装置的な何か
卵がある場所は辺りは木々に覆われ、獣や魔物が徘徊し、熾烈な生存競争が行われていた。だが、それ故に生物は生きようと多種多様な生命に溢れていた。
そんな森の中、卵は大きな木の根元で落ち葉に隠れていた。厳しい食物連鎖の森の中、卵という生命力を凝縮したような栄養価の高いご馳走が守る者も居らず、地面に転がっていたら、こうなってしまうのも必然と言えるだろう。
「シュー」
一匹の大きな蜘蛛が卵を見つけ、その鋭い牙を突きつけようとしている。だが、その牙が突き立てられることはなかった。
「シャー!」
「シュー!」
黒い蛇が、横取りを仕掛けてきたのだ。当然、蜘蛛も譲る気は毛頭なく、蜘蛛は前足を大きく開け、蛇は大きく口を開き、全身の筋肉をバネがエネルギィーを蓄えるように縮め、お互いに威嚇をし、にらみ合う。二匹の大きさはそれほど差がなく、お互いに油断なく警戒している。
必殺の一撃を叩き込むため、相手の出方を注意深く観察していたが、蜘蛛の方がしびれを切らした。食事を中断されたことに苛立ちを覚えていたのだろう。
牙から、毒液を滴らせ、蛇に噛み付こうとしたが、蛇は体のバネを生かし、蜘蛛よりも早く、蜘蛛の複眼に噛み付いた。しかし、蛇の牙が複眼に届く前にフッと蛇の視界から蜘蛛が消えた。
実際に消えたわけではない。そう見えただけだ。蜘蛛は少し離れた場所で、キチキチと音を鳴らしている。そして、蜘蛛のお尻からは一筋の糸が伸びていた。
蜘蛛は攻撃を仕掛ける前に木の幹に糸を付けていた。その糸で、蛇の攻撃が届く前にゴムのようにして回避したのだ。
仕留めたと思っていた蛇は悔しそうに舌をチロチロと出し、ピット器官で相手の位置を探る。相手の位置を特定したのか、次はこちらの番だと言わんばかりに口を開けた。開けられた口は先程より大きく開けられている。そして、口が裂けた。縦に裂けていき、裂けると同時に奥から二本の大きなハサミとも言える巨大な牙が押し出されるように現れる。
その牙はよく研がれた刀のようであり、触れればタダでは済まないだろうことがうかがえる。カチカチと隠していた凶器を確かめるように鳴らし、蜘蛛を見るが、蜘蛛は徐々に後ずさり、距離を取り始めていた。
蛇の隠していた武器に割に合わないと考えたのだろう。一定の距離を取ると、後ろを向き、一目散に逃走した。
その様子を蛇は黙って見ていた。追うつもりはないらしい。目の前に抵抗しない餌があるのだ。蜘蛛を追って食べようとすれば、相手も文字どうり、死に物狂いで抵抗するだろう。
そうなれば、負けはしなくても怪我をする可能性がある。怪我でもすれば、今度は自分が追われる立場となる。
弱いもの、怪我をしたもの、それらは他の生き物にとって、格好の獲物だ。血を出せば、腹を空かした捕食者がそこらじゅうから、群がってくる。この森では、怪我一つが命取りになりかねない。
蜘蛛がいなくなったのを確認すると、大きな牙がバラバラと解けるように外れた。多節棍のようになった牙が体に引っ込むと、裂けた口がピッタと何事もなかったかのように引っ付いた。
あの大きな牙は骨で出来ており、蛇が獲普段は動きに支障を来さないように外していて、戦闘時に関節をはめて武器として使う、特殊な器官となっている。
完全に元に戻った蛇は、卵を丸呑みにした。ゆっくりと卵が飲み込まれていく。
だが、食事中というのは、どんな生物でもスキができる。その決定的なスキを狙っていた生物がいた。
木の枝から飛来したそれは蛇を鋭い爪で掴み、大空へとかっさらった。蛇を大空へと連れ去ったのは大きな鷲に似た生き物だ。ただ、大きさが違い、頭には大き赤い飾り羽のようなものがある。
急襲に驚き、蛇は飲みかけていた卵を吐き出し、鷲の攻撃に応戦する。口を裂き、骨の関節をはめ、大きな牙を作り出し、鷲に噛み付いた。
噛み付かれた鷲は驚き、爪の力を緩めた。その緩められたスキを蛇は見逃さず、鷲に巻き付いた。全身筋肉の蛇に巻きつけられた鷲は翼の自由を失い、二匹は深い森に落ちていった。
吐き出された卵は重力に従って、落下していき、大きな葉に落ちた。その葉のついた枝は大きくしなり、力を蓄え、卵は再び大空へと羽ばたいた。
弾き飛ばされた卵は放物線を描き、また、違う葉に飛ばされた。飛ばされた卵は木に巻き付いたツタ植物の葉に優しくキャッチされ、ゴロゴロとツタの上を転がり、木の幹を周り曲がら、地面にたどり着いく。
地面に着いた卵は勢いを保ったまま、転がっていき坂道にたどり着いた。卵は坂道で更に加速する。加速した卵は小さな石にぶつかり、右に曲り、藪の中に突っ込んでいく。
卵に跳ねられた石はコロコロと転がりだした。転がりだした石は少し大きな石にぶつかり、その少し大きな石は大きな石に、大きな石は小さな岩に、小さな岩は岩に、大きな岩に、そして、ついに巨大な岩が動き始めた。
動き始めたものは急には止まらない。むしろ、勢いを増して、地響きを轟かせながら、転がり、崖から飛び出した。
崖の下にあった森に巨大な影がさした。突然の異変に森の生き物たちはざわめいた。
その影はどんどん小さくなっていき、落下範囲が絞られていく。
その場所には大きな山があった。否、山のようなものだ。表面は暗い緑色であり、濡れたような光沢がある。その物体に巨大な石が激突した。
激突した巨大な岩は砕け散り、山のようなものはのそり、と起き上がり、
『グワァァアァァアアー』
咆哮を上げた。ただ、それだけで地面が捲れ上がり、大気を揺らす。
起き上がったものは血走った目で辺りを見回し、再び、咆哮を上げると周囲のが湖に石を投げ入れたように、翠の波紋が広がり、翠の波紋に触れた周囲のものは全て緑の石に変わっていく。
エンシェントエメラルドドラゴン。この森の支配者の一体に数えられる巨大な龍だであり、創世の魔物の一匹だ。
龍故に、襲われるような事は今まで無かった。だから、この森のなかでも警戒する事無く、深い眠りについていたのだが、先程の岩を何者かの攻撃と捉え、襲撃者を探し出す。
と、そこで、東にある森の中で最も大きい大木が傾き、轟音をたて天にも届きそうな大木は倒れ、大地を揺らした。
『ガアアアァァァー』
大木が倒れると同時に咆哮が響いた。そして、巨大な木は瞬時に蒸発するように燃え上がる。
炎神龍。このドラゴンも森の支配者の一体に数えられる創世の魔物に数えられる存在だ。赤い紅い鱗の隙間から、フレアの様な灼熱の炎が吹き出している。
そんな二体が対峙する。お互が、先程のことを相手の攻撃だと思っているのだろう。二体の口に魔力が集まり出す。
龍のブレス。龍の力の象徴であり、最大の武器でもある。そんなものがぶつかり合えばタダでは済まない。膨大な魔力に気がついたのか、森中がざわめきたち、動物や魔物たちは巻き込まれないように逃げ出した。
二体のブレスはほぼ同時に完成し、放たれた。莫大な魔力の奔流がぶつかり合い、お互いを塗りつぶそうとする。
エンシェントエメラルドドラゴンが放った翠のエネルギーは炎神龍の灼熱の光線を緑玉に変え、灼熱の光線は緑玉を蒸発させた。
巻き込まれた周囲は緑玉に侵食され、蒸発していく。止める者のいない争いは、力差が拮抗しているために、泥試合となった。
この戦いの勝者を誰も知らない。戦いの見える範囲にいたものは、例外なく、緑玉に変わるか、蒸発してしまったのだから。
最後に残されたのは生命無き緑玉の森と溶岩が際限なく溢れ出る火山地帯だったという。
ありがとうございました。
ヒ○タゴラスイッチ!
なぜ、大木が倒れたのだろうか?フシギダナア(。-_-。)
次回で、卵が孵化します。
明日も投稿します。
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