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43.あなたに届くための針路は? ~What is the course to reach you?~

ポーラとセーラ、それから私の3人は、手紙の主がマリさんを呼び出した海図室裏の通路に向かっていた。もちろん当事者達に気づかれるわけにはいかないので、通路の様子がこっそりとうかがえる場所に陣取る予定だ。


海図室とは文字通り、海図を読み取ってこの船が計画どおりに航海を行っているか確認したり、あるいは気象条件や入稿予定が変わったりしたときに新しい針路を決定するための部屋で、要はこのコーラル・マーメイドの運航と密接に関わっている部屋だ。場所もブリッジにほど近いところにある。とは言ってもこの部屋が忙しくなるのは主に出入港や狭い海峡を通過するときであり、今みたいに計画通り外洋を航路に沿ってまっすぐ航海するようなときは、あまり人通りも多くないようだった。もっとも、この部屋に用があるのはそれこそ船の運航に関わる人達ばかりで、客室のサービスを担当している私たちには全くといっていいほど関わりの無い場所だった。セーラ達の話を聞く限りでは、ル・メイズ出港前に行われた乗組員見習いのオリエンテーションで一度来たきりらしく、それすらも参加していない私にとっては初めてお目にかかる。


「客室部門のやつで、ここの人通りが少ないことを知ってるのはほとんどいない。でも、航海部門のやつなら人通りの少ないタイミングも含めて詳しいはずだ。だから、あの手紙を出したのは航海部門のやつで間違いないだろう。」


とはポーラの推測である。私たちは同じ船の中とは言え、なじみのない場所に時々道を間違えそうになりながらも、なんとか目的地までたどり着くことができた。時刻は午後5時になるちょうど1分前、私たちは通路の角に隠れて辺りの様子をうかがう。すると、通路には私たちとは違ったデザインのセーラー服を着た、小柄で黒髪の少女が立っていた。年齢はセーラよりも下で、セーラの妹ソアラと同い年くらいに見えた。


「セーラー服の襟が客室部門の制服みたいに白じゃなくて紺色ってことは、やっぱり航海部門の子だね。」


私はポーラの読みが的中していたことに感心する。そして私は彼女について気になる点がもう一つあった。


「ねぇ、あの子、ひょっとして西の方の出身じゃないの?」


こっそりとうかがうだけなので顔や姿ははっきり見えないが、彼女の雰囲気はどうもセーラやポーラよりも私やクリスタル・マーメイド号の4人に近いもののような気がしたのである。私の質問を聞いて、ポーラがハッとしたように、しかし気付かれないように小さい声で何かを思い出した。


「そうだよ!コーラル・マーメイド号にはもう一人だけ西の大国出身の見習いが居たんだ!名前はえっと確か……。」


ポーラは彼女の名前を必死に思い出そうとしているようだったが、中々出てこないらしかった。それはそうだろう、航海部門と客室部門の見習いはほとんど顔を合わせる機会がないし、いくら船中に謎の交友関係があるポーラと言えども、航海部門の見習い全員を名前と顔が一致するまで覚えておくのはさすがに難しいはずだ。それよりも、私は西の大国出身の見習い乗組員がもう一人この船に乗り組んでいたことが驚きだった。……いや、よく考えると私は別に西の大国の出身では無いので「もう一人」というのもおかしな話なんだけど。


そうこうしている内に時刻は午後5時を回り、通路の向こう側からマリさんが姿を見せた。航海部門の彼女はすぐにマリさんに気付くと、深呼吸して大きな声を出した。


「突然呼び出してしまって申し訳ありません!でも、今日はエリソンさんに大切なお話があって来ていただきました!」


「あの、失礼ですがどちらかでお会いしたことがありますでしょうか?」


マリさんは少女に尋ねる。ポーラが今まで思い出せなかったくらいだし、マリさんの顔見知りというわけでは無かったようだ。すると彼女はあわあわという擬音がぴったりくるくらいに動転した。タイプとしてはセーラに似てるかもしれない。


「すっ、すいません!私は松帆わかばといいまして、この船の航海部門で見習いをやってます。エリソンさんと直接お会いしたことは無いんですけど、オリエンテーションのときにお見かけする機会はありました!」


「……なるほど、それで大切なお話とは一体なんでしょうか?」


そういえば昨日、ポーラは手紙の主のことを「オリエンテーションかなにかでマリさんを見かけた人物」と言ってたような気がする。あの短い時間でここまで的中させた彼女のプロファイリングに私は軽い尊敬の念を抱いた。ということは、大切なお話とはやっぱり一目惚れ関連の話になるのだろうか。


「実は……えっと……。」


わかばという名前の彼女は自分から切り出したにも関わらず、「大切なお話」について口を開く勇気が無いといった様子で何度も口ごもっていた。「大切なお話」かつ「言うのに勇気が必要」で、なるべく他の人に聞かれたくないとなれば、状況証拠は限りなくそれが告白であるということを物語っている。私とセーラは息を呑んでその様子を見守っていたが、ポーラはいよいよ落ち着きを完全に失い、通路に立っている二人の姿を直視することさえもままならなくなっていた。


「実は……。」


わかばが再び深呼吸をして今度こそは「大切な話」に踏み込もうとする。その瞬間だった。


「……やっぱり、マリが他のやつに取られるのは嫌だ。」


ポーラはそれだけつぶやくと、今まで直視することすら避けていた二人の方へ体を動かした。彼女が今にも通路の隅から二人の元へと飛び出そうとした瞬間、私たちの耳に思いもよらない言葉が舞い込んだ。


「エリソンさんに、私のお姉さんになってほしいんですっ!」

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