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暮れ始める太陽の下、空き地の中で杖の先端をお互いに向けるようにして構え合うのは2人の男達だった。片方の男はかなり若く、少年から青年へとようやく差し掛かるだろうと思わせる顔立ちだ。少しばかり長い黒髪を束ね、決して相手の挙動を見逃さないと両眼を鋭く細める。
片やもう一方の男は顔のシワがかなり目立ち、一見するとただの好々爺といった印象を持たせる顔立ちだ。彼の白髪もまた、後ろで一本に束ねられている。穏やかにそこに佇みながらも、彼の杖もまたしっかりと少年に向けられていた。
数分間互いに動かずにいたが少年が杖を老人に向かって突き出した。
「シッ」
と少年が息を短く吐き出すとともに杖が鋭く老人に迫る。だが老人は僅かに杖を傾けただけで少年の突きを軽くいなす。
「ほれ」
「シッシッ」
「ほい」
「シュッ」
カンカンカン……と一定のリズムを繰り返しながらの杖が紡ぎ出す音色は、周りの景色に溶け込むかのように心地よく響いていく。
少年が攻め、老人が受け流す攻防は一時間は繰り返されだろうか、ふいに少年が息を吸い込むと同時に老人の懐に潜り込む。老人の鳩尾に肘打ちを撃ち込もうとするその瞬間、少年の視界が反転してしまった。背中を地面に強く撃ち、目の前に杖が突きつけられた瞬間に彼は自分が脚払いをかけられたことを悟った。
「………参りました」
「まだまだ甘いのう、相変わらず攻撃するときに足元がスキになる癖はなおっとらんし」
「爺さまが早すぎるんですよ、かけられた瞬間なんか全くわからなかったし」
「稽古中は師匠と呼べと言っとるだろう。全く…実戦で同じ状況ならとっくに死んでいるところなんだぞ、もう少し精進しろ」
「うぅ…」
「さて、今日の稽古はここまでにしよう。道具を片付けて帰るぞ」
二人の師弟は汗を拭って準備を済ませると空き地に一礼し、帰途につくのだった。
今日の稽古も終わり、食事も済ませて何をするでもなく弛緩した空気が漂う中、爺さまがふいに
「アルド、お前さんも今年で16になるか」
と声をかけてきた。
「そうだね、あと三月ほどくらいかな。どうしたの急に?」
「いや、ワシが赤ん坊のお前さんを見つけてもうそんなに経ったかと思うと、本当に今日までの事があっという間に思えてな」
「爺さまらしくもない、普段なら「今日の稽古は何点じゃな」とか言うくせに」
「歳を取るとこんな風に考えてしまうんじゃ、お前もいずれはわかるよ。まあ、それは置いといてお前さんに聞きたい事がある」
爺さまが真面目な顔付きになったのでアルドは姿勢を正して聞くことにした。
「お前さん、この先どうしたいと思っている?以前にワシが世界中を旅していた話をした時に目を輝かせて聞いていただろう。いや、別に悪いとかそんな事はない。男の子として旅に憧れるのは当たり前だろうしな。ワシが聞きたいのはいずれ旅に出る気はないかという事じゃ」
「そういえば以前にも言ってたね、この村に来る前は魔導師として旅してたって。確かに旅する事には興味はある。でもここを出ていくつもりはないよ」
「ほう、どうして?」
「この村が好きだもの。みんなよそ者のハズの自分に暖かく接してくれるし、食べ物も分けてくれるから。それに…」
「どうした?」
「いや、爺さまももうそろそろいい歳だから何かあった時のために介護の手がいるんじゃ…」
ガツッ!! ゴガン!!
「勝手に人を年寄り扱いするでないわい!!そんな口を叩くのもワシから稽古で一本とってからにせい」
「だからっていきなりゲンコツは酷すぎない!?しかも二発も…あっ、コブできちゃってるし!!」
「こんな大振りなゲンコツもかわせんとは…全く、修行が足りぬわ」
「いや、これ修行関係ないでしょ!!」
こうして一日の終わりは二人のいつもの変わらない師弟喧嘩で終わるのだった…




