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27.私は水上艇と衝突した ~I have collided with surface craft.~

調理師見習い達を震え上がらせた青白く光る倉庫の謎も解決したところで、コーラル・マーメイド号はいつも通りの航海を続けており、まもなく船はノルトリンク王国のお隣、北西回廊連邦の海域へと入ろうとしていた。ノルトリンク湾を出たことによって、イカ達の生息域からも外れ、食料倉庫の見回りもだいぶ安心して行えることになるのではないだろうか、そしてイカ達も巨大な客船におびえて体を光らせること無く平和に暮らすことが出来るだろう。


北西回廊連邦はその名前の通り、北の大陸と西の大国を結ぶ回廊地帯に存在する国で、古くから交通の要衝となっているということだった。そしてこの国はいくつかの小さな国が連合して構成されており、このコーラル・マーメイド号が寄港するのはそのうち「ノイ・タンガ」という連邦でも最大の都市と、「アクトス」という更に北の方にある街だということだった。最初に寄港するノイ・タンガまではもうしばらくもかからずに入港する予定だ。


倉庫の謎の一件が解決した翌日の朝、私はどうしてもセーラに聞いておきたいことがあった。それは彼女と私との今後の関係に影響するかもしれない重要な話で、しかしまともに話しても多分真剣には取り合ってもらえないような話だった。


「セーラ、昨日は幽霊退治にやけに張り切ってたけど、やっぱりお化けとかあんまり好きじゃないの?見かけたらすぐにやっつけなきゃいけないって思っちゃうとか?」


朝、通路の掃除を行っている途中で、私はなるべく自然な雑談になるよう、軽い口調で彼女に話しかける。すると彼女は一生懸命に掃除機と悪戦苦闘している手を休めて、こちらの方を振り返ってくれた。


「うーん、やっぱり私もみんなと同じで幽霊は苦手かも。それに昨日はメグさん達が怖くて安心して見回り出来ないって言ってたから、私になんとか出来るならしてあげたいなって張り切っちゃったんだ。」


非常に彼女らしい答えが返ってきたところで、私は努めて冷静に本題を切り出す。


「ふ、ふーん。そうなんだ。じゃあさ、もしも、もしものたとえ話だよ?私が実は1回死んでて、今いる私は実は幽霊みたいな存在だったとしたら、セーラはどう思う?」


するとセーラは、私が熱でもあるのではないかと疑ったのか、自分の手のひらを私の額に当て、その後は私の顔や肩や腕や手のひらをペタペタと触ってきた。セーラ先生の診察が終わったところで、彼女はゆっくりと診断結果を告げる。


「七海、何を言ってるの?七海は幽霊なんかじゃないよ、ちゃんと今ここにこうやって居るし、ちゃんと触れられる。それに七海の身体も温かかった。私が今確認したから大丈夫!」


……ですよね、事実として私が1回死んでいるからといって、私の身体は海の安全の神様のすごいパワーによって、この世界では何の不都合もなく普通に存在しているのだ。そんなこと言ったって信じてもらえないし、だいいちそんなことを気にする必要さえ無いとも言えるだろう。しかし、セーラが一度死んだ人間のことを苦手だと言うんなら、いつか本当のことを言って信じてもらえたときに、彼女はどう思うのか、それだけは私にとってとても気になることだったのだ。するとセーラは、「だけど……」と話の続きを始めた。


「もしもの話でも、七海が一度死んでしまったってことを想像するのは辛いな……。死んじゃうときってきっと痛くて悲しくて苦しくて、そういった思いを七海がしたんだって考えると私まで悲しくなっちゃうよ。」


実は乗船口から海に落ちて、何も思う暇さえ無く気がついたら女神様の前に居たということは今は黙っておくとして、彼女がそこまで私のことを考えてくれて、そして無用な心配をさせてしまったことに少し罪悪感が芽生えた。


「でも、たとえ七海が幽霊だったとしても、こんなに優しくて良い幽霊さんだったら大歓迎だと思うよ!」


セーラが元気よくそう言ってくれたのが、私には何よりの救いであった。


「そういえば七海、私と初めてあった時も一度死んだとか、神様がどうとかって言い訳してたよね。もしかしてそういう想像するのが好きなの?」


「そこはノーコメントでお願いします。」


私たちは掃除を終えると、ベッドメイキングをしていたマリさん達と合流して、次の仕事場所へと向かう。そこはコーラル・マーメイド号の屋上階にあるプールだった。実は倉庫の見回りを5人でした後、見回りから中々帰って来ないメグを心配した調理師の先輩が、私たちを追いかけて第3船員食堂へと入ったことで、勝手に食堂を使っていたことがバレてしまい、その罰として、私たち4人には屋上のプール掃除が課せられたというわけである。ポーラはメグだけ罰を免れたことを不服そうにしていたが、よく考えると彼女は自分の職務としてあの食堂に入って私たちと出くわしただけなので、何も悪くない。私は少しだけメグに同情してしまう。


コーラル・マーメイド号にはプールがいくつも存在しており、屋上階には屋根のついていないプールが大小合わせて3つ、屋根のついている屋内型のプールが1つ、それに船内のスパにも1つとそこまで泳ぎたい人が大勢居るのだろうかと考えたくなるほどプールが充実している。しかし、北の大陸へと海を北上していくと、だんだん外気温も涼しくなってくるため、屋内はともかく屋外のプールは使用が中止され始める。水上ショーなどで使われる大きなプールはともかく、小さい方のプールは、ノルトリンク王国と北西回廊連邦の国境を越えた段階で使用が中止されることになっていた。私たちは後部のプールに到着すると、周りには誰も居らず、そこには既に水が抜かれた小さなプールの姿があるだけだった。


「大体、プールなんてずっと水張っとけばいいじゃん。」


「まあ、コーラル・マーメイド号が巨大な船とは言えども、海の上で真水は貴重だから、貯めておくくらいだったら早く循環させて他のことに使いたいんじゃないかしら。」


「それに、掃除って言っても使う前みたいに洗剤を撒いたりするんじゃなくて、普通に水ですすぐだけだからすぐ終わるよ!」


そういえば学校のプールも1年中水を張ってたし、わざわざ水を抜く必要があるのだろうかと思っていた私を代弁してくれたかのようなポーラの一言に、マリさんとセーラから突っ込みが入る。なるほど、確かに船の上で真水が貴重だという話はよく聞くし、掃除自体も水を撒いてそれをブラシで伸ばしていくだけの単純なものだった。


ポーラがホースから水をプールの方へ撒き、私たち3人はブラシを使い、その水を隅々まで行き届くように伸ばして磨いていく。しかしプール掃除にはよくあることだが、こういう時に水の出るホースを持たせてはいけないタイプの人間が居て、それはまさしくポーラのようなタイプだと思うのだが大丈夫なんだろうか。私はこっそりと彼女から遠ざかり、私の姿を見たセーラも何かを察したようにそれに続いた。


「ちょっとポーラ!私じゃなくてプールに水を撒きなさいよ!」


すると案の定、ポーラはマリさんの至近距離を狙って水を撒き、彼女の怒る声がそれに続いた。幼馴染だしある程度予想が付いていたのではないかと思ったが、マリさんの仕事熱心さが逆に仇となり、それに気づかなかったようだ。


「じゃあセーラ、こっちは大人しく掃除しようか。」


「うんっ!」


ポーラの襲撃にマリさんがブラシで対抗を始めたのを横目に、私たちは流れてきた水をブラシで伸ばし始める。いくら濡れてもいい格好をしているとは言え、至近距離で水を撒かれるのは勘弁してほしい。私たち2人は黙々とブラシを動かし続ける。と、その時だった。


「きゃっ!」


セーラがそんな声を上げると、彼女は濡れた床で足を滑らせたらしく床に尻餅を付き、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。それだけではなく、彼女が倒れる直前に私もバランスを崩してしまい、仰向けになったセーラに覆いかぶさるような形でプールの床に倒れ込んでしまう。しかし幸運なことに、すんでのところで彼女の顔の横に腕をつくことが出来たので、セーラに怪我をさせることは無かったようだ。


「セーラ、大丈夫!?怪我してない、頭は打ってないよね?」


私は腕をついたまま、自分の下で仰向けになっているセーラに向かって問いかけた。彼女に何かがあっては大変だ、見たところ意識ははっきりしているし、頭も強く打っているような倒れ方ではないように見えたが、その代わり彼女は顔をゆでダコのように赤らめて答えた。


「ううん、怪我もしてないし頭も打ってないよ。……でも、この状況は大丈夫じゃないかも。」


この状況は大丈夫じゃないとはどういうことだろうかと考えた3秒後、私は自分がまるでセーラを押し倒しているかのような格好になっていることに気づき、セーラと同じように顔を真っ赤にした。

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