探偵事務所(1)
彼女は『舞』という名前らしい。
それが知れただけでも、今日の報酬だが……変な奴のせいで、服が汚れた。
最高な日に最悪な気分にさせられたようだ。
「あの男、舞って呼び捨てにしてたな……」
それだけで心がモヤモヤしてくる。
なぜなのかはわからないが……苛立ちともやもやが募っていく。
俺は……いや、この答えを出すのはまだ、早い。確かに俺は彼女に惹かれてはいるが……
「あぁ、くそ」
彼女が気になって何も手につかないなんてな、笑える。
「おーい、蓮!仕事だぞー」
「はい、今行きます!」
俺の仕事は危険が付き物。
彼女の傍に居たいと願えばきっと……危険なこともあるだろう。
「おい、蓮。お前またやったんだって?確かに依頼人を守ることは大事だが、だからって……」
「不可抗力です」
「だからってなぁ、病院送りにすることないだろ……」
「今回は依頼人をストーカーから守り、ストーカーの証拠を集めること。俺は仕事を果たしました」
「はぁ……そんなんだから恨まれるんだよ。色んな奴からな」
なぜか俺は恨みを買いやすいらしい。
思ったことをすぐに言う性格だからか、気遣いができないからか……それはわからんが、なぜかすぐに恨まれ、面倒ごとに巻き込まれる。
ふと仕事場から外を眺めると昨日の『真司』というやつがいた。
このビルに入ろうかどうか迷っているらしく、さっきから入ろうとしたり、また去ろうとしたり。右往左往している。
「はぁ……なんなんだ、あいつ……」
俺は仕方なく、階段を降りてあの男に声をかけた。
「おい、何してる」
「え、あ、いや、その……あー!お前、昨日の!」
「なんのようだ」
「は?お前に用なんて……ってお前、この事務所のやつ?」
「あぁ、そうだ」
「なんだ、そうならそうと早く言えよ!」
なんだ、こいつは。めんどくさい奴だ。
「事務所に何か用か?」
「あぁ!舞さんのことで……」
「舞さんって……レモングラスのか?」
「あぁ、そうだよ!気になることがあるんだよ……」
そう言ったその男。それがなんのことか気になり、そいつを事務所に案内した。