まどろみの中…の3
初日のキャンプは本当にガッカリなものであった。
(いえ、期待しすぎただけです…。)
ペグを見失って探し回っているうちにすっかり日は落ち、さっさと焚き火をしようとしても、周りの草木が多くて火を使うのは危険ということになり、マジックランタンでなんとか明かりは手に入れたがやることがなくなる。
二人して保存食を食べて、見張りは自分がやるとキーウィがテントの前に陣取ったので、ルリは髪の汚れを落とし体を拭いて香を焚いて、眠りについた。
朝起きてテントから這い出したらキーウィが開口一番、
「わぁ、すごいニオイですね!」
なんて言うものだからルリはすぐさま袖や襟などを嗅いで焦る。
そんなことは気にも止めず、さっさとテントをしまおうとするので、朝の支度だけ願い出て顔を洗いに近くの水辺まで移動した。
「はぁ…」
キーウィは悪い人ではないとルリは確信している。だが、何をしでかすかわからない人ではある。
両手で澄んだ水を一掬いして口をすすぐと少し気分が落ち着いた。
くぅ、と腹の音がする。持ってきていた薄く着られた干した芋を一切れ、口の中でふやかして食べる。甘い涎が口いっぱいに広がり、喉が潤う。また少し落ち着いてきた。
「…うん、そうです。キーウィだって最初は接し方がわからないはず。これから一緒に旅をする仲間ですからちゃんと歩み寄りましょう。」
ルリは水辺に映る自分に言い聞かせた。
ルリが戻るとキャンプ地に戻ると寝袋以外が片付けられている状態であった。
「流石に、巫女様が眠った跡の始末はまずいかと思いまして!」
変に律儀である。ここまで崩してからそんな気の遣われ方しても。
(……次の方はキーウィを叱ってくれる人でありますように!)
ルリは心の中で切に願った。叱るなんて、されたことはあってもしたことはない。ルリにはこの不調法者に喝を入れられなかった。
「…キーウィ、次の街できっともう次の仲間が待っています。準備もできましたし急ぎましょう。」
ルリは寝袋を丁寧に巻いて大荷物を背負う。
「そうだ、朝ごはんはまだですよね。これをどうぞ。」
腰にぶら下げた袋から携帯食料の干し芋を取り出す。
「わぁありがとうございます!昨日の夜、ずっと起きてたから大変で。」
キーウィはルリから芋を喜んで受け取りさっさと口に頬張る。
「…まさか一睡もしなかったんですか?」
「ほひゅう、へむくはっは…」
「…た、食べてからでいいですよ。」
「ちょっとやばかったところもありましたが、この通り大丈夫です。」
やはり変なところで律儀である。
「あの、キーウィ。」
「はい?」
昨日と変わらぬ脳天気な笑顔である。
「あんまり無理はしないでくださいね。」
「はい!」
意味がわかっているのかわからないが、それでも明るいキーウィの雰囲気は悪いようには見えなかった。
「次はどうな人がいるんですかね?特徴とかはわかります?」
ルリは大きくうなずく。
「聖騎士様らしいです。なんでも西方の騎士団の中でも選りすぐりの一人とか。」
「男性ですか?女性ですか?」
この世界の騎士号の授与には性差はない。女性の聖騎士も当然いる。それぞれがいくらかの土地を治めきちんと鍛錬に励んでいる。
「それは…わからないですが…多分男性だと。」
「へぇ?どうしてです?」
「い、言えません…。」
彼には言えない。夢のお告げだと思う。騎士が自分の身を助けてくれる夢を旅立つずっと前何度も何度も見た。大人に話すと必ず「ルリは乙女だなぁ」と笑われる。
たくましい両腕に抱かれ死地を共に脱する。阻む者を打倒し、自分の魔法で追撃隊を退けるのだ。そうして苦難を乗り越えた二人が行き着く先がーー
「言えませんっ!」
「えっ、なんで二回。」
ルリはハッとして、雑念を振り払った。
「いけばわかります。きっと待っていて下さります。聖騎士様は。」
二人は力強く踏み出した。