うっかり敵にさらわれる…の10(終)
「…この先に天神様がいらっしゃるのですよね。」
「ええ。」
神の力は海神のところで目の当たりにしたように、その聖域全土に行き渡る。そしてその結果が、もとの世界に影響を与えていく。海神ビニアスの世界での激流は、ルリがマナを捧げる際に、世界の平和を願った結果であった。
「ではこのまま進みましょう。」
ルリのようやくの返答に、レンリを含めた紫の集団がどよめいた。早速列をつくりルリを神殿の奥へと連れて行こうとする。
「ただ、みなさんがここまで来た私の護衛を見捨てようというのであれば…」
ルリが落ち着いた声で話し始めたせいで、一瞬ここにいる者たちの思考が止まった。
「私はなによりも四人を助けることをお願いします。」
皆唖然とする。
「……それは、私の話を聞いた上でのこと…ですかな?」
レンリが動揺をなんとか抑えつつ、突然反旗を翻した巫女様のご機嫌をうかがう。
ルリはそうだ、とうなずいた。
「あなたがたがなんと言おうと…私のことをここまで守ってくれたのは彼らです。だから…ここからすぐに助けに行けないのなら私は、私のやり方でみんなを助けます。」
「やはり巫女様はお若い!」
レンリが天を仰ぎ大げさに嘆いてみせた。
紫の集団も「それでは奴らの思うツボ」だの、「ここまでたぶらかせるとは」だの好き勝手言ってくれている。
「それがお嫌なら、すぐに元のところに戻りましょう。」
ルリはそれまでの迷いを払拭するように力強く語った。自分の中ではっきりと意識が変わったのがわかる。だがそれはなぜなのだろうか。
今はまだわかりそうもなかった。
「さあ、お決めください。私はどう合っても彼らを助ける道を選びます。」
胸を張ってまだまだ未熟な少女が、精一杯の仁王立ちをした。
だが、紫の集団もこうなったときのための手段を用意していたようであった。渋い表情をしたレンリがマスクをかぶる。紫の集団が地面に何かを叩きつけた。
すぐさま立ち込める不穏な煙。はっと気づいた時には、ルリの目の前が歪み、紫の集団の足元に倒れていた。