うっかり敵にさらわれる…の5
本当の虫になったかのように、アルバートは手足を動かして砂の壁を這っていく。じれったいが、ここで焦っては体力が続かない。彼らのなすべきはルリを取り戻すことである。沈まないリューサの頭の上で三人は治療と装備の確認を行っていた。
誰一人として、キーウィすら口を開くことなく目の前のことに集中している様子であった。
アルバートも一心不乱になって砂の奥深くに自分の手足を突っ込んでいた。少しずつだがその先、穴の終わりが視界に入って来ている。
(ちくしょう…)
言葉には出さないが、皆今回の失態を悔やんでいた。中でも深く反省をしているのはフリティア、そしてアルバートである。警戒していたのに、まんまと連れ去られてしまった。巫女様はホイホイ信じやすい性格。だからこそ自分たちがしっかりしていなければならなかったのだが。
アルバートがようやく穴の縁に手をかけた。
自分と自分を連れてきた老人に対してかしずく紫のローブの集団。彼らを目の前にして、救世の巫女は怯えきっていた。その心に反応してこのあたり一体にいるもの全てが首を締め付けられるような息苦しさを感じている。
「手荒な真似をしてすみませんでした、お嬢様。」
「…レンリ先生?これは…一体どういうことです?」
自分の仲間と無理やり引き離されてルリは不安と、そして怒りに満ちていた。それでもまだ正気を保てているのは、おそらく占術師レンリに直前まで信頼をおいていたせいであろう。
「ご安心なさい。我々は味方です。」
ルリはその場にいる者たちを恐る恐る見渡す。だが皆フードを深くかぶっているせいで誰一人として表情が読めない。にわかには信じられない話である。
「よいですか。」
レンリはルリに向き直った。
「実はあなたの周りにいたあの者たちこそ危険な者たちだったのです。」
「そんなはずないです!私、ちゃんと村から出るときに聞いていました!」
だがレンリは首を振る。
「本当ならば我々が最初からご案内せねばならないところを、誰かが情報を盗んだのか、漏れていたのか…我々の目的を邪魔をする者たちによってあなたの身が奪われていたのです。今の今まで。」
ゆらり、と風に吹かれたようにレンリの体が揺れた。
「巫女様。これからは我々が御身をお守りします故。」
レンリの言葉が遠くから響いてくるような感覚であった。