喫茶《レモングラス》にて(4)
「いらっしゃいませー」
私はいつも通りからんからんと鳴った方を見る。すると珍しい組み合わせが立っていた。
「真司さんと……なんで?」
思ったことが口から出ていたようだ。二人は目線を泳がせていた。
「さっき偶然にそこで会ってさ!こいつ、蓮って言うんだって!」
「蓮、さん?」
「勝手に人の名前を言うな、小僧」
「こいつ、超偉そうなんだよ!」
「うるさい」
二人のやり取りを見て思わず笑いそうになるが、真司さんのおかげで、彼の名前もわかった。
『蓮さん』
素敵な名前だなぁ……そして真司さんとやり取りしてる彼を見て、普段はこんな話し方なんだと知ることもできた。
「蓮さんはホットコーヒー、真司さんはミルクティーでいいですか?」
「っ……あぁ、構わん」
「あ、ごめんなさい!勝手に名前……」
「いや、いい……」
私が勝手に名前を呼んだことに怒ったのだろうか……顔ごと逸らされてしまった。
彼はいいと言っていたけど、気になって仕方がない。
ちらちらと彼を見るが、彼も私をちらちら見ているらしい。
たまにタイミング良く目が合うとすぐに逸らされてしまう。
そんな私と蓮さんのやり取りを見ていた真司さんは急にこう切り出した。
「あー、俺やっぱアメリカ行くのやめようかなー」
「えっ、アメリカ……?」
私はちょうど出来たミルクティーを真司さんの前に置きながら問いかけた。アメリカに行くなんて初耳だ。
「アメリカに行く前に舞さんとデートしたかったのになぁ、あーあ」
「そんなの、彼女をデートに誘う口実だろ、どうせ」
「違うよ!ほんとに行くんだよ!俺、今ダンスやっててさ、それで飯食ってるんだけど、昔から夢だったんだ、アメリカでダンスの勉強するの!」
「すごいですね、真司さん」
真司さんの夢を聞いたのは初めてだ。
目をキラキラと輝かせて話す姿にほんとにダンスが好きなんだなって感じた。
「だーかーらー!その前に俺とデートして!お願い!」
「無理を言うな、彼女には彼女の予定があるんだ……」
「はい、いいですよ」
「え……ほんと?よっしゃー!」
真司さんの話を聞いていたら、デートしないわけにはいかなかった。
そんな私の返事を喜ぶ真司さんと、ため息をついていた蓮さん。
単純な女だと呆れられてしまったのだろうか。