喫茶《レモングラス》にて(2)
俺は、喫茶店に入った。
適当な喫茶店に。
何があったわけでもなく、喫茶へと。
そこには笑顔の可愛い女性が店番をしていた。それを見て、自然と見ていたい気持ちになったが、慌てて目線を逸らす。
そしてなぜか俺はそのまままっすぐ歩いていき、彼女の前に座った。動揺を隠せないまま座ってしまった……。
「ご注文が決まりま……」
「コーヒー」
バカか、俺は。彼女の声を遮って注文してどうする。
「は、はい、かしこまりました。コーヒーですね……ホットとあ……」
「ホット」
またやってしまった、くそ。
頭を抱えたくなったがそれをしたらおかしい奴だと思われる。俺は平然を装いつつも……目は彼女を見てしまう。追ってしまう。ふとコーヒーを淹れている彼女と目が合うが、すぐに逸らす。何事もなかったように。
なぜか、沈黙も心地よく感じる。
「お待たせいたしました、コーヒー、ホットです」
俺は無言で飲む。
味もなかなか悪くない。悪くないどころか、旨い……彼女にそれを伝えたいが、声が出ない。
声を出そうとすると、何かに遮られるように言葉に詰まる。
それを何度か繰り返しているうちに、全て飲み干してしまった……これで旨いと彼女に伝わるだろうか……
「会計」
「え、あ、はい!」
愛想がないやつだと思われただろうか。それとも嫌な奴だと……彼女の表情を見ようとするが、なかなか顔を見れない。
素っ気ない俺にも、笑顔で接してくれる彼女に惹かれた。
その気持ちに気付くまでには時間はかからなかった。
そうか、これが一目惚れか……
「ありがとうございましたー」
彼女の声を背中に受けながら俺は自然と笑みがこぼれた。
また来よう、そう決意しながら。