まどろみの中…の1
どこかで誰かが自分のことを呼ぶ声が聞こえる。
彼女は遠くから自分の姿を見つめている。そんな感じがした。まるで魂が抜け出てしまったかのように、ふわふわと現実感のないままのどかな平野を漂っていた。
呼びかけていた男が遠くにいる自分に駆け寄ってくる。自分はどうもその時怒っていたようだ。
「す、すみません巫女様。何かがお気に召さなかったんですよね。」
「………。」
(…私とキーウィです。)
まだ二人で旅をしていたころ。そしてこれから、あの人に出会う時。ルリは過去の自分をまどろみの中に見ていた。
「荷物持ちますよ。重そうですし。」
キーウィは気を利かせてルリに手を差し伸べる。ルリは寝具の一切を自分で持っていた。自分の身の丈の半分以上のバッグを背負い、肩を怒らせて歩いている。
「いいです。」
とても、ぶっきらぼうに答える。
キーウィは困惑しっぱなしである。これからの道のりは大変だろうとルリごと背負おうとしただけなのに。一体何がいけなかったのか。ぶつぶつとキーウィは何かをつぶやいていた。
(これから先がすごーく心配です。次の人も変な人だったらどうしよう…。)
キーウィはとにかく、気を遣うつもりがあるのだが、残念なことにそれらはことごとくどこかずれているのだ。
気まずい沈黙が周囲に流れる。
ヨタヨタと、なれない大荷物のせいで足取りが覚束ないルリであったが、それをキーウィに助けてもらおうとは思わなかった。自分の寝床は自分で持ちます。と故郷で宣言した以上引っ込みがつかなかったのと、あまり慣れていない男性との二人旅で心配事も多かったからである。
「次は力持ちの女の人がいいですねえ。」
「…みなまで言わないでください。」
キーウィはたまに人の心を見透かすようなことを言う。悪意がないので責めるに責められない。
(だけどせっかくの旅の仲間ですから…このままではいけないのも事実。何か話題を…。)
「野営、とかはできます?」
「キャンプですか?任せてくださいよ。」
声をかけられたキーウィはトンと胸のプレートを叩く。
「あの、私、そういうのをこれまでやったことがないので。もっというと、この寝袋もこの間買ったばかりのもので。困ったことがあったらキーウィに聞いても大丈夫ですか?」
ルリがキーウィにちょっと顔を向けた。
「おっ!もちろん!何でも聞いてください!わからなくてもなんとかなりますよ!」
それを聞いてホッと一安心。ルリは胸をなでおろした。キャンプは旅立つ前から結構楽しみにしていてテントも寝袋も周りの者に訊ねながら一つ一つ自分で選び抜いたものである。
(テントはキーウィと一緒に頑張って張って。あとはお風呂…。)
次の街までは少し遠い。徒歩で行くならきっとその途中で日が暮れてしまうだろう。多分ここではじめてのキャンプができる。
キーウィの問題はおいといて、ルリは今から楽しみであった。