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59.私はあなたと通じ合いたい ~I wish to communicate with you.~

すっかり日が暮れた山の上で、私たちが見たものは、視界一面に広がる無数のオレンジの光だった。その光の正体は、山のふもとに連なるフォクスロッテの街の灯りで、ここが世界でもトップクラスに美しい夜景の街だというのが誇張でもなんでもないことがよく分かる。なぜこの街がこんなに美しいオレンジ色の灯りに包まれるようになったかというと、貿易の盛んなこの街は昔から他国の最先端の文化を取り入れており、北の大陸で一番最初にガス灯が設置されたのもこの街だった。それから電灯が広く普及するようになってからもこの街では……。


「七海、さっきからぼーっとしてるけど、大丈夫?」


「ん、あぁ、大丈夫、大丈夫。」


手すりにもたれて一緒に夜景を眺めていたセーラの声で、私はこの街の悠久の歴史から現実世界へと帰ってくる。つい心が逃げ出しそうになってしまっていたが、ここは泣いても笑っても私の決戦の地なのだ。今から、この場所で、私は彼女に思いを伝えようとしている。


「恋人の聖地」として知られているだけあって、私たちの周りは恋人達らしき人々で溢れかえっていた。数は多くないものの、プロポーズらしきことをしている人たちだってちらほら見かける。だから、周りの空気も手伝って思いを伝えるには抵抗が少ない場所であるように私には思われた。


とはいえ、目の前のセーラの様子を見るとやっぱり緊張してしまって、なかなか思い切ることが出来ない。大体ただでさえ、こんな経験人生で一度たりともしたことが無いんだ。それなのに、こんなロマンチックな場所で、相手は私と同じ女の子、しかも金色の髪に青い瞳の「人形みたい」という表現がお世辞でもなんでもなくそのものを表しているような美少女に向かって、私が「告白」をするなんて、この世界に来るまでの私は1ミリも想像することが無かった。


でも、今は違う。なぜなら、先に思いを伝えてくれたのは彼女の方だったからだ。セーラが勇気を振り絞ってくれたのだから、私だって同じように勇気を振り絞って彼女の思いに応えたい。ただその気持ちのみが私の背中を動かす原動力となっていた。


拒絶されたらどうしようとか、セーラは私の言葉をどう捉えるのだろうかとか、異世界から来たという私の話を今度は信じてくれるだろうかとか、信じてくれたとして、彼女は私を受け入れてくれるだろうかとか、考えれば考えるほど不安要素は湧き出てくる。けれど、そんな風に悩んでこのチャンスを逃してしまえば、きっともっと悩むことになる。勝負はここで決めるしかないのだ。


「セーラ、あのね。」


私はその言葉から話を切り出した。彼女がゆっくりとその青い瞳を私に向けてくる。すべての始まりの合図、ここから先は、階段を転げ落ちるサッカーボールのように、壁にぶち当たるか誰かに受け止めてもらうまでノンストップになるだろう。


「私たち、コーラル・マーメイド号で一緒になってから、本当にいろいろあったよね。セーラが『人工呼吸』で私を助けてくれたり、不審者から私を守ってくれたり、覚えてる? ううん、それだけじゃなくって、私がホームシックになった時も、慣れない船で気分が悪くなったときも、いつもセーラがそばに居て私を励ましてくれたんだ。」


「七海だって、ソアラが私を海軍に入れようとしたとき、一生懸命に説得してくれた。」


私の言葉をそれまで何も言わず黙って聞いていたセーラが、優しい声でそう言った。あの時の感情的な自分の姿は今思い出すとちょっと恥ずかしいけれど、セーラの中ではその姿が印象的に映っているらしい。


「そうだね。コーラル・マーメイド号で同じ時間をセーラとずっと一緒に過ごしてきて、楽しいことも怖いことも面白いことも恥ずかしいことも、いろんな経験をしてるうちに、なんというか……段々、気づいてきたんだ。」


「気づいてきた?」


「うん。私にとって、セーラは普通の存在じゃないってこと。」


私は若干遠回り気味に、自分の気持ちを打ち明けはじめた。一方で、「普通の存在ではない」と言われたセーラはその大きな瞳をさらに丸くして私の話に耳を傾けていた。


「普通じゃないってことは、私どこかおかしいのかな?」


「あはは、そうじゃないよ、むしろその逆。私にとってセーラは、普通じゃなくてもっとこう、無くてはならない存在。少しでも離れるとそわそわして落ち着かなくて、どうしようもなくなるような、そんな存在。もちろんマリさんやポーラとも離れたくはないけど、セーラとは一日中、いや一年中、いやいやもっとずっと一緒に居たいんだ。」


「私も、七海とずっとずっと一緒に居たいよっ!」


セーラは相変わらず優しく、しかし芯には隠しきれない懸命さや真剣さの混じった相槌を打った。


「そう。だから、この気持ちのことを、『私はセーラのことが好き』って、そう言うんだって、私は思う。」


回りくどい言い回し、はっきりとしない推測、不格好な言葉、でもこれが私のありのままで、飾らない私自身の言葉なのだ。嘆いたってしょうがない、あとは彼女に、セーラに、この言葉が届いて通じ合うことを願うのが、私に出来るすべてだった。

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