家に帰ろう
初めまして!
初心者ながら、毎週投稿させていただこうと思っています!
よろしくお願いいたします!
リア充滅ぶべし、君はそう思わないかい?
俺は、そう思う。
だって、あいつら人様の目の前でいちゃつきやがるんだぜ?
視界の端にも入れたくないっつーの。
ま、それはまた無理なんだけどさ。なぜかって?
こんなんでも、俺は集団でまぶしい陽光フラッシュを放つクソ陽キャリア充共の集まるクラスのまとめ役を担っている者だからだ。
と言っても、別にそこまでクラスの中心でいるわけではないんだけどね。
俺はただ、みんなの意見を汲めるところだけ汲んで、どうしようもないところだけ切り捨て…
それでも、皆からの人気は高いそうで。
きっぱりとしてるって、よく言われてる。
俺…そんなにズバズバしてんのかな…
何て少し気にかけつつ、今日も長かった学校生活が終わる。そしてやっと放課後…
「ああー!終わったぁー!」
思わずそんな声が上がってしまった。
席から立って、真っ直ぐに扉に向かう。
あー、このあと何しようかな。
有り難いことに、明日提出の宿題はない。
よし、ネトゲ徹夜するか…。
でもな、どうせ開けたらあいつが居るんだろうからなぁ…。
そこまで思考が進んだところで、ちょうど教室の扉までたどり着く。
あいつがいない可能性の翼をはためかせながらゆっくりと手にかけた戸を引く。
ガラッ「遊ぼ……」ピシャリ。
やっぱりいた……。
なんなんだよ毎日よぉ…。
こちとら授業で疲れてるんだよ…。
『おーい、開けてくれ……』うるせーよ。
だが、この扉を開かない限り、後に待っているネトゲ天国にはたどり着くことはできない。
くっ、こうなれば…。
「居るか!」
「はい!ここに『ガッシャン』痛った!」
威勢良くその存在を伝えつつ、頭上にあった机に頭を強打し手で押さえている俺の親友。こいつとの出会いには色々と、本当に色々と有ったんだが、時間がないので今は割愛。
俺はさすっている頭に小さく膨らんだたんこぶが有るのを確認すると、なるべく王様っぽく命令する。
「扉の外にいるあいつを直ちに排除しろ。怠いんだよ」
「承知」
短くきっぱりと命令を受諾すると、親友は素早く扉前へと移動する。
と、行っても狭い教室内ではそこまで距離はないんだけどね。
扉の向こう側にいるあいつにたいして、下僕が放っている殺気を俺が感じた頃にはもう、扉の取っ手にリーチがかかっていた。
いや、あれは違うな。
どっちかっていうと……、あれは外からあいつが開けようとしているのを押さえているのか。
――いや、たしかあいつ握力65あったよな?
前に俺の目の前で満面のドヤ顔でリンゴを握りつぶしていたあいつの姿が脳内をちらつく。
それを片手で平然と上回るあの子……いったい何者!?
同様を隠せずにいる中、辛うじて俺はそれを振り払ってして更なる命令を下す。
「もしどうしようも無かったら……………、しめちゃっても……いいよ?」
苦渋の決断っぽく、下僕の耳元で囁く。
その刹那。下僕の耳がピクッ!のを、俺は見逃さなかった。
下僕は俺を、『ホントに?』とでも言いたげに可愛らしく見つめてくる。
俺は優しい顔で、にっこり微笑んで首肯する。
悲しいかな、俺は下僕が刑を執行する瞬間を見ることが出来なかった。
俺はまばたきをしてしまったのだ。
目を開けたときにはもう、あいつと下僕は扉のもとには居なかった。
ま、いずれにせよ難は去った。
ならば、俺のなすべきことはただ一つ!
ネトゲに浸れ!
・・・
と、いうことでやって参りました愛すべき我が家の目の前。
今日はあいつがいないお陰で、平穏な下校を成すことができた。
マジ、親友様様です。
ありがとな、夏音。
心の中で親友という名の下僕に感謝を伝える。
でも、行使し過ぎるのも夏音に悪いと思うし、本当にどうしようもなかった時だけ、ということにしよう。うん、そうしよう。
あいつも、俺の下僕になるなんて運が悪いよな。
顔だって整ってる方だと思うし、俺なんかといるよりあいつのファンと一緒にいる方がいいんじゃないか?
たまーに、あいつが放課後美少女に飢えた猛者共をお払い箱にしてるの見るしな。
あんだけ滅多うちにされるのにへこたれない猛者共、祝福あれ。
うーん。
でも、本人は嬉しそうにしてるし…。
難しいところだけど、本人がそれでいいならしばらくは現状維持でもいっか。
あー、駄目だ。
ネトゲやりたすぎて思考が働かぬ。
じゃ、いきますか。
リン○、スタート!
心の中でパロゼリフを叫びながら、門を潜る。
あ、やべ。鍵持ってくの忘れてたなー。
ま、いっか。
うちには今、両親はいないがあいつがいるはずだ。
俺はいたって冷静にインターホンのボタンを押し、端的に「開けてくれ」と中にいる家族と呼ばれる人類に伝える。
「早く開けてくんないかな…」
十五秒ほど待ってボソッと呟くと、タイミング良くガチッ、と鍵を開ける音が二回、鼓膜に届く。
ガチャリ、とノブを回す音がして、扉が重々しく開いていく。
半ばまで開いた扉を俺が受け継ぎ、片手で押さえたままマイホームの中に入っていく。
扉から手を離し、靴を脱ぐ。
乱雑に飛び去った、Gのように黒くテカる革靴を揃え、扉が閉まったところで、扉を開けてくれた存在に一言――
「早くネトゲやりたくて、後お前に会いたくてさっさと帰ってきた。ただいま」
――それを告げると、
「お帰りなさい!お兄ちゃん!」
かわいい妹の、かわいい声が帰ってきた。
俺は目の前にいる癒しの妹の頭を優しくポンポンと叩き、撫でる。
すると、妹である紗苗はくすぐったそうに身をよじって、
「ネトゲ用のパソコンはいつもの部屋だよ!」
と嬉しそうに答えてくれる。
「いつもありがとな。じゃ、部屋にいこうか」
俺は学生鞄を玄関に放置し、妹を優しく抱き上げ、おんぶする。
妹に辛くないよう、前傾姿勢になることで前に重心をずらし、階段を上る。
重くはない。
むしろ、死ぬまでやってたい位だ。
階段のカーブがちょっとした難所だが、俺は難なくクリア。
階段を無事上りきり、名残惜しくも、妹を床にそっと下ろす。
うちには妹と俺に各々の部屋は与えられていない。
なので、この部屋を二人で兼用しているのだ。
母さん曰く『お金もないし、兄弟仲良くしてほしいからね。もちろん、仲良くしてほしいって言うのが本音』だそうだ。
当時の俺は「ヘーソウナンダヘー」と軽く聞き流していたが、今となってはナイスだ、母ちゃん!と言いたい。
今度肩揉んであげよ。
さてさて、いざやりますか!
今日も、妹は俺のネトゲ対戦を観戦するようだ。
俺は、胡座をかいた体の真ん中に、妹を抱える。
あー、これだけでのマジ癒しですわ。
そうして、至福に包まれながら俺はネトゲを立ち上げる。
あ、いい忘れていたことが、一つだけ、あったっけか。
ネトゲの前に言っておかねば。
既に皆さんお察しかもしれないが、俺――――――――――五十嵐葵衣は、俺の妹―――――――――五十嵐紗苗をこよなく愛する、シスコンで、ある。