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25.私は捜索海域にいる ~I am in the search area.~

「冗談でしょ……?」


そういったのがマリさんなのか、それともさっきから幽霊の話をするだけで恐ろしいといった表情しているメグなのか、それとも二人が同時に同じことを発したのかは私にはよく分からなかった。ただ私に分かるのは、幽霊探しに闘志を燃やすセーラと、興味津々といったポーラはともかくとして、自分で言うのもなんだが良識を持ち合わせているだろう私が幽霊探しに賛成するとは、マリさんもメグも考えていなかっただろうということだ。


もちろん、普通だったら私だって肝試しは避けて通りたいタイプだ。しかしその幽霊が「海で亡くなった人の怨念」だとすれば話は別で、私の今の能力を持ってすれば、その怨念をどこか別の世界へ転生させて、幽霊さんも食堂の周りを見回る調理師見習いの人達もお互い幸せにすることができるかも知れないのだ。いや、転生させるのは海の安全の神様の能力だけど。


「よし、じゃあ3対2で幽霊の噂を確かめるのに決定だな!」


私が賛成するのを見るやいなや、ポーラがそう言う。そして私たちはカレーの皿を片付けると、船員食堂から周辺の食料倉庫の見回りへと出発することになった。


基本的に船内の見回りは、警備担当の船員が担う役割だが、食堂や厨房、それに食料品を貯蔵しておく倉庫といった区画の見回りは、調理を担当する船員の役割となっていて、特に調理師見習いのメグ達がしばしばその当番に当たっているということだった。私たち客室乗務員見習いは夜の見回りのような仕事は無いので、人気が少なく常夜灯しか明かりがついていないような船内を歩くのは初めての体験だった。


私たち5人はセーラを先頭に、彼女の持つ懐中電灯の明かりを頼りに通路を進んでいった。セーラが先頭なのは、もし何かあった時に一番戦えそうなのが彼女であったのと、この船の平和を守りたいという彼女のやる気が5人の中で最も強かったからである。セーラとほぼ並ぶようにして私が、その後ろをポーラとマリさんが並んで歩く。本来なら見回りはメグの仕事だが、彼女は一番後ろを歩いている。


「七海、安心してね。もし幽霊が襲ってきても、私が絶対に七海を守るからっ!」


セーラの力強い宣言は、半分幽霊みたいな存在とはいえ、真っ暗な通路にビクビクしていた私にとって何よりの支えとなった。でも、それだけではいけないと私は心に誓っている。セーラが私を守ってくれるのなら、私もセーラを守ってあげたい。守られるだけではなくて、二人一緒に困難に立ち向かっていきたい。


「ありがとう、セーラ。でも、もし本当にそんなことになったら、セーラだけじゃなくて私も一緒に頑張るから!」


暗かったので、私がそう言った後のセーラの表情はよく見えなかった。しかし、彼女が私の手をつなぐ力の強さがほんの少しだけ強くなったことが、セーラなりの返事のように思えた。


「暗い怖い怖い暗い、暗いから怖いのかしら、怖いから暗いのかしら……。」


確かに真っ暗な通路は怖いけれど、つぶやいている様子がそれよりも怖いという状況になってしまっているのはマリさんだ。隣のポーラがその様子を見て笑っている。


「マリだけ部屋で留守番してても良かったんだぞ?」


「大体、こんなことしようって言い出したのはポーラでしょ!ポーラは私が見てないと何をするかわからないから、仕方なく一緒に付いていってあげてるのよ!」


さっきまでの怖がりな様子もどこ吹く風と言った様子で、ポーラの言葉にいつもの調子で返すマリさんの姿を見ていると、この二人ならたとえどんなところに置かれたとしてもこんな風に言い合いをしているんじゃないかと私には思える。


「あはは、そうは言うけど、昔はこういうことマリの方が好きで、私はいつもマリの後ろをビビりながらついて行ってたよな~。なんか今は正反対になっちゃってるけど。」


「……そういえば、そうだけど。確か昔は、ポーラが途中で怖くて動けなくなっちゃって、私がなんとかポーラを背負って帰ってきた覚えがあるわ。」


「そうそう、もし今マリが動けなくなったら、今度は私が背負ってあげるからさ。」


「絶対に大丈夫だから、それはないから!」


二人の会話が進むに連れ、あまりの普段との変わらなさに、ここが人っ子一人居らず無機質なダンボールがうず高く積まれているだけの真っ暗な倉庫であることをすっかり忘れてしまう。そんなマリさんとポーラ、そして私たちの様子を見て心底安堵している人間が一人居た。本来なら一人でいわくつきの倉庫を見回らなければならなかった調理師見習いのメグだ。


「最初は幽霊を探すって正気かと思いましたけど、こうしてみんなとワイワイしてると怖さも紛れてとっても助かりました……。」


メグは順調に進んでいる見回りにホッとした様子でそうつぶやいた。その後、「これからも5人で見回り出来たらいいのにな……」という声も聞こえたような気がしたが、毎晩見回りをするとマリさんの神経が先に参ってしまいそうなので、それは辞退させてもらわなければならないだろう。


そんなこんなで、私たちは雰囲気だけはたっぷりあるものの、特に何も起こらない食料倉庫区画を突き当たりまで進む。突き当りにあるドアの向こうは、この見回り最後の部屋となる倉庫で、日の光に当てたり、換気をしっかり行う必要のある食品が貯蔵されているらしい。


「この部屋で最後です。でも、この部屋こそが見回りに行った人達が最近、電気を付けてないのに部屋が青白く光ってたって言ってた部屋で……。」


メグの言葉を聞き、私たちの間に緊張が走った。しかしここで立ち止まってはこの見回りの意味がない。意を決して先頭を行くセーラがゆっくりとドアを開けた。


すると、目の前に広がっていたのは、確かに部屋中が不気味な青白い光に包まれた倉庫の姿であった。

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