全てを見抜かれる…の2
信頼は相手の言葉を引き出す。アルバートはよくわかっている。レンリによってあれよあれよという間に、旅の目的のだいたいを把握されてしまった。
「どうしてもそちらに行きたいのですね?」
レンリは優しくルリに語りかける。ルリは疑うこともなく、すなわちアルバートが止める間もなく、頷いた。いいように心を操れている。
「お嬢様はなにか特別な思い入れがおありでしょう。不肖、レンリがあなたがただけ特別にご招待いたしましょう。」
心を操るというのは何も魔術の類じゃない。相手の疑念を振り払い、自分の言葉に従う、自分の行動に反応する、そういう関係を構築するような動きのことを言うのだ。凄腕占い師の遠いようで身近な肩書がそれを後押ししている。
アルバートはルリに、リングを渡したことを後悔した。
「しっ、おい…!おい、ルリ。」
ヒョコヒョコとついていこうとするルリをアルバートは遮って耳元でささやく。これ以上言うことを聞くのはまずい。自分の勘がそう言っている。
「?アル、どうかしました?」
「あんまり知らんやつを信用しすぎるなよ、この旅は極秘任務だろうが。」
世界を救う旅。善良な一般市民にそれを語ったところで感謝はされども、まさか非難されるようなことはないだろう。
アルバートの警戒っぷりがルリにはおかしかった。
「ふふ、アルってば…。そのせいでオーギとうまく連携が取れずに立ち往生したのは聞いてますよ。むしろ疑い過ぎなぐらいです。」
職業柄、とでも言えればいいのだが、彼の立場は今や聖騎士。後ろ暗いことなどルリたちから見てみれば、何もしていないはずなのである。
「レンリ先生はすごい魔法使いです。私の思い描いたことをどんどん当てていく。こんなことは心が清らかではないとできませんよ。」
はいはい。
「カマかけられてただけだよ。占いっていうのはちょっとしたことから相手の情報を引き出していく。ルリだってわかってただろうそれぐらい。」
「…じゃあなんですか、私がホイホイ答えるからまるで当たっているかのように見えるだけだと?」
「その通りだよ。」
その時キュッと首を絞められるような息苦しさを感じた。もちろんルリはそんなことをしたりはしない。だが不快感を顕にしていることは顔を見るだけでわかった。
「あ、や…」
アルバートが謝ろうとすると、気配の変化を察したレンリが先に声をかけた。
「お嬢様、いかがされた。もうそろそろ着きますよ。」
いつの間にかあらわれた、チャペルに似つかわしくない厳かな回廊の真ん中で、レンリがルリを手招きしている。
「あ、はい!今行きます!
ルリがレンリのもとへかけていく。彼女はちらっとアルバートの顔を見ただけでそれ以上は何も言わなかった。
「今、喧嘩してました?」
キーウィが首を突っ込んでくる。
アルバートはそれに答えることはなかった。
感情が先走ってしまった。自分らしくない忠告の仕方である。
(何に焦ってるんだよ、俺は…)
アルバートは老人と並んで歩く少女の背中を見つめた。