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いつものケンカから翌日があけた早朝、アルドは
自分の部屋の床であぐらをかいて目を閉じていた。これも修行の一環だがただの瞑想ではない。
しばらくすると彼の口から赤紫色の霧がかったものが吐き出され、彼の身体の周囲を覆っていく。
またしばらくするとその霧状のものは彼の肉体に吸い込まれるようにして消え去った。
ー魔力練功ー
彼がいま行っていたのはこの修行法である。自分の体内に流れる魔力を体外に出し、その魔力を今度は自分の肉体に浸透させる。一見するとただ魔力を出し入れしているだけのように思えるがこれは二つの効果が非常に高い修行法である。
一つは魔力の増強、魔力は使用すればする程に増加される、この修行法では全魔力を放出するため、魔力が回復する際により増強される効率が高い。ただし急激に魔力を消費してしまうと軽い眩暈や倦怠感に襲われるという欠点があるため、この方法を行う時は注意が必要となる。
「ハァ…ハァ…」
長年この修行を続けているアルドもさすがにこの時ばかりはかなりきつく、額に脂汗をかきながら両手をついて症状が治まるのを待つしかない。ただしこの症状はほんの一時だけのものなので少しすると何事もなかったかのように治まってしまう。
「すう…ふう…すう…ふう」
実際アルドは床で仰向けになりながら深呼吸を繰り返すとだんだん症状が治まってくるのを感じていた。
さてこの修行法のもう一つの効果とは何か、それは…………
「アルド、もう魔力の練功は終わったかの?」
ふいに扉の外から爺さまの声が聞こえてきた。すっかり元の状態に戻ったアルドは汗を拭いながら
「おはよう爺さま、いまちょうどよく終わったところだよ」
「ならそろそろ着替えて飯でも食べるとしようか。今日もやる事はたくさんあるぞい」
「はいはい、すぐ行くから待ってて」
早速着替えたアルドは今日もみっちりしごかれる覚悟をしながら食卓につくのだった━━━━━
「さて、魔力の方は調子はどうかの?」
「今日の稽古をする分には問題なし、早速始めようよ」
まず早朝に起きて魔力練功、朝食を取ったら魔術、昼から武術の修行、あるいは近所の手伝い。これがアルドと師匠の基本的な一日の流れだ。
「さて、とりあえずいつものようにワシに放ってみなさい。」
「では、いきます……灼槍!!」
唱えるやいなや煌々と輝くばかりの炎が槍の形を複数形成し、師匠に向かって貫かんと向かっていく。だが師匠は慌てる事なく呪文を行使するべく片手を炎の槍に向ける。
「水牢」
すると師匠の手から水の球が現れ、師匠の周りを包み込んでいく。直後に炎の槍が激突するも、水の壁に弾かれてしまいただ水蒸気をあげるだった。
すぐに別の呪文を使うべくアルドは魔力を手に込める。だが師匠はその場におらず、別の場所から
攻撃してきた。
「水流!」
師匠の手からいくつもの水が溢れ出し、奔流となってアルドに襲いかかる。
「雷衝波!」
だがアルドも負けじと雷の扇とも呼べるであろう広範囲の術を繰り出す。今度は雷の波が水流を打ち破った。
(よし、勝った!)
一瞬そう考えたのも束の間、アルドはいきなり水の球体にその身を包まれてしまった。
その後ろでは師匠が手をかざしていたのが見えた。
「隙ありじゃな術で破ったからといって勝負に勝ったわけじゃないだろうに。」
もちろんアルドは水牢に閉じ込められてるので言葉を出せるわけがない。「グババババ」と哀れな鳴き声を出すしかなかったのだった。
この世界の魔術概念は五つの基本属性、そして二つの特殊属性に分かれている。
基本属性は炎術・水術・地術・雷術・風術の五つから構成され、特殊属性は光術・闇術の二つで構成される。
基本属性は個人差はあれど誰でも発動させる事が可能である。ただしそれぞれに向き不向きの差が極端になり得意な属性以外のものとなるとほとんど発動できない、できてもごく僅かな効果の術しか発動させる事ができないのが現状だ。
そして特殊属性の二つはさらに限られてしまう。
まず光術は治療・解毒・不死属の魔物の攻撃といったものが特徴なのだが扱えるのは教会の聖職者として修行した者、またはその方面に特化した天性の才能の持ち主しかいない。まさに世界でもほんの一握りの者達しか扱えないといっても過言ではないだろう。
そしてもう一つの闇術、これは扱うのは不可能と言われている。理由はただ一つ、闇術を扱えるのはかつて世界を滅ぼしかけた悪魔達だけだからである。
その効果は凄まじく、周りの生物・無機物を闇に吸い込む、または重力の塊として発動させ敵を押しつぶす、更には空間をねじ曲げ異次元空間を創り出したなどの話もあるくらいである。
過去幾人もの魔導師達が闇術の研究を試みたがあまりにも情報がなさ過ぎたため、闇術はほとんど解明されていないのが現実だ。
そのため、一般的に魔術といわれて思い浮かべるのは基本属性の五つの魔術である。
ちなみにアルドの得意属性は炎術と雷術、対して師匠の場合は水術と地術だ。先程二人が使っていたのはそれぞれの得意属性だったというわけだ。
「ぶはっ…ごっふごっふ」
「全く、あんな単純な戦法にかかりおって」
「水牢を使うのは勘弁して下さいよ、こんな所で溺れ死になんてごめんです」
「ちゃんと加減くらいはするさ、ワシを何だと思っておる。自分の未熟ぶりを棚にあげるんじゃないわい」
「せっかく一本取れるかと思ったのに、今日もダメでしたか」
「仮にも師匠としてお主を鍛えるんじゃ、そうそう簡単に負けてたまるか。ほれ、少ししたらもう一回実戦形式でやるぞ、その後に飯にしよう」
「もう溺れ死にするのは勘弁で」
二人の魔術の稽古は昼まで続き、結局溺れはしなかったものの水浸しにされるアルドだった……




