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34.捜索結果を報告せよ ~Report results of search.~

「おねーさんありがとう!」


先ほどまでエントランスホールで号泣していた小さな女の子が、赤いリボンを付け、もふもふの茶色い毛並みをしたテディベアを抱えて、ご満悦そうにそう言った。永遠に続くかと思われたクリスタル・マーメイド号の遺失物保管倉庫内でのぬいぐるみ捜索活動は、「118」という私のラッキー(?)ナンバーの力によって無事解決し、女の子とテディベアは感動の再会を果たすこととなったのである。


「ぬいぐるみ、見つかってよかったです。この子、さっきまでずっと悲しそうな顔、してました。でも、今は笑顔です。七海さん、見つけてくれて、ありがとう。」


佐代が私にお礼を言う。しかし、私たちがぬいぐるみを探している間、彼女はずっと女の子に付き添って待っててくれていたのだ。彼女の方も大変だったと思うし、こちらはこちらでとても重要な仕事だ。この子の笑顔は私だけの手柄ではなく、みんなで手に入れたものだと私は思った。

佐代はまた、女の子の面倒を見てくれていただけではなく、女の子の両親に連絡を入れてくれてもいたようで、ぬいぐるみが見つかってしばらくすると、母親と思われる若い女性がこちらの方へと向かってきた。


「うちの美奈がご心配をおかけして申し訳ありませんでした。しかもぬいぐるみまで見つけていただいたようで、なんとお礼を申し上げてよいやら……」


女性はしきりに私たちに頭を下げてくれたが、陽子達は困っているお客様を見ればお手伝いをするのが客室乗務員としての役目だという強い思いがあるようで、当然のことをしたまでであり、感謝されるには及ばないといった反応を示していた。私はそんな彼女達の様子を見て、乗り組んでいる船は違うし、それぞれの抱える事情は違っていても、持っている志は変わらないのだなと少し感動してしまう。


やがて女の子が母親に連れられ、エントランスホールから自分の部屋へと歩き出す。彼女は去り際に、こちらの方を振り向き、大きな声でこう言った。


「おねーさんたち、かっこよかった!わたしもおおきくなったらお船ではたらきたい!」


私はホールの向こうで小さく見えている女の子の姿を見守りながら、隣の陽子に話しかけた。


「陽子、クリスタル・マーメイド号の将来の乗組員、一人増えたんじゃない?」


「嬉しいけど、だーいぶ先の話になりそうだね。まぁいっか、あの子が客室乗務員見習いになるまでに、私たちがめちゃくちゃ頑張って、クリスタル・マーメイドを世界一のサービスの船にするんだから!もちろん、コーラル・マーメイドにも負けないんだからね!」


陽子はそう言うと、握りこぶしを高く突き上げ、上を見上げる。彼女の視線の先には、吹き抜けの窓からさんさんと太陽の光が差し込んでいた。その姿を見ると私も、コーラル・マーメイド号で彼女たちに負けないくらい頑張らなきゃいけないという気持ちにさせられた。


「……でもあの子、ぬいぐるみを見つけた常神さんに感謝してたっぽいし、コーラルに取られちゃうかもよ?」


「なにっ!?七海だけでなくあの子まで手にかけようというのか!コーラル・マーメイド号許すまじ!」


そんな舞とくれはのやり取りを聞いて、私たちは顔を見合わせて笑った。


それから私たちは、本来の目的であった食堂へとおもむき、ちょっと遅い昼食を食べた。昼食のメインディッシュは鶏肉を照り焼きにしたもので、この照り焼きの甘辛い味は確かにコーラル・マーメイド号では味わえない「本場の味」だと思う。みんなの話によれば、この食堂の厨房にはちゃんと炊飯器が備え付けてあるし、毎週1回はカレーがメニューに出てくるらしい。フライパンで悪戦苦闘してお米を炊かなくてもいいし、毎週1回出てきて少し飽きてくるほどカレーを頻繁に食べられるというのはちょっとどころでは無くうらやましい話だ。けれどもそれを顔に出すと、陽子に「ちょっとこっちに来たくなってきた?」と思われかねないので、必死に我慢する。


昼食の後は、みんなのガイドによるクリスタル・マーメイド号船内探検ツアーが開催された。屋上のプールやテニスコートなどは変わらないとして、カラオケボックスらしきスペースが設置されていたり、コーラルではスパになっている部分が見慣れた感じの大浴場になっていたりと、西の文化に合わせてカスタマイズされている部分がところどころに見られる。乗組員が使えるかはともかくとして、船内に大浴場があるのはこれも率直に言ってかなりうらやましい。速やかにうちの船にも設置してほしいくらいだ。けれども、やはりそれを顔に出すわけには行かないのでまたまた必死に我慢する。


広い船内を一通り見終わる頃には、時間はすっかり夕方になっており、ノイ・タンガの西の空が茜色に染まりはじめていた。そろそろ私も自分の船に帰らなければならない時間だ。私は本日何度目かのエントランスホールで、4人に別れを告げることにした。


「みんな、今日は本当にありがとう。最初、この船にスカウトされたときはビックリしたけど、クリスタル・マーメイド号でみんなが頑張ってるのがよく分かった。今度はコーラル・マーメイド号の方にも遊びに来てよ。私たちの船も、きっとこの船と同じくらい素敵な船だからさ。」


「それいいね、今度は私たちがコーラルに遊びに行って、その次はまたうちの船に遊びに来る感じでさ、交代に行き来できたら楽しいよね!もちろん、今度うちの船に来る時は……」


「七海さんだけじゃなく、みんな一緒に、ですね!」


陽子の言葉に割り込むようにして佐代がそう言った。どちらかと言えばおとなしめの彼女がここまで積極的なのは意外だったけど、コーラル号の4人とクリスタル号の4人でお互いの船を行ったり来たりすることを想像すると、確かに私もそれだけで楽しくなってしまうので、彼女の気持ちも十分に理解できる。


私は最後に4人と握手を交わすと、ギャングウェイから岸壁の方へと歩き出した。


「達者でな!」


「セーラさんによろしく!」


後ろからくれはと舞の声が聞こえる。次に彼女たちと出会うのがこのノイ・タンガの港になるのか、それともどこか別の港になるのかは分からないけれども、きっとまたどこかで会えると私は確信していた。そしてそのときはお互いにもっと成長した姿で会いたいと思った。そのために私の頑張るべき場所が、私の目の前で優美な姿をして停泊していた。

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