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65.常に自分と向き合うことで、女の子はより美しく輝けるのよ

 



「僕たちウィッチ族がこの里に住み始めたのは、第三代『魔王』ラーヴァルの時代まで遡る。前魔王アディムが七代目で、今からざっと二千年ほど昔になるかな?」

「え、魔王ってアディムが最初じゃないの?」

「違うわよ。アディムが初めてなら魔王の死後に『魔選』が開催されるなんて分かりようがないじゃない」


 あ、そっか。魔王が死ぬ度に『魔選』が開催されてきたからこそ、魔王が死んで三カ月後に開始するとか、こういうルールで開催されますよーてのが分かるのよね。納得。


「そもそも『魔選』の始まりは初代『魔王』リハイトが後継者を定めるために始められたものだとされているね。彼は魔物を全て配下に加えた後、膨大な力を以って『魔選』の枠組みを作りだし、この大陸と魔物すべてに『呪い』を植え付けることで儀式の成立としたそうだ」

「呪い、ね……」

「己の死後も、『魔王』と『支配地』の力を以って魔物たちを縛り付ける。ここまで大逸れた力はもはやスキルを超越した『呪い』と言って差し支えないだろうね。だけど、そこに疑問を投げかけたのが第三代『魔王』ラーヴァルだ」

「疑問?」

「うん。『魔選』を勝ち抜き、魔王となったラーヴァルはある疑問を抱かずにはいられなかった。『魔選』という仕組みを世界に創り出すことは、明らかに『魔王』の力、その限界を逸脱してしまっている……とね」


 えっと、いや、やばい、何言ってるか全然分からんぽん。落ち着いて整理しよう。

 初代魔王さんが『魔選』、つまり大統領選挙のルール決めをしましたよ、と。大統領になるためには、こういう選挙と期日で戦って、勝った人がなれますよってことよね。

 でも、三代目の魔王さんが大統領になった時に『ちょっと待ちなよ。俺、大統領になったけど、そんな選挙の仕組み作れるほどの権限ねえんだけど』って異議を唱えたと。

 必死に頭を整理する私を置いて、エルザパパの話は続いていく。


「自身の力が初代魔王より劣っていたとは思わないラーヴァルは、一つの仮説に辿り着いたんだね。この『魔選』の仕組みを作ったのは、初代魔王リハイトなどではなく、別の存在なのではないか、と」

「魔物の頂点である『魔王』を超える存在ですって?」

「そうだね。その仮説を立てたラーヴァルは、配下の一人にある命令を下した。『魔選』に関する情報を過去・現在・未来において収集し続け、蓄え続けておくこと。もし、自分が力及ばず『真実』に辿り着けなくても、他の強者……次代の『魔王』が答えを導くための力となれるように」

「……つまり、この書庫にあるものは全て」

「――『魔選』に関する情報の全てだよ。僕たちウィッチ族は、かつての主であるラーヴァルの遺志を継ぎ、彼に与えられた特別な力によって世界中の情報をここに遺し続けているんだ。参加した『支配者』の情報、『支配者』同士の戦いの結果、支配地の情勢変化……その全てを記し続けることが、ウィッチ族の長に定められた役割なんだね」


 ほむ……つまり、ウィッチ族は『魔選』の非公式記録員さんってことでいいのかしら。

 かつてのご主人様の命令を数千年経った今も忠実に守り続けている、と。なんという見上げた忠誠。

 アヴェルトハイゼンもそうだったけど、魔王に仕える部下って本当に凄いと思う。主の為ならどんなことだってやってのけちゃいそうな凄みを感じるわ。


「僕たちウィッチ族の趣味という理由も否定できないけどね。そういう訳で、僕たちは『魔選』の外側で記録し続ける立場で在り続けなければいけないんだ。エルザ、君がオル子君に忠誠を誓い、共に生きていくことを選んだことは祝福しよう。けれど、僕たちがオル子君の下につくことはできない」

「今は亡き魔王ラーヴァルの遺志に殉じるために、ということね」

「それもあるんだけど、さっきも言ったとおり、僕はこの里の『支配者』ではないんだ。僕たちウィッチ族が未来もずっと『魔選』を記録し続けるために、ラーヴァルは手を打っている。もし、他の魔物に支配地目的でウィッチが滅ぼされてしまっては元も子もないからね」


 エルザパパはラーヴァルがウィッチの里に施した細工について教えてくれたわ。

 まず、ウィッチの里へ出入りするには、ウィッチ族の案内が必要であり、それをなくして辿り着くことは出来なくなっている。

 そして、この里の中での戦闘行為は出来なくなってしまっていること。戦いを行おうとすれば、強制排除の力が働き、里の外に放り出されてしまうのだそう。

 それらはスキルの力であり、そのスキルはウィッチの里の真なる『支配者』が永続的に行使し続けている能力なのだとか。

 ……いや、何そのチート級の能力。戦闘禁止と強制排除って、それ使われたらウィッチの里の支配者を倒すの絶対無理ってことじゃないの? 異能バトルにおいて禁止系と空間系の力はヤバいって漫画でも言ってた!


「つまり、この里の支配者は別に存在して、それも魔王ラーヴァルの時代から生き続けているということ? いったい『支配者』とはどんな……」

「『支配者』なら君たちも既に会っているはずだよ? いいや、言うなればここはもう『支配者』のお腹の中と言ってもいいかもしれないね」

「ちょっと、それってまさか……」


 驚くエルザに、エルザパパは茶目っ気たっぷりに微笑んで告げる。


「そうだよ。ウィッチの里の真なる支配者は、『森』さ。この森は生きている――魔王ラーヴァルの生み出した魔物として、ね」


 森が支配者って……いやいやいや、そんなのあり!?

 かつて戦ったアディム・ユグドラルみたいに大木ならまだしも、森全体が魔物だなんて無茶苦茶過ぎるでしょう?

 木々を燃やしても、地面も川も森の一部だから倒したことにならない気がする。いや、それこそこの森に棲む生き物全てが森として認識されてしまってるかもしれない。

 その答えを聞かされ、エルザは息を吐き出した。


「……なるほどね。この場所がアディムに支配されなかったわけだわ」

「うん。彼もウィッチ族の役割を知っていたからね。リナ・レ・アウレーカをはじめ、数人の部下を引き連れて里を訪れたものさ。そのときまだ君は生まれたばかりだったから覚えてないかもしれないけどね」

「はあ!? ちょっと待って、リナもウィッチの里のことを知っていたの!?」

「もちろん。彼女はアディムの右腕で、頭脳でもあるからね。これまでの『魔選』のことや、ラーヴァルの遺志、そしてウィッチの里の支配者に関することだって当然知っているよ」

「~~~! あの女っ! 無駄足と知ってて私をここに寄越したわね!」


 わあい、エルザさん荒れ荒れでござる。

 まあ、そうだよね。エルザパパの話だと、リナは『ウィッチの里が他の支配者に奪われない』ことを知ってたみたいだもん。

 つまり、エルザのためにウィッチの里を訪れる必要がないことを理解していながら、唆して私たちをここに導いたってことよね。そりゃ荒れますよ。リナ、相変わらず性格ねじ曲がったドS美女ね!

 私はエルザパパやエルザママに会えたから全然OKなんだけども。ぬふー! エルザママ、お腹を撫でられると気持ちいいわ! もっと撫でてもいいのよ!

 

「そういう訳で、エルザの心配していた『支配者による命令権の行使』の可能性は限りなく低いと見ていいと思うよ」

「はあ……じゃあ何、私は無駄足の里帰りをしただけってことじゃない」

「僕たちとしてはそれだけでも十分に嬉しいんだけどね。だが、リナ・レ・アウレーカがエルザをこの地に寄越したのは、君をからかう意味じゃないと思うよ。この地の『支配者』が森である以上、倒される可能性はゼロに等しいけれど、絶対という訳じゃない。彼女が君たちをここに導いたということは、君たちに『抜け道』を教えろということだと思う」

「『抜け道』?」

「『魔選』において、呪いの一つとも言える『支配地の魔物への命令権』。その地で生まれた魔物は、同じ地で生まれたより強い魔物に逆らえない。これは『魔選』における定めの一つだけど、あまりに理不尽な取り決めでもあるとは思わないかい?」

『同じ場所で生まれたというだけで、どんなに支配者より強くなろうともその取り決めがある限り、支配者には逆らえねえし下剋上もできねえ。ジーギグラエのジジイみてえな変わり者でもねえ限り、その地の支配者と戦うことすら許されねえ』


 エルザパパの言葉に、クレアの肩に乗ったポチ丸が吐き捨てるように呟いた。

 そっか、ポチ丸は前海王であるルリカパパを倒してるんだっけ。『魔選』のルールがある以上、本当ならルリカパパに勝つことなんてできないんだ。だからルリカもグラファンが勝ったことに驚いていたのかな。

 ポチ丸の言葉に頷きながら、エルザパパは説明を続けていく。


「これでは『魔選』が始まった時点で、魔王になれる魔物は限られてしまう。どんなに強く生まれても、『魔選』開始の時点で『支配者』の一人になれなかった時点で誰かに命令権を握られ、勝つのは当然難しくなるからね。支配地を集めるだけ集めて、生まれた場所の支配者に支配地を差し出せなんて言われては目も当てられない」

「つまり、『魔選』における『支配者』の命令権から抜け出せる『抜け道』が存在するということ?」

「そういうこと。真に強き者が魔王となれるよう、ラーヴァルが生み出した『支配者』の『命令権』から抜け出す方法がこの地には存在する。そのためにかつて何人もの強き魔物が僅かな情報とウィッチの伝手を頼りにこの地に訪れている。魔王アディムとその右腕たるレナ、配下だった六王の一部もそうだね。私たちはこれを『試練』と呼んでいるんだけど」


 なるほど。そのラーヴァルさんが生み出した方法を使えば、生まれた場所を押さえられても『命令権』を行使されないんだ。

 アディムどころか、その部下たちもルールから抜け出したみたいだけど、それってアディムが彼らに対する命令権を失ってるってことよね?

 まあ、アヴェルトハイゼンの忠誠心を見る限り、そんなものなくてもアディムに従って当然だったんでしょうね。

 あれだけの武人を心酔させるんだもの、アディムってよっぽど凄いカリスマ魔王だったんだろうなあ。レナはバカだったアホだったお前みたいだとしか言わないけど。誰がアホじゃあ!

 エルザパパの話に、いの一番に食らいついたのはエルザじゃなくてクレアだった。


「つ、つまりその試練に頼れば私も『命令権』の縛りから抜け出せるのか?」

「条件を満たすことができれば大丈夫だよ。君はオーガ族かな?」

「ああ。私は主殿に忠誠を誓っているが、記憶がない上に『地王』ガウェルとやらに『命令権』を握られている可能性がある。もし『地王』に命じられ、主殿や大切な人々に剣を向けることになるなど考えたくはない。頼む、どうか私にその試練とやらに挑ませてほしい」


 そっか。ウィッチの里の安全によって、エルザは問題なくなったけれど、クレアはそうじゃないんだ。

 この機会にクレアが『命令権』から抜け出せれば、私たちと敵対したりすることがなくなる! ならば私がとるべき行動は一つしかないわ! いくわよ、ミュラ、ミリィ!

 二人を背に乗せ、私はぴょこぴょこと飛び跳ね、エルザパパの足に擦りついて懇願! ミュラも真似してエルザパパの足に抱き付き! ミリィも私の尻尾に噛み付き!


「お願いよエルザパパ! 私の大切なクレアの未来がかかってるの! どうかその試練を受けさせて頂戴! もしお願いをきいてくれるなら、今日からエルザがあなたのことを『パパ』って呼んでくれるって言ってるわ! 今なら大サービスで『パパ大好き』って一日一回言っちゃうかも!」

「絶対に嫌よ。死んでも言わないから」

「な、ならばエルザの代わりに私が言おう! だから頼む、ぱ、パパ!」

「なんで娘でもないクレアが言うのよ……お願いだからオル子のアホにつられないで」


 アホじゃないもん! 普段ツンツンなエルザに甘えられたりしたら、エルザパパだって嬉しいはずだもん!

 私とクレアのお願いが通じたのか、エルザパパは優しく微笑み返してくれる。


「大丈夫だよ。心配しなくても、断るつもりはないからね。というより、望んだ者には平等に受けさせるようにと魔王ラーヴァルに命じられているんだ。クレア君だけとは言わず、君たち全員受けていくといいよ」

「ほむ、全員?」

「世の中、何がどうなるか分からないからね。例えば、何らかの方法でオル子君が生きたまま支配地を奪われたりするかもしれない。その時に誰かに命令されたりしないよう、保険の意味でも挑んでおくことをお勧めするよ。試練をやったところで、命に別状はないからね」


 ほええ、安心安全の試練なのね。

 うん、でも確かにその通りかも。支配地をスティールする敵なんて現れてもおかしくないし、どんなことがあってもみんなと一緒に戦えるようにしておくべきだわ。


「それなら、オル子さんも受けちゃいます! 命の心配がないなら怖くないもんね! ほらほら、私だけじゃなくてみんなも受けるのよ! テストなんて全員で受ければ怖くないんですよ!」

「リスクがないなら、受けない理由がないわね。いいわ」

「了解しました。楽しみですね」

『頭使う系は勘弁してくれよ? 俺としては敵と戦うとかそういうのがいいんだがな』


 みんなも乗り気でいい感じ。ミュラとミリィも私の頭の上で手と尻尾を叩いて気合十分よ!

 私たちが全員参加の意思表示を示したことで、エルザパパは満足そうに頷いて立ち上がる。そして、同じく立ち上がったエルザママに言葉をかけたわ。


「ではエリーゼ、準備を始めようか」

「はい、あなた」


 二人は書庫内の両隅に在る水晶球に触れ、力を込める。

 すると、大きな振動が館内を襲い、中央にあった本棚がゆっくりと左右に移動していく。おおお、カラクリハウス! ゾンビとか出てこない?

 本棚の奥から現れたのは紫に輝く不思議な大扉。年代物であろうはずなのに、ピカピカに輝いてて綺麗。

 扉の前まで歩み寄り、エルザパパは試練について説明を始めた。


「それでは『ラーヴァルの試練』について説明しようか。まあ、説明と言っても特に難しいことはないんだ。試練に挑む者は一人で扉の向こうへ向かい、室内にある紫水晶に手を触れるだけでいい」

「それだけ?」

「うん。そうすれば試練開始だね。君たちが試練をクリアする条件は唯一つ、その室内に現れる者を打ち倒せばいい。そうすることで君たちは『命令権』の縛りから解放される。もし失敗して敗北しても、何度でも挑めるから焦らず挑戦すればいいよ」

『おっしゃあ! 戦い系は望むところだぜ! カハハッ!』


 ポチ丸さん大喜び。でもあなた、何の力もないポメラニアンだけど、大丈夫? ソロプレイでポチ丸が勝てる未来なんて想像つかないんだけど。

 でも、クリア条件が戦いに勝てというのはシンプル、実に分かりやすいわ。何より、私たちは戦いが得意な魔物揃いだから嬉しいかも。

 問題はどんな敵が相手か、なんだけど。ううん、ランクCくらいまでならみんないける気がする。Bを超えてくると厳しくなってくるかもしれないかなあ……敵、弱いといいなあ。

 不安な気持ちを抱く私たちに、エルザパパはにっこり笑って戦う敵を教えてくれた。


「扉の向こうで戦う相手だけど……戦うのは『自分自身』だ」

「ほえ?」

「『魔選』において、生まれた場所による鎖から解き放たれる方法は唯一つ――偽りの自分を殺し、その鎖を『魔選』に返還すること。これが魔王ラーヴァルの考えた『魔選』の『抜け道』となる『試練』の正体だよ。さあ、頑張って『もう一人の自分』に打ち勝っておいで」

「頑張っておいでって……あの、試練で戦う自分自身って、強さとかスキルとかは……」

「勿論そのままだね。戦いのなかで怪我をしても、戦いが終われば無傷になってくれるから、安心して全力でぶつかるといいよ」


 いや、あの、そうじゃなくて……私の戦う相手、ランクAオーバーでしかも『海王』と『山王』の能力を使いこなしてくる冗談にも程がある敵になっちゃうんですけど……

 エルザをはじめみんなが哀れむような視線を送ってくる。私は大きく息をついて、改めて自分のステータスをチェック。




体量値:S 魔量値:D 力:S 速度:A

魔力:C 守備:A 魔抵:C 技量:E 運:D


総合ランク:A




「うわあああん! こんなふざけたステータス相手にソロプレイとか勝てるかあああ! ミラーマッチとかそんなの聞いてないいい!」


 びたんびたんと飛び跳ねて抗議しても、現実は非情、ルールが変わる筈もなく。

 はれて私はシャチの怪物と戦うことになりました。し、試練のコンピュータレベルが最低設定ならワンチャン……あるよね? ね?



 

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