うっかり敵にさらわれる…の9
アルバートが撒いておいた不安の種が今になってようやくルリの心に根ざしてきた。
「レンリ先生を信用したいのに、本当のことかわからない…。」
「大丈夫です。我々とともに来れば、すべてが正しい方向に導かれます。」
「なぜ…そんなことが言えるんですか?」
一向に首を縦に振らないルリ。それに対して答えられるものはいなかった。
「こちらを。」
ただ一人レンリを除いて。
手渡された紙にはメジスティの紫の集団と、ラルドの街のレンリとの間に交わされた契約書である。それによると、確かに彼らはメジスティの元首の命によって動いており、レンリはその行動を支援する旨が記されていた。
「この意味するところはつまり、その印からみても勅命であることは間違いなく、彼らの行動はきちんと正当な手続きを踏んだものということになります。巫女様、あなたは、あなた様の運命は大国によって歪められようとしているのです。」
「でも…」
みんながなんの嘘をついていたのかは知らないじゃないですか!
そんな発言も許されることなく、まくしたてられてしまう。
「そもそもはじめに述べたように、そのあたりの傭兵に頼むのが間違いなのです。そしてもう一つ。」
レンリは指を突き立てた。
「天変地異の頻度は増しているものの、人々は普通に生活を続けているのです。」
ルリの頭の中にこれまで回ってきた街が思い返された。たしかに、どこの街でも普通に生活をしている、普通ではなかったのははぐれ物や、自分を狙ってきた者ぐらいである。
「おかしいでしょう?なぜそこまで躍起となって、守りも不安なままあなた様に旅を急かさせるのか。」
レンリは礼をする。
「確かに我々もこの天変地異を収めたい。そのために粛々と各地を回るだけでいいのです。……これは、私の占い師としてカンではありますが…お嬢様、あなたの願いを途中で違うものにすり替えようと誘導しているのではないかと。」