表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
11/211

世界が闇に包まれる…の11

 やがて夜も更けて。月影も届かぬ森の奥まで暗がりが広がった。今目の前にある、廃坑のトロトロとしたランプの炎の揺らぎだけが唯一の明りである。

 夜行性の動物たちが森で狩りを楽しむ間、騎士と勇者と寸胴鍋は打ち捨てられた廃坑の入り口付近に潜んでいた。

「…誰も出てきませんね?」

 アルバートの予想では最低20~30人の強盗たちがいる。入口は大切なので見張りぐらいたてると思ったがその様子は先ほどから全く見受けられない。それ以上に中から人の気配すらしない。

「もう中はいってみますか?油断して帰ってきたところをこう…ざくっと。」

 キーウィは素手で長剣を振るふりをした。

 ガス爆発のあった危険な洞窟である。当然袋小路だろうし奥のほうに何があるかは全く分からない。死地に赴いてどうするつもりだ。

 しかしそうはいってもあまりの静けさにルリすらも緊張感が薄れ始めているのが分かった。少し眠たそうに自分の体を守る寸胴鍋に寄り掛かるようにしてコクリコクリとぬかずいている。

「何か投げ込みましょうか?」

「ヘビじゃねえんだから。」

 とは言ったものの中の様子を探る一つの手ではある。キーウィのベルトにまだついていた腐った汁の球を投げ入れることにした。

「全部投げとけ。」

「え、なんか他にも使う時ありませんか?」

「外だとあまり影響が少ないだろ、空気のよどんだ狭い空間に投げ入れられるから効果が出るんだよそういうのは。」

 キーウィのずぼらさがここにきて役に立つとは思わなかった。見てるだけで臭いがしてきそうで気分が悪くなる濁った柔らかい球をここですべて処理できる。

 アルバートは眠たそうなルリのそばに体を寄せた。安心しているのかルリはそのままアルバートにもたれ掛かろうとする。

「こら。」

 アルバートはかつんと鍋の底を小型のナイフの柄で殴った。

「寝んな。」

「ご、ごめんなさい…」

 頭に響く音に驚いてルリも少し目を覚ましたようだ。

「いきますよー!」

(キーウィのアホめ、声上げんなよ!)

 威勢よくバチャバチャ軽い音を立てながら汁風船が坑道の入り口付近にぶちまけられていく。ここからはわからないが中は相当な臭気に襲われていることだろう。キーウィが歩きながらルリたちの元へ戻ってくる。

「何の反応もないです。」

「は?」

 あんなもの投げ入れられてさすがにそれはないだろう、と思ったが、お陰で一つ予想が立てられた。

「あいつらもしかして道路で襲ってきた10人で全員か?」

 宿の主人がガセネタをつかませた可能性も確かにあった。だが昼間にそんなこともあろうかと裏をとることをアルバートは忘れていなかった。そのタイミングで廃坑が制圧された経緯を聞いていたのだ。ここを根城にしているのは間違いない。不摂生な体躯、不揃いの装備、全く取れていない統率。

 そうこう思案しているうちに坂の下からゲラゲラと下品な笑い声が聞こえてきた。

「…どうやらお出ましのようだな。」

「いきますか。」

 喜び勇むキーウィをアルバートが引き留める。まだその時ではない。

「廃坑の中に押し込むんだ。狭い通路まで下げさせれば同時に戦う相手が少なくて済む。」

 隘路で先頭をして敵側に遊兵を作るのは悪くない作戦だろう。キーウィもそれに従った。

 果たして本当だった。ガラの悪い男たちが10人。おそらく大飯食らいが多いのだろう、あの寸胴鍋でスープ一人三杯までお代わりできる計算である。ランタンを揺らして大きな影を作りながら、今日の成果を口々に言いあっている。

「イヤー、全然通らねえな!」

「腹減ったよ!」

「ちょっとくらい分けてくれってんだよな。」

「昨日の奴らからなんか盗れてればなあ…」

「今日も草茹でで我慢しようぜ。」

「もーあれ飽きたわー」

 何という食事上だろうか。(草茹でってなんだよ、まさか雑草の類か?)と3人はあまりのひもじい食卓に驚愕してしまう。ガヤガヤと文句を口にしながらそのまま何の警戒もすることなく住みかである廃坑に入っていった。だが、やがて叫び声が聞こえてくる。

「くっせえええええええ!」

「なんだ!誰かションベンしやがったか!?」

「おいおい、マジかよ勘弁してくれよ!」

 アルバートたちは廃坑の入り口へと踊り出る。

「あの…ちょっと気が引けます…。」

 どうも奴ら強盗団はまともにご飯を食べられていないようだ。しかし改めてみてみるとあの規模ではもはや「団」どころではなく「同好会」レベルである。

「悪人相手に何ためらってんだ。」

 アルバートの瞳は厳しかった。

「あっ入り口に誰かいるぞ!?」

「武器も手なんか来てる!」

 くさい汁の上に突然の来訪者で坑道内は大混乱である。アルバートは中に突入する前に布一枚、ルリの顔した半分に巻き付けた。

「キーウィまっすぐ進め適当に蹴飛ばして奥に押し込む。」

「あい!」

 男たちが群れを成して突撃をしてきた。

 アルバートは戦闘の男の鼻頭を蹴る。怯んでのけぞったところに強く肩を当てた。

 斧を振りかぶる男の胸をキーウィが槍の柄で貫く。

 倒れた男たちが坂から転げ坑道の奥へと落ちていった。強盗同好会は近づくこともできぬまま二人の男にどんどん坑道の奥深くへと追いやられていく。

 坂の下から見上げる二人の男の目はこの暗闇でどう光っていたのか。あまりの実力の差に打ち震えることしかできなかった。

 不運なことはいつでも起こる。

「あっ!」

 寸胴鍋が間違いだった。下履きを何重にしたのも歩きにくかったのだろう。坂につまずいたルリが滑らかに転がりながらキーウィとアルバートの鉄壁をいとも容易く越えていった。

「ああああああああああああ!!!!」

「ルリッ!!!」

「巫女様ァ!!!!」

 大慌てである。

 上からゴロゴロ猛スピードで転がって来る何かに驚いてならず者たちは道をさっと開けてしまった。その後に続いて先ほどまで自分たちを圧倒していた男たちが追いかけていく。下り坂は重いほうが早く下りられる。キーウィは横に分かれて道を開けるならず者どもをものともせず弾き飛ばすように駆け抜けていく。アルバートはそのあとを軽やかに走りながら、左右の強盗に近寄らせないよう蹴る殴る、体当たりをする。

「巫女様!ご無事ですか!」

 ようやく岩に引っかかって止まったルリの元へキーウィが近づいた。

「な、なんとか…すみません…。」

 息も絶え絶えである。まだ少し目が回るのか目の焦点が定まらない。

「キーウィ!ルリ!返事はできるか!」

「はいー!」

 ずいぶん離れた坂の上からアルバートの声が聞こえる。キーウィはルリの身を助けながら、転がる心配のない、平たんな場所に少し移動した。

「お怪我は?」

「少しだけ…でもアルの用意してくれた装備のおかげで大丈夫ですよ。」

 薄暗い洞窟の中でルリが笑って見せる。

 一方でアルバートの方は危険だった。

「へっへ…誰かと思ったら旦那、昨日お会いしませんでしたか?」

 形勢逆転である。袋のネズミは今度はこちらだ。しかもキーウィは今ルリの身の安全を確保している。自分一人で何とか捌かなければならない。しかも自分たちが投げ入れた、腐った汁が強烈でかなり精神的に苦痛を与えられている。

「ルリに布巾を渡したのはまずかったか…?」

 猛烈な悪臭に顔がゆがむ。同時に二人も三人も相手にすることになった。アルバートは腹をくくり剣を抜く。

 その瞬間手前の2,3人が一斉に襲い掛かってきた。

 アルバートは長剣で相手の武器をはじいていく。つばぜり合いなどしている場合ではない。後方には動けない巫女とその手当てをしているキーウィがいる。これ以上引くことはできなかった。

 アルバートはベルトに手をかけ愛用のナイフを取り出した。右手に長剣、左手に短剣。遮二無二襲い来るならず者たちの、振り回す武器だけを二つの剣ではじき返してく。

 上から来る攻撃は一つ一つが重く苦しいものであった。アルバートの額から脂汗が滴り始める。敵は効率を覚えたのか後ろの者と交代してアルバートの体力をそいでいく。武器をはじ枯れるのももはや付き合ってやっているだけ、といった感じになってきた。

「アルっ!アルゥッー!!」

 突如下からルリの叫び声が聞こえる。何があったのか。

 何もない洞窟内が狂風で吹き荒れた。洞窟の底から轟音が地獄のように鳴り響いて辺りを揺るがす。彼女の高い声が澱んだ空気を引き裂いていく。

 あまりの不吉な様子にならず者たちも一瞬足がすくんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ