うっかり敵にさらわれる…の2
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リューサは吸血生物であった。水のない世界で、喉の渇きを潤すのならばはやり生きているものから直接奪うのがあっているのだろう。しかしそう簡単に手に入らない代物なので、獲物の方から見事に転がり込んでくれた時こそ千載一遇の機会。まんまと取り逃してしまうということは絶対にありえないよう、がっちりとつかんで離さない。
獲物の中でも人間は特に栄養があって、好物であった。警戒心が薄く、食べられない鎧の下にぜい弱な肉体を隠している。武器さえなければ何もできない最もパフォーマンスの良い食べ物である。
このリューサもこの機を逃すはずはなかった。もがく人間を気にも留めず無数の管を使っておいしそうに生き血をすすっている。しかも今日は獲物がまだまだ残っているのだ。久方ぶりのごちそうである。
獲物を落とすための滑らかな砂によって足腰を支えることが困難になり、それによって攻撃力もどうしても下がってしまう。穴に落ちた時点で冒険者の命数は決まったようなものである。理リューサを傷つけようとフリティアが根元まで駆け寄って斧を振るうが煩わしそうに体を回転させるだけで文字通り刃が立たなかった。
「あっ…足…切り落としてください!」
化け物の口元でがっしりと止められながらキーウィがまたとんでもないことを言う。
「まて!もう少し踏ん張りやがれ!」
突破口を探す。考えている間はないのでできることをすべて試す。
(ルリがいれば…!)
ルリの巨大な魔法であればリューサにきちんと通る攻撃ができたであろう。だが、肝心の彼女はどこかに連れ去られ、この場にいる魔法使いは回復魔法を使えるオーギのみである。
「硬化魔法!オーギ!キーウィにとりあえずそんなかんじのやつをかけることはできないか!」
「すでに施しています!しかし皮膚の周りにマナの固い殻のようなものを作るので、噛みつかれている足の部分に関しては影響がありません!」
「つまり…あ、足を切り落とすことも無理ってことですか…!」
キーウィがまだこだわっている。
「風を起こして砂を巻き上げることは!?」
フリティアが斧を休めることなく必死に伝える。
「…わかりました!」
オーギはその場で構えようとするがやはり砂によって下に運ばれてしまう。
「わかった!わかった!俺を踏み台にしろ!」
「なんと!」
アルバートは転げるようにオーギの足元へと潜り込んでいった。オーギは言葉を交わすことなく、砂をつかみ横たわるアルバートで足を止めた。一緒に滑り落ちていくが先ほどより速度はだいぶ落ちている。オーギは自分の両脇に棒を深く突き立てる。アルバートは手と足をそれに引っ掛けた。
重力とオーギの巨体がアルバートのつかんでいる棒に重くのしかかる。だがアルバートはこらえた。オーギのあの一撃の強さを信じていた。
落下が緩やかになり、オーギはようやくすり鉢の巣穴に直立することができた。大きく、深く呼吸を整え拳を強く握る。砂地に手を置いたときアルバートが声を放った。
「まて!あご!奴の顎を先に攻撃してくれ!キーウィの解放が先だ!」
「承知!!」
破ァッ!!
雲を突き抜けるほどの気合の一突きから、衝撃波が周囲に伝わる。
砂埃を巻き上げリューサの頭を左顎から突き上げた。左の牙が根元から折れる。
リューサが悲鳴を上げる。
キーウィは地面に落下した。その拍子に足に突き刺さっていた管もことごとく抜けてしまった。