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64.家族の温もりは大事にしないといけないわ

 



 突然ですが、私にはエルザという親友がいます。


「エルザお嬢様、よくぞお戻りに……ヨシュア様もエリーゼ様もエルザお嬢様のことをずっと心配されていたのですよ。ささ、早く館にお戻りになってお二人に元気な姿を」

「つまらないこと言わなくていいわ」


 エルザはとても綺麗で格好良くて、私の自慢の親友です。

 そんな彼女ですが、なんと驚くことにウィッチ族のお嬢様だったのでした。

 ウィッチ族の長の長女であり、里の中にある大きな館で生まれ育ったのだそうです。


「おお、エルザお嬢様! まさかこうして再びお会い出来るとは、爺は感激でございます! ささ! お二人のもとへご案内いたしましょう!」

「どうせ書庫でしょう? 案内なんて要らないわ」


 館に入るなり、爺と呼ばれた老魔導士がお出迎え。

 エルザを先頭に館内を歩くと、すれ違うウィッチのメイドさんから『お嬢様』、『お嬢様』と喜びの声が上がるのです。

 そんな親友の姿を、私はとても羨ましいなって思います。

 お嬢様としてこんな大きな館で生まれ育ち、執事やメイドさんに慕われ、蝶よ花よと愛されて。このような素晴らしい環境に恵まれたエルザさんを、私はとても……


「うええええええん! うええええええん!」

「あ、主殿!? 突然泣き出していかがされましたか!?」

「えうあば! えうあばー! わだじだっでれいじょうなりだがっだのに!」

「ちょっとオル子、あなた顔が涙と鼻水で顔が凄いことになってるわよ」


 なぜでしょう。エルザを見ていると、自然と涙が零れてきました。おかしいね。

 私の頭の上に乗ってるミュラがぽむぽむと頭を叩いて慰めてくれる。うう、ミュラ、ごめんね。お母さん、エルザが羨まし過ぎて動揺しちゃったみたい。

 ミリィがガジガジと私の尻尾を甘噛みしているのは、ちょっとよく分かんないけど、きっとこれも慰めてくれてるのよね。


「ごめんね、みんな。エルザの家庭環境が私の夢見た異世界お嬢様生活そのものだったから、ちょっと動転しちゃったみたい。羨むばかりじゃ何も始まらないもの、私は私の手で夢のお嬢様生活を掴んでみせるわ!」

「分かったから涙と鼻水をなんとかしなさいよ……ああもう」


 アイテムボックスから布を取り出し、エルザが私の顔を拭ってくれました。あふあふ、ありがとにゅん!

 ふう、エルザのおかげですっきり。ただ、エルザさん、私の顔を拭いた布を執事に渡して『捨てておいて』はないんじゃないかな。オル子さんの鼻水がばっちり糸ひいてるけど、洗えばまだ使えると思うよ?


「まったく、お願いだからウィッチの長の前でそんなアホな醜態は晒さないで頂戴」

「ほむ、でも長ってエルザのお父さんなんでしょ? 敵じゃないし、お願いしにきたんだからワル子演じる必要なくない?」

「あるわよ。場合によっては支配地を強奪するんだから、高圧的に出なさい」

「いやだから何でそんな物騒な発言に!? お父さんとお母さんなんだよね!?」

「それくらいしないとあいつらは絶対に動かないと言ってるのよ」


 ちょっと親御さん、令嬢娘にどういう教育してるの!? 怖すぎるんですけど! 執事さんもハンカチで目頭押さえて『立派な魔女になられて』なんて言わない!

 まったく、せっかくの親子対面だというのに、ピリピリし過ぎて仕方ないわ。私とミュラの親子ラブを見習ってほしいものね。


 まあ、エルザも家を飛び出した以上、ご両親とは色々あるんでしょう。

 そこは親友であるオル子さんが何とか間に入ってあげないとね! 『娘さんの身の安全を考えるなら、大人しく支配地を差し出して下さい』って言えば一発ね! なんか誘拐犯みたいな台詞になっちゃってる気がするけど、意味は一緒だし平気平気。


 エルザに連れられ、館の奥にある室内へと入室。両開きの扉を開くと、そこには見事な巨大図書館が。おおー! ファンタジック、ノスタルジック、ファンタズム! 凄く幻想的なライブラリーじゃないの!

 古びた手製の本が所狭しと棚に詰められ、館内をぼんやりと照らす魔力光が雰囲気出してるう! まさにウィッチの知識庫って感じね!


「おや、お客さんが来たかと思えばエルザじゃないか。帰ってきてくれたのかい?」

「エルザちゃん! あらあらまあまあ、前にもまして可愛らしくなっちゃって!」


 本棚に囲まれ、椅子に座って本を読み耽っている男女が私たちに気づいて顔を上げる。

 うわあ、何この完璧な美男美女。クリーム色の髪が特徴的、モノクルが特徴的な優し気美青年に、エルザと同じ桃色の長髪とふんわりした笑顔がチャーミングなやわらか美女。

 もしかしなくても、この人たちがエルザパパとエルザママなの? 私がエルザに視線を向けると、エルザは心底面倒そうに二人を紹介する。


「父と母よ。毎日こうやって館の図書館に引きこもるだけの無駄な日々を過ごしているわ」

「無駄とは相変わらず手厳しいなあ。ところでエルザ、その異種族の皆さんはお友達かい?」

「ごきげんよう。私はシャッチッチ族の令嬢、オル子・オルコットですの。エルザさんとは学園の良きお友達としてお付き合いさせて頂いておりますわ」

「なに真顔でアホみたいな嘘ついてるの。シャッチッチ族って何よ、シャッチッチ族って。アホな醜態晒すなって言ったばかりでしょ?」

「ぴいい! だって、だってえ!」


 杖でポコポコ殴られ、嘘を暴露されました。少しくらい見栄を張ったっていいじゃない! 言ってみたかったんだもん! 私も令嬢がいいんだもん!

 そんな私たちを見て優しく微笑むご両親。なんだか本当に娘想いな家族ってイメージしかないんだけど……


「エルザがあれだけ毛嫌いして飛び出した里にこうして戻ってきて、それも多くの客人を連れてきたんだ。色々と事情がありそうだね。よければ、話を聞かせてくれるかい?」

「そうね! エルザちゃんに初めてできたお友達ですもの! もっと皆のことが知りたいわ!」


 今、何かエルザママの口からさらりと悲し過ぎる言葉が聞こえたような。

 私は即座にルリカとクレアにアイコンタクト。女の友情発動! ここはエルザを優しくフォローよ!


「大丈夫よエルザ! 私たちが友達になったんだから、エルザはもう一人じゃないもんね! 私たちの友情パワーで晴れてぼっちウィッチ卒業よ!」

「そうですよ、エルザ。今までのことなど、どうでもいいではないですか。今、こうして私たちはオル子様のもとに集まることができたのです。もう寂しくなんてないですよね?」

「う、うむ。気にするな、エルザ。私とて記憶を失い、過去の友人とやらは一人もいないが、充実して今を生きているからな。大切なのは過去の友人ではなく、今ではないか」

『なんだお前、同種族にダチがいなかったのかよ。まあそのツンケンした性格じゃ無理ねえわな。愛想笑いのひとつでも出来るように練習した方がいいんじゃねえか? カハハ!』

「~~~~~!」


 顔を真っ赤にして、突如エルザが杖をブンブンと振り回し始めた。

 ひ、ひええ!? な、なんで怒ってるの!? 私たち全力でエルザのことフォローしたのに!? ご乱心、エルザさんがご乱心でござるうううう!




















 私だけ総計七発ぶん殴られ、エルザの乱は終結しました。なんで私だけ……酷いわ、ぐすん。

 用意してもらった椅子にみんな座って、ティータイムと洒落込みながらお話しタイム。あ、私は椅子に座れないから床に転がってます。私の上にミュラとミリィは乗っかってるよ! 

 あとエルザママがニコニコして私の横に座って私やミュラ、ミリィの頭を撫でまくってる。なぜに? ぬふー! くすぐったくてよ!


 ぐーたらする私の代わりに、エルザとルリカがエルザパパにこれまでのことを説明してくれました。

 エルザと私の出会い、リナによる『魔選』の強制参加、『海王』との戦い、オルカナティア、そして『山王』と繰り広げた激闘。

 最後に、ウィッチの里に来た理由が、他の魔物にこの地を支配されて命令権を奪われないため。

 私たちの頭脳たるエルザが敵に操られてしまっては非常に困るので、それを防ぐためにも支配地を譲渡してほしいこと。

 私たちの目的はあくまでもエルザを守ることで、他の魔物との戦いにウィッチたちを駆り出したり、ましてや強制命令なんてするつもりはないこと。


 エルザとルリカの説明を、エルザパパは優し気な表情のまましっかりと耳を傾けてくれた。イケメンパパに美人ママ、いいなあ。唯一不思議なのは、どっちもおっとりほんわり系なのに、娘のエルザはクール系ってことくらいかにゃ。


「まずはオル子君、娘の命を救ってくれて本当にありがとう。君と出会えなかったら、アディムの眷属によってエルザは殺されていただろうからね」

「本当にこの娘はいつも無茶ばかりして……ありがとうね、オル子ちゃん」

「おほほ! 感謝がこそばゆいわ! 気にしなくていいのよ、お父さん! お母さん!」

「母さん、ミュラやミリィはともかく、オル子を甘やかさないで。際限なく調子に乗るんだから」

「だって、可愛いんだもん。私もオル子ちゃんみたいな使い魔ほしかったなあ。エルザちゃんが羨ましいわ」

「オル子、使い魔じゃなくて主なんだけど」


 エルザママに頭を撫でられ、上機嫌なオル子さんです!

 普段エルザが甘やかしてくれないからね、釣り目じゃないところ以外そっくりなエルザママで気力補充よー! ママさんが食べさせてくれるお菓子おいひい。


「村を飛び出して、まさかエルザが『魔選』に参加しているとは思わなかったよ。しかもあの『海王』と『山王』を続けて撃破しただなんて」

「それよりも早く答えを聞かせて頂戴。ウィッチの里の長として、オル子に『支配者』を譲渡するつもりはあるの?」

「そうだね。『六王』のうち二つの名を冠し、魔物としての実力は申し分ない。エルザをはじめ、強力な配下を揃えている。加えて、魔王の右腕としてその名を轟かせたリナ・レ・アウレーカさえも力を貸している。強き魔物の庇護下に入ることを踏まえても、君の安全に関する意味でも、本当なら頷きたいところなんだけれど――それは出来ないんだ」


 エルザパパの返答は拒否。ウィッチの里を私の支配地にできないという明確な意思表示。

 静かに睨みつけるエルザに、エルザパパは困ったように頬をかきながら、その理由を語っていく。


「僕たちウィッチ族には祖先より任ぜられた『使命』がある。使命を果たすために、僕たちは知識を蓄え続けなければならない。このウィッチの里は『魔選』には参加してはならない、『魔選』とは隔離された外側から情報と知識を集め続け、次代へと残していくこと……それがこの里、そして長の役割として定められているからね」

「……強引に奪うという手もあるのよ?」

「できないよ。僕を倒しても――いいや、僕がそれを望んたところで、オル子君にこのウィッチの里を譲渡することはできないんだ。なぜなら、この里の『支配者』は僕ではないのだからね」


 え、そうなの? エルザパパ、長だから支配者なんじゃないの?

 エルザも知らなかったみたいで、びっくりしてるみたい。

 私たちの反応に苦笑しながら、エルザパパが話を続けてくれる。


「そうだね、まずは僕たちウィッチ族の成り立ちと使命から話そうか。そうすれば、全てを納得してもらえると思う。里の中でも許された者のみが知る真実で、エルザが長になった時に全てを明かすつもりだったけれど……どうやらその日は来そうにないみたいだからね」

「ええ、そんな日は絶対に来ないわ。私の命の使い道は――」


 ぬ? なんかエルザが視線を向けてきた。とりあえずヒレを振っておきませう。ほほほ!

 次の瞬間、全力で溜息をつかれました。あれ、もしかして期待していた反応と違った?

 お腹の上のミュラもブンブンとエルザに手を振ってるけど、親子ともども最高に可愛いから許してね! ほら、なぜかエルザママも一緒に手を振ってくれてるわよ! よかったわね、エルザ!




 

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