8.初めてのダンジョン。女は度胸、なんでもやってみるものよ
「クユルの森から北にあるウィッチの里で生まれ育ったんだけど、本当に退屈なところでね。せっかく魔法の才を与えられたのに、何も磨かないまま終わるなんて絶対に嫌だと思ったのよ。気づいたら里を飛び出していたわ」
「いや、気づいたら飛び出していたらって、どんだけ行動派なのよ……平穏を自分から捨てるなんて勿体ない。今すぐエルザは私と体を交換すべきだわ。私はエルザの代わりに里へ戻って運命の出会いを探すから」
「オル子と体の交換ができたら考えてあげてもいいんだけどね。魔物を倒してレベルを上げて、魔法に磨きをかけるための旅の途中だったって訳。そうしたら、運悪く支配級に出くわしちゃって、負けちゃったんだけど」
エルザを背に乗せて、オル子こと私は大空を泳いでおります。
しかしあれね、エルザが旅の仲間として増えたんだけど、実にいいわね。ぼっち旅とは違って雑談できて楽しいわ。
エルザがとんでもなくアクティブな娘ってことも分かったし。臆病な私とは正反対ね、うむ、この娘とはうまくやっていけそう。
しっかりしてるし、優しいし、全力で依存するしかないわ! むむ、ちょっとお腹がすいた。
「エルザ、リンゴぷりーず。リンゴくーださい」
「はいはい、どうぞ」
エルザは魔法を唱え、私の眼前にリンゴを転移してくれた。
それを私は口でキャッチ。あむあむ。おいひー。この甘みが格別ね!
ゴリゴリと噛み砕きながら、私はエルザの素敵魔法を賞賛する。
「エルザのおかげで食糧問題に悩まずに助かるわねえ。『アイテム・ボックス』だっけ」
「大した魔法じゃないわよ、ウィッチなら誰でも使えるもの。褒められて悪い気はしないけどね」
エルザのこの魔法のおかげで、巨大樹に実っていたリンゴを全て回収して持ち運びができるようになったわ。
このおかげで、当分はリンゴで食いつなげそう。ただ、リンゴを回収してるときにエルザが『実験材料』とか言って爆発物黒リンゴまで回収してたのが気になるけど……それは考えないようにしよう。
さて、私たちがクユルの森から離れているのには理由がある。
私が森の支配級モンスターを倒して、支配地を奪っちゃったので、森の魔物が全部私に逆らえなくなっちゃったのよね。
エルザ曰く、支配者になるとその土地で生まれ育った魔物への命令権を得る代わりに、倒して経験値を得ることができなくなるらしいの。
まあ、言ってしまえばRPGのダンジョンのボスが部下を殺してレベルアップなんてしないよねって感じだと思う。
そういう訳で、私がレベルアップするためには、クユルの森じゃない場所の魔物を倒す必要があるの。これが私たちの引っ越しの理由。
レベル上げに良い感じの場所は他にないかとエルザに聞いたら、心当たりがあるそうで、現在そこに向かって移動中なのよ。女二人旅、青春だわー。
「確かこの辺りだったと思うわ。高度下げてくれる?」
「ほいさっさー」
エリザに命じられるがまま、私は下降していく。
でも、あれよね。エルザが背中に乗っていると、私って完全に海やプールのシャチ人形状態よね。
切り立った崖に沿うように降りていくと、下部にぽっかりと空いた洞窟らしきもの発見。わお、天然洞。
腹を地面につけて着地完了。エルザが私から飛び降り、杖をアイテムボックスから取り出しながら洞窟の解説をしてくれた。
「『ヴァルガン洞』。かつて魔王が岩人形の生産拠点として利用していた場所よ。魔王が死んで、生産活動は停止しているでしょうけれど、中には大量の岩人形がまだ蠢いているはずだわ」
「ふーん。岩人形、つまりゴーレムってことかしら。よくこんなところ知ってたわね」
「知識と情報だけなら里でも集めていたもの。あなたに会う前にここでのレベル上げも考えたんだけど、一人じゃ厳しそうでね。前衛無しで戦えるほど甘くはない感じがしたのよ」
つまり、私という壁を手に入れたから、ここを攻略していこうと。
理に適っているけれど、乙女を壁扱いするのはどうなのかしら。こうなったらくっころ女騎士キャラを目指すしか!
「でも、洞窟内って真っ暗じゃないの? 何も見えないなんて困るんですけど」
「魔物は暗闇を問題にしないわ。視力の差はあれど、どの魔物も暗視能力は備えているもの」
ほへえ、また一つ勉強になった。
魔物初心者である私にとって、エルザは本当に頼りになる相棒です。
「それじゃ行ってみましょうか。目標はステージ2への進化よ。支配級を倒すのは相手を見て判断って程度で」
「おけい! 頑張って倒すわよー!」
元気よく返事し、私とエルザは洞窟内へと入っていく。
なんか、良いわ。凄く良い。仲間と一緒だと、ファンタジーしてる気がするわ。
将来的な夢は人になってラブストーリーだけど、しばらくの間はエルザとRPGな感じを楽しむのもいいかもしれないわね。
こう見えても私、地道なレベル上げ作業は嫌いじゃなくてよ? エンディングを迎えたにも関わらず、パーティ全員のレベルを無駄に99まで上げたのは懐かしき思い出ね。
そのゲームプレイングを妹に蔑んだ目で見られて『時間の無駄』とバッサリ切り捨てられた過去はもう忘れた。
洞窟の中は真っ暗なはずだけど、エルザの言う通り、明かりがついているように見通せる。
夜目って訳じゃないのに、魔物って不思議だわ。そもそもシャチが空中で生活している時点で不思議を通り越しているんだけどね!
「……やっぱりいたわね。あいつを倒さないと、この先にはいけないみたいなの。あれに勝てそうもないから、私は断念したってわけ」
エルザが指をさす先には、四メートルくらいの岩ゴーレムちゃんが扉の前に配置されてる。
ふむ、ダンジョンでよくある門番キャラってところかしらね。巨大樹に比べれば小さい小さい。
どれどれ、どんなものかステータスチェック。そーれ、識眼ホッピング、起動!
名前:ロック・ゴーレム
レベル:17
種族:ロック・ゴーレム(進化条件 レベル20)
ステージ:2
体量値:D 魔量値:G 力:C 速度:F
魔力:G 守備:C 魔抵:G 技量:G 運:D
総合ランク:D-
ふむう、微妙ね。あんまり大したことないっぽい。
ステータス偏り過ぎじゃない? ゴーレムらしいと言えばそれまでなんだけど。私としてはもっとこう、バランスよく整えたいというか……まあ、スカイ・オルカも相当偏ってるんだけどね! ぐすん。
敵の種族やレベル、ステータスの詳細を頭脳担当のエルザに伝えてみる。
「ステージ2、ランクD-ね。正直、一人じゃ厳しい相手だけど、オル子と一緒なら余裕でいけそうね。オル子、あなたは前に出て敵の動きを止めてくれる? あとは私が何とかするから」
「ほむほむほむ、任されたわ。私がゴーレムの動きを止めてる間に、魔法を撃ち込むのね?」
「ご明察。近づかれさえしなければ、ゴーレムはウィッチにとってただの的だわ。攻撃は任せて頂戴」
作戦会議を終え、私はゴーレムの前にひょいっと躍り出る。
お、気づいたみたい。ゴーレムがこっちに緩慢な動きでやってきたわ。
ええと、こいつの動きを止めればいいのよね。だったら……
「どっせえええええい!」
「ゴオォォォォ!」
私は全力の突進をゴーレムの膝にぶち込んであげた。
あまりの衝撃に、ゴーレムは勢いよく前のめりに倒れこんじゃった。むふー! してやったりだわ!
ふふん、その図体のバランスの悪さがあだになったわね! シャチの加速を舐めんじゃないわよ! ヤロー! 覚悟するッチ!
起き上がろうとするゴーレムだが、そうはさせないわ。私はゴーレムの背中に飛び乗り、その場でビタンビタンと跳ねまわる。
ふははは! 三千キロのプレスは痛かろう、重かろう! 怯えなさい! 竦みなさい! シャチの怖さを味わいながら逝きなさい!
完全に動きを封殺した私は、遠くのエルザに向かって合図。
「今よ! エルザ、あなたの魔法でゴーレムをけちょんけちょんにしてあげて!」
「馬鹿! ゴーレムの上で飛び跳ねていたら、オル子に当たるでしょ! そこから離れなさい!」
「あ、そうでした。ごめんにゃい!」
慌ててゴーレムの背中から飛び降りる。調子に乗り過ぎちゃいました。
私が飛びのくと同時に、エルザの持つ杖の先端からバチバチと帯電した光が解き放たれる。
「サンダー・ブラスター!」
「ゴゴギャッ!」
格好いい呪文と共に、雷は空気を伝ってゴーレムを直撃。
やだ、サンダーとか格好いい。魔法少女、良いじゃない。どうせファンタジーやるなら私もこういうのが良かったのよ!
あとは素敵なヒーロー、勇者の男の子でもいれば最高ね。後衛メインヒロイン、守られ系オル子、いいじゃない! おっと、妄想の世界に浸ってる場合じゃないわ
「きらりーん! オル子とエルザの友情コンビネーション発動! オル子の追撃が発動しました! とう!」
エルザのサンダー、略してエルサンダーを喰らって、フラフラ状態のゴーレムに私は愛のプレスアタックを慣行。
立ち上がろうとしていたゴーレムは、再び地面とキスをする羽目になる。そんな中でエルザの第二発。
「サンダー・ブラスター!」
「ゴ……ゴ……」
強烈な電撃魔法が再びゴーレムを襲った。
流石に二発は耐えられなかったらしく、ゴーレムはプスプスと煙を放ちながら完全に機能停止してしまったわ。むふー! 大勝利!
私はウキウキと跳ねまわりながらエルザとハイタッチした。ヒレなんだけどね! でも、エルザの片手でハイタッチする姿の何と格好いいことか。やだ、できる女って格好いい……
「ありがとう、オル子。あなたが前に出てくれるから、私は固定砲台として力を存分に発揮できるわ」
「固定砲台というか弾薬庫というか。おっと、レベルアップきたー! わあい!」
ファンファーレと共にレベルアップのメッセージが。13から14になったわ。
どうやらエルザも上がったみたい。エルザは9から11の二つアップ。門番だけあって、なかなかに美味しい経験値でございました。
「新しい魔法も習得出来たわ。『リフレクタ・プリズム』、どんな魔法かしらね」
「いいなあ、私も魔法使いたいなあ。魔法少女まじかるオル子になりとうござる」
「あなたは破格過ぎるステータスとスキルが揃ってるでしょ。それ以上もらうと反則だわ」
戦闘チートスキルより恋愛チートスキルが欲しかったんですよ。ぐぬう。
私の頭をポンポンと触れながら、エルザは良い笑顔を浮かべる。
「門番も倒したことだし、どんどん奥に進みましょうか。どんな呪文か早く試したいわ、良い的を頑張って見つけて実験しましょう」
「ううん、このトリガーハッピーガール。間違っても私には撃たないでね! オル子は悪い魔物じゃないよ!」
「撃たないわよ。魔法のコントロールに関して私は里一番の使い手なのよ? 失礼しちゃうわね」
エルザに突っ込まれつつ、私たちは門番の守っていた扉の向こうへ足を踏み出すのだった。
足というか、尾びれなんですけどね! えへ!
・ステータス更新(スキル追加)
名前:エルザ
リフレクタ・プリズム(自身の魔法を反射させる飛行水晶の生成、操作は任意可:生成可能数1)