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序章

彼の人間的には微塵も惹かれないオーラが、奇妙奇天烈なモンスター達を惹き付けたのだろうか?


              ※


就職活動とは、内定通知という伝説の宝物を求めて冒険の旅に出る、スーツと鞄のファンタジーである。剣と魔法、ドラゴン、精霊、勇者と姫、魔王、魔導士、亜人獣人、仙人などというファンタジー世界においてありきたり過ぎる物は一切出てこない斬新な設定。

冒険者の長距離移動手段は飛空艇やチョ〇ボ、ではなく電車とバス。たまにタクシーを利用する。冒険者が山間部や島嶼部といった僻地に住んでいる場合は航空機や自家用車、船舶が利用されることもある。

日本国内を舞台とした場合、冒険者の身分は大学三・四年生、大学院生、短大・専門学校生が中心となる。他に既卒者、近年は少なくなったが中高生も含まれる。当然のように日本人が大半を占めるが近年は中国・韓国・台湾などからやって来た外国人留学生も増加傾向らしい。 

徐々に仲間の数を増やしていく普遍的なRPGとは異なり、冒険者は基本的に最後まで単独で行動する。だが、友人同士でパーティを組んで行動する者の姿もちらほら見受けられる。

冒険者は自宅や学校等で業界研究をしたり、先輩・親・就職課の職員などから話を聞いて冒険のヒントを得たり、就職ガイダンスに参加したり、リクナビやマイナビなどの就職情報サイトに登録したり、資格を取得したり、自己PRや志望動機などが問われるエントリーシートを試行錯誤しながら書いたり、一般常識や論理的思考力が試される筆記試験の対策をしたり、面接の練習をしたりしながら経験値を積む。こうしてレベルを上げてから志願する戦地へ赴き、会社その他施設のダンジョンを通り抜け、試験会場に巣食う面接官という名のモンスターを倒して『内定通知』の取得を目指すのである。モンスターが平社員の場合、基本的にザコキャラだ。ラスボスは社長や重役であろう。

時代設定は現代。戦地があるのは東京、名古屋、大阪、福岡など都市部が中心だ。 

冒険期間は数ヶ月。あくまでもこれは目安で、家業を継ぐや親のコネなどの裏技で冒険せずとも一瞬で終える者もいれば、何年かかってもゴールへ辿り着けない者もいる。 

冒険者の初期HP、そしてレベルの上がり方は冒険者の地力によって大きく異なる。基本的に書類選考や筆記試験をパスし内定通知取得へのステップが進むとレベルが上がる(連動してHP最大値も)。面接官から威圧されたり、不採用通知を受け取ったりするとダメージを受けてHPが減る。普遍的RPGのように、宿屋(ビジネスホテル、カプセルホテル等)に泊まったり、食事を取ったりしても必ずしも回復するとは限らない、むしろ減ることさえある。就活世界シュウカツワールドにおいては、それは冒険者自身の精神状態に委ねられる。

HPが0となったらゲームオーバー。こうなると就労意欲が完全に無くなり、たちまちニートと呼ばれる人達となってしまう。冒険途中で鬱病などを患い(普遍的RPGでいう毒に侵された的な状態)、ゲームオーバーとなってしまう冒険者も少なからずいるようだ。

 普遍的RPGと異なる点は、他にもいくつかある。冒険者はモンスターに武器を用いて物理的なダメージを与えたり、民家などに無断で侵入して引き出しを漁ったり、落とし物を勝手に自分の所有物にしたりしてはならない。そんなことをしようものなら警察官と呼ばれる職業名を持つ人々に逮捕され、後の冒険が著しく困難になりかねない。

就活世界では、モンスターは冒険者の巧みな話術による呪文詠唱や、笑顔・挨拶などの心理的攻撃によって冒険者側に好感を持ってもらうことで、倒されるシステムとなっている。

就職活動とは、言い換えれば”限りなく現実世界に近いファンタジー冒険奇譚”なのだ。


なんてくだらない設定を無職の青年、瓦谷慶一(25歳)が就活帰りに公園のベンチに腰掛けて考えていたら、

突如、予期せぬ出来事が――。

「うぉわぁっ、なんだこいつ!?」

 目の前の空間上に、奇妙な物体が三体現れたのだ。慶一はたじろぐ。

 目と口がついている以外は、たこ焼きそっくりな形をしていた。

 直径四〇センチ以上はあるだろうか? リアルなたこ焼きよりも巨大だった。

「わわっ!」

 襲い掛かって来たので、彼はとっさに手に持っていたビジネスバッグをぎこちなく振り回して三体続けてぶっ叩いた。

 すると、跡形もなく消滅した。


どうしてこんなことになってしまったのか?

事の発端は、一時間ほど前まで遡る。

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