってうなずく。
「部屋があったらここにしましょう。」
フロントにはおじさんが一人、のんびり今日の朝刊を読んでいた。
「大人とこど…大人。二部屋お願いします。」