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38.船の遭難した位置はどこか? ~What is the position of vessel in distress?~

「七海っ!」


それは紛れもなくセーラの声だった。その声が聞こえるとほぼ同じタイミングで、しゃがんでいた私は彼女の柔らかくそれでいてしっかりとした身体に抱きしめられた。ガラガラと音を立てて棚が崩れかかってきたのはその直後のことで、私は最期の力を振り絞って彼女の名前を呼んだことをひたすらに後悔した。1度死んでる私だけならともかく、セーラを巻き込んでしまった。いや二人一緒ならまだ罪の償いようもあるかもしれないが、私が助かって彼女が助からなかったとしたら、もう私にこの世界を生きる資格は無い。セーラに何かあったら、それを考えると私の目から涙が一筋こぼれた。


「七海、泣いてるの?」


私の頭上すぐのところから、私をいつも励まし、慰め、元気を与えてくれた声が聞こえた。恐る恐る見上げると、巨大な棚は通路の反対側に設置されていた棚と「人」の字を描くようになって倒れており、私たちはちょうど下に出来たわずかな空間に収まっていたようであった。


「私なら大丈夫だよっ、どこも打ってないし、七海が置いてた救命浮き輪が降ってきたくらいかな。」


あの救命浮き輪のことなら、元の世界で言うところの発泡スチロールのような素材でできていたはず。棚の上に置いていたとはいえ、確かに大したダメージにはならないだろう。……それでも。


「セーラ、どうして私なんかのために無茶するの!」


涙が止まらなかった。セーラが無事だった安堵、セーラを再び危険な目に合わせてしまった罪悪感、そして彼女に何かあったらと想像した時の怖さがすべてない交ぜになって心のキャパシティを超え、涙となって溢れ出す。


「それは、七海のためだから、かな」


彼女は私には聞き取れないくらいの小声で何かをつぶやくと、そのまま私を倉庫の安全な場所へとエスコートしてくれた。結局セーラに守られてばかりの自分が悔しくてたまらない。それでも彼女はそんな私を気分が落ち着くまでそっと見守ってくれていた。


幸いなことに二人とも無傷だったとは言え、私たちの置かれた状況はあまり良いものでは無かった。倒れた棚は部屋の入口付近にあり、この部屋に一つしかないドアが完全に塞がれていた。内開きのドアは棚を元に戻さないと開きそうにも無いが、私とセーラだけではさすがに棚を押し戻すことは難しそうだ。しかもこの部屋にも私たちにも外部と連絡する手段はなく、マリさんとポーラは明日の朝までレセプションで待機することになっていて、私たちがいないことには気づけない。さらに悪いことは重なる。広い船内ということもあり、警備担当の人がこの辺境の地を見回りに来るのは数日に1回ペースだし、ドアを叩いて助けを呼ぼうにもそもそもドアに近づけない。窓は開かないし豪華客船だけあって上下左右の防音はしっかりしていると、完全にこの倉庫は外の世界から隔離された状態になっていた。


「どうにかしてこの部屋を出なきゃ」


セーラにこれ以上迷惑をかけるわけにも、かっこ悪いところを見せるわけにもいかない。私は何か使えるものがないか部屋の中を見渡した。防災用の倉庫ということもあり、室内には非常時に使えそうな物が多く転がっていたが、棚を動かせそうな工具や助けを呼べそうな通信機の姿はやっぱり無かった。私たちはとりあえず箱の中を一通り改めて、使えそうなものを探した。


「消火器を部屋に撒いて、外の通路に粉が漏れ出すことで異変を伝えるってのはどうかな?」


「七海、この部屋で消火器を撒いたら、助けが来る前に私たちが窒息しちゃうよ……」


消火器を手にして私が提案したが、あえなくセーラに正論で却下された。続いてセーラが非常用の防水マッチを取り上げた。


「段ボール箱に火を付けて、部屋の火災報知器を作動させたら気づいてくれるんじゃないかなっ?」


「火は下手するとちょっと大変なことになりそうだからやめた方がいいかも……」


それから私たちは「消火器で窓を割って浮き輪で脱出する」、「消火器の粉で粉塵爆発を起こして脱出する」などのアイデアを出し合ったが、いずれも部屋で大人しくしていた方がよっぽど安全だという結論に至った。唯一現実味があった「非常用の懐中電灯を窓から見える船のブリッジに向けて照らす」という案も、一度試して見たものの手回しの懐中電灯では光が弱すぎる上、光を照らしただけではあちら側に異変だとわかってもらえず、通用しなかった。


私たちは大きなため息をついて床に腰を下ろす。海はすでに赤く染まり始め、雄大な水平線はこんなシチュエーションじゃなければとても感動的であった。私は昼から何も食べていないことに気づき、セーラと一緒に箱の中にあった保存食のクッキーをもそもそと食べ、ミネラルウォーターで喉の渇きを潤した。


「水も食料もあるから、しばらくは大丈夫そうだね。それに私一人だと心細くてどうしようもないけど、私は一人じゃない、七海がいるから大丈夫!」


セーラはクッキーを食べながらすでに持久戦への覚悟を決めたようだった。こういうところの思い切りの良さはアサートン家の血筋なのか、それとも暴走モードに陥りがちな彼女の性格の延長線上なのか。それはともかくとして、確かに私も一人だけなら心細かったが、セーラと一緒ならなんとかやっていけそうな気がした。


私たちは一応の食事を終えると、すっかり疲れてしまい、窓の外から水平線に沈む夕日を眺めていた。


「せめて、SOSってことだけでも伝えられたならなぁ」


私は手を伸ばせば届きそうなのに、私たちの異変を伝えられないブリッジの方を見て嘆いた。夜になれば懐中電灯の明かりでも向こうに気づいてもらえないだろうか。そう思いながら手持ち無沙汰に懐中電灯のスイッチをカチカチと押す。


「そうだね、SOSだってことをブリッジに届けられれば……」


セーラが私の言ったことに同意する。私たちの問題がSOSを知らせられないことにあると言うのは共通の認識らしかった。


……ってあれ?


「セーラ、SOSって何のことだか分かるの!?」

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