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48.水先人は指示された時間に到着するだろう ~Pilot will arrive at time indicated.~

コーラル号が入港した次の日の午後、私とセーラは二人で船内のメインエントランスへと向かっていた。そこは私たちとわかばの5人が温泉浴場に行くための待ち合わせ場所であり、待ち合わせの時間まではあと5分少々と言ったところだった。私とセーラは午前中にお仕事、マリさんとポーラは深夜まで船内劇場で誘導係をしていたため、部屋で仮眠中、航海部門のわかばは入港中はお休みとみんなの行動がバラバラになっているため、5人が一番集まりやすい船内中央のこの場所で待ち合わせをしてから浴場に行くことになったというわけである。


私は仕事が終わって更衣室で着替え、5分で出発準備を完了したものの、セーラはそうはいかないらしく、温泉に果たして必要なのか分からないものを荷物として持っていこうか持っていくまいか悩んだり、前髪の形が気に入らないとかでいつまでもいつまでも準備が終わらないでいた。


「結局水に濡れるんだから前髪整えても一緒じゃない?」


私が悩み続けるセーラにそう声を掛けるも、「そういう問題じゃないの!」と一蹴されてしまう。確かに海と船に執心するあまり、髪型とかそういうことに関しては平均的な女子よりもかなり無頓着な私と、元いた世界なら絵本の中くらいでしか見たことの無いような美少女であるセーラとでは、考え方に違いが生まれてしまうのも仕方の無いことである。というか本当はむしろ私がもっと気を使うべきなのではないだろうか。私とセーラとの間に存在する、些細なようでいて実は高いかもしれない壁に思いをはせていると、時間はすでに集合10分前。私は慌ててセーラを急かし、こうやって待ち合わせ場所へと向かっているというわけである。


メインエントランスに到着したのは集合時間の5分前を少し過ぎたところ、しかし指定の噴水の前にはわかばの姿しかなかった。彼女は私たちを見つけると、飛び跳ねながら手を振ってきた。


「私、友達とこうやって入港中に上陸するの、一度やってみたかったんですよ!だから今日が楽しみで楽しみで、昨日の夜は中々眠れませんでした。」


声を弾ませてそんなことを言うわかばの姿は、彼女の小柄さもあいまってまるで遠足前の小学生のような雰囲気さえ漂っていた。ただ、本人に言ったらさすがに怒られそうなので、これは胸の内にしまっておく。


「マリさんがまだ来てないのは珍しいね。」


「ですね。マリ姉さんはいつも予定の10分前には準備を整えておられるような方なのですが」


セーラとわかばは、マリさん達がまだ来ていないことを不思議がっている様子だった。しかし私にはわかる、マリさんはポーラと一緒に自室で仮眠を取っている。この状況が意味することと言えば……。


「ちょっとポーラ急ぎなさいよ、セーラ達が待ってるでしょうが!」


「いやよく見ろよマリ、集合時間まであと20秒あるだろ、それでこの距離なら十分間に合うって。」


私たちの部屋に通じる方角の通路から、そんな声が聞こえてきた。それは紛れもなくマリさん達のもので、2人が私たち3人の目の前に到着すると、ちょうど待ち合わせ時間ピッタリになった。セーラとわかばの言うことは正しい、マリさんはこういう待ち合わせがあれば10分前には到着しているようなタイプの人間だ。しかしポーラと一緒となると話は異なってくる。なぜならポーラは待ち合わせがあれば、その時間にちょうどピッタリ到着するように計算するタイプの人間で、マリさんは絶対にポーラを置いて一人で先に行ってしまうことが出来ないからだ。結果として、マリさんはポーラと一緒に時間ピッタリに来るというのが私の読みだった。


「ほら、だから言っただろ。1秒足りとも遅れてない、ちゃんと約束の時間に到着した。」


マリさんはポーラの発言に大きなため息で返事をした。通常こういう性格の人は時間に遅れてきてもおかしくなさそうだけど、決められた時間はきっちりと守るのはさすがに船の乗組員らしいなと私は思った。


私たちはコーラル・マーメイド号から陸へと上がり、港からそのままバスに乗車する。そのままバスに揺られること10分ほどでお目当ての温泉浴場に到着した私は、石レンガ造りの神殿のようなその建物に圧倒された。船長にチケットをもらったわかばいわく、「外見は古いように見えても、中は最近リニューアルしたばかりで新しいし、観光客もよく訪れる場所なので、そんなに気をつかわなくていいそうです」ということらしいけれど、港のクレーンと吊橋の橋脚以上に高い建物の無い街で生まれ育った私にとっては、気を使わない方がなかなか難しいように思われた。


しかし、中に入ってみるとわかばの言う通りに周りの人々は観光客らしき人々がほとんどだし、内装も外で見るような神殿風というわけでは無く、いたって普通の建物になっていた。私がほっと胸をなで下ろしたところで、みんなは更衣室へと入っていく。


温泉浴場といっても、浴場に入るときに服を全部脱いでしまうのは私が元いた世界でさえ少数派の文化であって、こちらの世界でもそれは同じらしかった。周りの人々は更衣室で服を水着に着替え、そのまま浴場へと向かっていく。私たちも周りの人々と同じように、水着に着替えることにした。さすがに誰もこんなことになるとは思っていなかったようで、みんな水着を持っていなかったため、レンタルの飾りっ気の無い水着である。


「七海、こっち見ないでねっ!」


水着に着替えている途中、セーラはひたすら私に向かって注意してくる。水着に着替えるだけなんだし、そもそもこの後浴場に入ってしまうのだから今隠してても一緒だと思うんだけど、彼女にとってはそうでもないらしい。私が意地悪をして一瞬セーラの方を見るような素振りをすると、彼女はとっさに着替える手を止めて私に抗議を繰り返した。その反応が面白くて私はついつい何度も繰り返してしまう。


「まったく、セーラは恥ずかしがりだな。あたしとマリなんか小さい頃から家用のプールで遊んでたし、着替えるところなんて見られてもなんとも思わないっていうのに。」


「またそうやって適当なことを言う!」


「マリ姉さんとプールで……うらやま、いえなんでもないです。」


ポーラとマリさんの掛け合いにわかばの怪しげな合いの手が入るのを聞いているすきに、セーラは着替え終えてしまったようだ。もう少し遊んでいたかったような気もするのに、惜しいことをしてしまった。


「でも、良かったよね。西の大国なら温泉で水着なんて着ないし、もっと恥ずかしかったんじゃない?」


「七海さん何言ってるんですか!?西だって温泉で水着着なきゃダメですよ!」


わかばの驚きの声が、アクトスの温泉浴場の更衣室に響いた。えっ、そこは違うの?

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