喫茶《レモングラス》にて(1)
「わー、もう疲れたー……」
私、舞は喫茶店という小さなお店を経営しています。バイトを雇える余裕もなく、一人で小さな店を切り盛りしている。
もともとはお母さんとお父さんのお店だった。
でも、二人が事故でなくなってからは私が一人で経営している。
そんな25歳、独身、彼氏なし。休日にはゲーム三昧なオタク系女子。隠れオタクってやつで、見た目は清楚系。店には花なんか置いちゃってる。(趣味じゃないのに)
今日は珍しくお客さんも多くて大忙し。
やっと、落ち着いたとカウンターのテーブルに頭をつけているとカランカランと昭和な音が鳴り響く。またお客さんだと顔を上げてみると……
「……はっ、い、いらっしゃいませ!」
思わず目を見張るようなイケメン。
今までに見たことのないような長身なイケメン。
爽やかさも兼ね備えつつ、クールな印象もあり……黒いコートがたまらなくワイルドさも秘めて……とそんなことを考えていたら見いってしまった、くそう。
「お好きな席にどうぞー」
と声をかけるとなぜかカウンターの私の前に座る彼。
心臓ばくばく。
今にも聞こえそうだ……だめだ、また見てしまった。彼を見ている、私!
「ご注文が決まりま……」
「コーヒー」
「は、はい、かしこまりました。コーヒーですね……ホットとあ……」
「ホット」
……全てやられた。食いぎみで注文された。
私は笑顔で対応してホットコーヒーを作り始める。
……静かだ。
彼の方をふと見てみるとこちらを見ていた。目があった。
すぐに逸らしてまたコーヒーを作り、彼に出す。
「お待たせいたしました、コーヒー、ホットです」
彼は無言で飲み続ける。
無言で……気まずい。
一人で来るお客さんがあまり居ないからか、戸惑ってしまう。
「会計」
「え、あ、はい!」
ホットコーヒーを一気に飲み干して来店して15分足らずで、会計。
そして帰っていった。
私の周りにはなかなか居ないタイプの彼の後ろ姿を見送る。
「ありがとうございましたー」
不思議な人。それが彼の印象。でも、イケメンだったなぁ……
その後ろではお皿が勝手に洗われていた。
まるで魔法のように勝手にスポンジが動き、お皿が動いていた。
「……あ、また洗い残しが……こら、スポンジ!しっかり!」
あー、もう。私の心の乱れがスポンジにも影響してるらしい。