72.気持ちは分かるけど、その程度の愛で私を縛れるものかしら
オル子さん激おこちゃぶ台ブレイクを目の当たりにしても、イシュトスは微塵も動じていない。
口元を緩めたまま、私を愉し気に見つめている。ぬう、まるで私の反応を観察しているようだわ! オル子さんは水族館の生き物じゃありませんぞ!
これ以上ミュラを要求してみなさい、法廷での争いも辞さない覚悟ですよ! 母親としてきっちり養育費を請求させてもらいますからね!
目で威嚇していると、イシュトスは瞳を閉じて意外な言葉を告げた。
「分かりました。拒否されたのですから、先ほどの要求は下げることにしましょう」
「……随分あっけなく引き下がるわね。何を言われてもミュラをお前にくれてやるつもりはないけれど」
「でしょうね。ミュラ姫を求めたときのあなたの豹変ぶりは実に素晴らしかった。今にも私を喰らい殺さんばかりの殺気で、絶対に手放すつもりがないという想いがありありと伝わってきましたよ。どうやらあなたからミュラ姫を譲り受けるのは不可能なようです」
「ならばどうする? この私から力づくで奪ってみるか?」
奪わないでね! 絶対に取らないでね! 必死にハッタリかましてるだけだからね!
もし強引にでもミュラを奪うなんて宣言された日には、ミュラを背負ってこの地の果てまでも逃げる所存! 98の支配地を抱える化け物に勝てるはずがないでしょ!
私の問いかけに、イシュトスは首を振って否定する。あ、よかった。
「今、あなたと潰しあったところで喜ぶのはハーディンだけです。彼を倒した後、改めて挨拶に伺いましょう。その際には色よい返事を頂きたいものですがね」
「既にハーディンに勝つ前提の話をされてもね。旗色が悪いのでしょう? 勝てるの?」
「おや、心配してくれるのですか?」
誰が心配なんかするもんですか。私からミュラを奪おうとする奴はイケメンだろうと論外よ。
ただ、さっきの話の割に余裕そうというか、全然ハーディンに負けそうな悲壮感がないというか。自信に満ち溢れてるのが気になるのよね。
「さて、それでは我々は失礼するとしましょうか。同盟を拒まれた以上、一刻も早く支配地に戻ってハーディン軍との戦いに戻る必要がありますので」
「最後に訊かせなさい。『空王』イシュトス、あなたが次期魔王の座を捨ててまでミュラを求める理由は何? あなたはミュラのことをミュラ姫と呼んでいるけれど、この子の素性を知っているの?」
エルザの言葉に、イシュトスは私たちを見つめる。
うぬ、まるで奴から観察でもされてるみたい。こうなったら私も観察しかえしてくれるわ! おほほ! イケメン鑑賞ターイム!
少しの間を開けて、イシュトスは選ぶように言葉を紡いだ。
「同盟を成し得なかった以上、私がミュラ姫を求める理由を語ることはできません。ですが、ミュラ姫の素性に関しては知っていて当然です――なにせ彼女は前魔王アディムの娘であり、ハーディンの妹なのですからね」
「な……」
えっと……え、今、イシュトスなんて言ったの?
ミュラがアディムの娘で、ハーディンの妹って……え、嘘、ドッキリ?
驚きのあまり、何も言葉を発せない私たちに、イシュトスは笑顔を向けたまま教えてくれる。
「その様子だと、ご存じなかったようですね。どうやら闇の姫は未だ言葉を発せないようで。ミュラ姫は前魔王アディム・クロイツの実娘ですよ」
いやいやいや、嘘でしょ? だって、ミュラの名前はミュラだったよ? ミュラがアディムの娘ならミュラ・クロイツってステータス表示されるんじゃないの?
というか、これが本当の話なら、私ってば魔物界のお姫様を誘拐召喚した犯人ってことになるんじゃ……そ、そんなつもりじゃなかったのよ!
「アディム亡き後、ハーディンと『地王』ガウェル、『窟王』ウェンリーの手によって『聖地』の地下牢に囚われ続けていた姫君」
「地下牢……?」
「ハーディンではなく彼女こそアディムの正統な後継者であると、ミュラ姫を立てて自ら魔王に成り上がろうとする魔物たちが魔王軍に山ほどいましたからね。アディムの死後、彼らを封じる意味でも、ミュラ姫を地下牢奥深くに閉じ込め続けていたのですよ」
ミュラを、地下牢に……? あの子を、地下深くに閉じ込め続けたですって……?
胸の中で大きくなっていく衝動をよそに、イシュトスは話を続けていく。
「彼女が言葉を発せないのは、その後遺症でしょうね。光差さぬ闇の地下牢で、鎖につながれ閉じ込められ続けていたのです」
「ミュラを……ハーディンが……」
「ミュラ姫はハーディンにとってそれほど厄介な存在なのですよ。彼女には殺すに殺せない事情があり、無力化したまま最後まで手元に置いておく必要がある。そんな彼を出し抜いたのがあなたなのですよ、オルコ」
やばい。なんかイシュトスが言ってるけど、ちょっとそれどころじゃない。
ハーディンの奴が、ミュラを地下に閉じ込めて、言葉すら発せなくなるほどのトラウマを植え付けて……駄目、感情の昂ぶりが抑えられない。
殺したい。私のミュラをそこまで追い詰めたハーディンを殺してやりたい。
そんな今にも暴れ出しそうな私を止めてくれたのはエルザだった。机の下で私のヒレを握りしめてくれたわ。
視線を向けると、エルザが視線を真っ直ぐにぶつけてくれる。そう、そうよね。今怒り狂ったところで、ハーディンはここにいないもんね。ありがとう、エルザ。
小さく深呼吸して、私はイシュトスに問いかける。弱いところ、情けないところは見せちゃ駄目。
みんなのリーダーだもん、凛とし続けなきゃいけないわ。私は冷酷な魔物、私は『空王』と向き合っても負けない魔物……よし、頑張る、私。
「つまり、ハーディンは今頃ミュラを血眼になって探していると?」
「ミュラ姫だけではなくあなたもですよ、オルコ。リナ・レ・アウレーカが奪った『聖地』の支配地を抱え、ミュラ姫をも引き入れているのですからね。それがあなただと気付いてはいないようですが、ハーディンは依然として各地に刺客を差し向け続けていますよ。カーゼル」
「はいよっと」
イシュトスがチャラウィッチに何かを命じると、アイテム・ボックスから何かを取り出した。
それは大きな麻袋。何やら下部が黒ずんだ色に染まっているのが気になるんだけど……何これ。
疑問符を頭の上に浮かべる私に、イシュトスがやんわりと笑ってとんでもないことを告げる。
「魔王軍からあなたへの刺客たちです。差し上げますよ。目的はミュラ姫の奪還およびその犯人の殺害。一匹を拷問にかけて吐かせましたので、間違いありません」
「刺客たちって……その袋の中には」
「『地王』ガウェルの配下であるオーガ族の首ですよ。全て『白騎士』が斬殺してくれました。袋を開くのは止めておきましょうか。理由は分かりませんが、あなたにもオーガの配下がいらっしゃるようなのでね。同族の死体をみるのは気分が悪いでしょう」
そう言いながら、イシュトスはクレアを見る。クレアは依然として『白騎士』と呼ばれたグルガンを睨みつけている。
いや、流石にここで生首オープンは同族じゃない私でもちょっと……というか、本当に魔王軍から刺客、差し向けられてたんだ。
『聖地』をリナに押し付けられたから、狙われるとは思っていたけれど、まさかミュラが理由でも狙われるなんて。
悔しいけど、つまりイシュトスは刺客を倒すことで私とミュラを守ってくれたということでもあるわ。
借り一つ、大きくならなきゃいいけど……訊かないと駄目よね。エルザに視線を向けると、表情を顰めながら頷いてるし。
「……要求は何。これらの情報と刺客の排除に対して何の見返りを求める?」
「話が早くて助かりますね。要求は先ほど重なりますが、『魔選』におけるオルコと私の不戦協定を結んで頂けませんか?」
「くどいわね。何度も言ってるけど、ミュラの身柄は引き渡せないと……」
「ええ、結構です。その代わりに私があなたに支配地を差し出すこともない、条件付きの無い不戦協定です。何度も言いますが、ハーディンとの戦いに集中したいので、強力な勢力であるあなたと潰し合うのだけは避けたいのですよ。期間はそうですね……ハーディンか私が倒れるまでで如何でしょう」
ほむ、つまりは本当に戦うことだけを禁止する不戦協定ってことね。
さっきは私が魔王になる代わりにミュラを差し出せって内容だったけれど、今回は互いに不干渉でいましょうっていうだけの内容。
もともとイシュトスとぶつかりあう余裕も力もない私たちにとって渡りに船の提案だけど……
「我々としても、ハーディンにミュラ姫を再び奪われるのだけは困るのです。そこであなたが彼女を守ってくれるなら、これほど心強いことはありませんからね」
「言われるまでもないわ。ミュラを私から奪おうとする奴はハーディンだろうとお前だろうと、容赦なく殺してあげる」
「フフッ、恐ろしいですね。私はハーディンの支配地を囲み、監視の目を光らせていますので、あなたたちへの刺客が差し向けられればすぐに動きが取れますからね。可能な限り刺客を排除しましょう。これが協定の見返りですが、悪くない話ではありませんか?」
ぬ、それは助かるかも。
ミュラに関する話を聞いた限りだと、ハーディンがこれから先もミュラと私を諦める筈がないものね。
それなら、イシュトスの膨大な組織力を利用して刺客を殺してくれたほうがいいわ。
私はチラリと視線をエルザに向ける。私としては悪くない取引だと思うけれど、エルザがどう考えるか。イシュトスと将来ぶつかるにしても、それまでの多くの時間が稼げるわ。
今必要としているのは組織が大きくなるため、私たちが強くなるための時間だってエルザも口酸っぱく言ってたしね。
私の視線に、エルザは迷ったものの、小さく頷いた。OK、オルカナティアのブレインであるエルザの許可も得たし、あとは話を推し進めるだけよ。
「……いいわ。お前の要求を呑みましょう、『空王』イシュトス。私たちはお前たちと敵対しない。けれど、お前とハーディンの戦いに参加することもない。互いに不干渉をつらぬく、それでいいのね?」
「ええ、十分です。それでは詳細を詰めましょうか。互いにとって、この協定がより有意義なものとなるように」
詰めるのはエルザの役目なんだけどね! 私が決めちゃうと、穴だらけでイシュトスにどんどん利益持っていかれそうだからね。
その後、エルザとイシュトスの二人が中心となって、この不戦協定の細かな部分が定められていったわ。
この感じだとまだ話し合い終わらないかな……ああ、早くミュラに会いたい。会って頬ずりしたい。ぬわああん! ミュラに会いたい会いたい会いたいよう!
ミュラの正体が元魔王の娘だとか知らないもん! ミュラは私の娘なんだもん! 話し合いが終わったら、大変だったねって、頑張ってねって沢山よしよししてあげるんだから!
「さて、念願のご対面だったわけだが、どうよ?」
大空を飛翔する巨大鷲。
その背に座ったカーゼルがイシュトスを見上げながら問いかける。
茶化すような彼の問いかけに、イシュトスは悠然と笑い返す。
「予想以上です。グラファン君を倒したときより、更に一回りも二回りも強さを増していると感じました。あまりの素晴らしさに、喜びを顔に出さないよう、感情を律するので必死でしたよ」
「オル子だったか、確かにあの魔物の威圧感は半端なかったな。どこまでも傲岸な在り方、相手が『空王』だろうと関係ねえって感じだったしよ。否定しなかったあたり、どうやら『山王』を倒したのはお前の予想通り、あいつで当たりみたいだな。あの鎧鬼を倒すなんざ、マジもんの化け物かよ」
「竜峰近くで支配地を急速に広げているとなれば、『山王』が動き出したことは想像に難くありませんでした。その地が海王城と同じ魂の色で塗り替えられたなら、答えは一つしかありませんからね。恐らく、彼女は支配地を広げているのが『山王』であると読み、手に負えなくなる前に潰したのでしょう。恐ろしく冷静、しかし的確な判断だと賞賛します」
『山王』アヴェルトハイゼンは、ハーディンと並ぶほどに厄介な相手になるとイシュトスは読んでいた。
それはカーゼルも同じで、彼の目的が再び『聖地』の先を目指すものであるならば、いつか巨大な組織を率いた彼と衝突する日は避けられないと想定していた。
だが、その厄介な未来をオル子は『山王』を先んじて叩き潰すことで消し去ってみせたのだ。
竜族とつながる『山王』を放置しておけば、『魔選』において厄介な存在になると読み切って――実際のオル子は当然、そんなこと微塵も考えてなかったのだけれども。
「確かに、奴が支配地を広げていけば竜峰から厄介な連中まで出てきかねなかっただろうな。お前と同じくそこまで読むのかよ、オル子は」
「それができるほど秀でた魔物なのですよ、彼女は。しかし、あの強者アヴェルトハイゼンすらも彼女は凌駕しましたか……絶対に逃しませんよ、オルコは私が必ず手に入れます」
「まあこっぴどく振られちまったけどな。敵の意識を自分ではなくハーディンにすり替え、やっとのことで非戦協定こそ結んだ訳だが……まさかミュラ姫と魔王の座の交換を拒否するとは予想外だ。さて、イシュトスよ、連中の反応をどう見る?」
試すようなカーゼルの問いかけに、イシュトスは何一つ動じることもなく答えを返す。
「間違いなくオルコは『鍵』のことを知っているでしょう、魔王となるだけでは足りない、『聖地』と『鍵』が揃わなければその先に進めないことをね。ミュラ姫を求めたとき、彼女は殺気を解放したでしょう?」
「ああ、ぶち切れてたな。あんな重苦しい殺気をぶつけられたのは久々だ。二度とあんな化け物のマジ切れに付き合いたくはねえなあ」
「あれは彼女の意思表示ですよ。『ミュラ姫を渡して魔王の座を放棄するつもりはない』という、ね。ですが、その反応のおかげで彼女が魔王に固執していることがよく分かりました。魔王になるために必要な『鍵』となる以上、ミュラ姫をオルコが手放すわけがありませんからね」
なるほどと、カーゼルは交渉時のオル子の反応を思い出す。
話し合いの際にて、彼女は常に目をギラギラさせて三人を睨んでいた。まるで獲物を観察するような、そんな獰猛な獣の視線であった。
そして、ミュラを寄越せと要求した際に、獰猛な獣は真なる姿を彼らに見せた。底が見えない殺意と圧倒されるほどの重圧、その姿はまさに魔王を目指すに相応しい怪物だ。
「確かにオル子のミュラ姫に対する執着ぶりはヤバかったな、異常だと言っていいくらいだ。ミュラ姫にあれほど固執するってことは、当然ながらその価値を理解し、次の魔王の座を狙ってるって訳か。ちっ、『鍵』の価値に気づいて無ければ、配下になると称して楽に事が進められたんだがなあ。支配欲に溺れ、力だけが自慢の魔物って訳じゃねえようだ」
「ふふっ、オルコを甘く見てはいけませんよ、カーゼル。あれは恐ろしいほどの獰猛さと奥底の見えないほどの知略を兼ね備えた怪物なのですから。敵を容赦なく惨殺する冷酷さ、強き魔物を惹きつけ配下とする魅力……その器だけで言えばハーディンを上回るかもしれませんよ。だからこそ彼女を飼いならし、我が物にしたいと思うのです」
オルコを手放しで賞賛するイシュトスに、カーゼルはお腹いっぱいだとばかりに肩を竦める。
だが、そんな主の言葉を否定しない。先ほどの会議にて対峙した魔物がどれだけ規格外であるかを、カーゼル自身が身をもって感じ取ったばかりなのだから。
「魔王の風格、ね。まあ、そういう意味ではお前と同格かもな。配下もとびっきり極上どころを揃えてやがるようだ」
「あなたの姪と、白騎士が殺し損ねたオーガ剣士。そして確認できている範囲では、ジーギグラエの娘も配下にいるはずです。そして恐らく、彼女の背後にはリナ・レ・アウレーカも存在するはず。オルコのことです、更に戦力を持っていても驚きではありませんね」
「本拠地だけは未だ掴めてねえんだよな。奴の魂の色で塗りつぶされた場所に魔物を派遣してるが、住処らしい住処が見つからねえ。いったいどこに隠れ住んでいるんだか」
「いずれにせよ、オルコの力は強大ですが、不戦協定が結ばれた今、私と彼女が敵対する理由はありません。ならば、オルコにはハーディンとのいざこざが終わるまでの間、『鍵の保管』と『邪魔者の掃除』の役目をはたしてもらいましょう」
イシュトスの言葉に、カーゼルはニヤリと口元を歪めて確認する。
「予定通り、ぶつけるんだな?」
「ええ、そうです――オルコには面倒な『森王』を片付けてもらいましょう。あれは『魔選』において、ただの『災厄』に他なりません。下手に気まぐれを起こし、いつハーディン側につくとも限りませんからね。不確定要素は極力排除しておきたいのですよ」
「強さというより厄介さが際立った化物だからな、奴は。しかし、おっかねえなあ。結局は厄介な敵を潰すためにオル子を意のままに動かし、その力を利用するんじゃねえか。互いに手出しは無しなんじゃなかったのかよ?」
「手出しはしませんよ。あくまで『森王』を誘導し、オルコと戦うように仕向けるだけです。奴の餌となる以上、ウィッチの里にも消えてもらうことになりますが、構いませんね?」
「それを訊くか? 家族も何もかも捨ててお前に付き従ってんだ、今更だろうが。しかし、オル子が『森王』に返り討ちにされちまったらどうするんだ? 『森王』はお前でも苦戦するような化物なんだろう? 欲しいんじゃなかったのか?」
カーゼルの問いかけに、イシュトスは何でもないように笑みを浮かべる。
それは温かみが微塵も感じられない、どこまでも魔物らしい残酷な笑みで。
「彼女が死んだなら、『聖地』を抱えた『森王』を私たちが殺し、ミュラ姫をその手で回収して話は終わりです。私が欲しいのは強者で在り続けるオルコであり、敗北した時点で彼女に商品価値なんてありませんよ」
「生き残ったなら、オル子たちにばれないように手を回し、これからもその力を利用し続ければいい。どう転んでも、全てはお前の掌の上ってことか」
「ええ、その通りです。最後までオルコが無事生き残ったならば、そのときは改めて彼女の身も心も全て私が直々に頂くとしましょう――ふふっ、期待していますよ、私の愛しいオルコ。より魅力的になるよう、どんどん強者を喰らってどこまでも大きく育ってくださいね。私の誇る、最強の『黒騎士』となれるように」
「さて、オル子はお前の張り巡らせた蜘蛛の巣の上で、意のままにもがき跳ねまわってくれるかね」
大空で笑みを浮かべ、イシュトスは北を目指して飛翔していく。
オル子に続いて、次なる『王』と出会い、糸人形のように己が意のままに操るために。
「ミュラあああああああああ! 大好きよ! お母さんがずっと一緒にいるからね! 何があろうと絶対にあなたの傍を離れないからねええええ!」
「ちょっとオル子! 今から真面目に話し合いをするんだから、ミュラと遊ぶのは後にしなさい!」
「嫌じゃあ! 今、この瞬間私にとってミュラとスキンシップ以上に大事なことなんてあるもんか! うおおおおおお! ミュラうおおおおお!」
エルザの制止をふりきり、私はミュラを乗せて室内で必死に跳ねまわっております! オル子さん喜び愛のカーニバル!
ミュラがぎゅっと私を抱きしめ、きゃっきゃと笑ってくれるから、それを感じる度に目が潤んで泣きそうになる。
ハーディンの馬鹿どもに酷い環境で育てられたことが嘘のように、ミュラはこんなにも素敵な笑顔を見せてくれるのね……うわあああん! 涙が止まらぬうう!
ミュラ、もう過去なんて振り返らなくていいからね! これから先、お母さんとずっとずっと一緒に笑って生きていきましょうね! 何があっても離れないからね! 愛してるわ、ミュラ!




