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60.あなたと一緒なら何も怖くないわ。勇気を胸に歩いていける

 



「主殿、お気を付けください。我らの勝利は疑いようもありませんが、未だアヴェルトハイゼンは死んでおりません」


 勝利に浸り、ぴょこんぴょこんと跳ね踊る私に、クレアが恐ろしいことを言い始めた。

 マジで? あれだけラッシュ喰らって、エルザによるトドメのバスター極太ライフルくらってまだ息があるの? あいつ、溶岩に落とすくらいしないと死なないんじゃないの?


「死んでいるならば、私たちのレベルが上がらないとおかしいものね。未だレベルアップの気配がないということは、そういうことでしょう」

「そっかあ。んじゃ、最後を締めないとね」


 みんなを引きつれ、ぴょこぴょこと跳ねながらアヴェルトハイゼンの元へ。

 ここから回復されて、復活されちゃ私たちにはもうどうしようもなくなっちゃうもの。みんなのリーダーとして、責任をもってきっちり仕事するよ!


 仰向けに転がったアヴェルトハイゼンを覗き込むと、エルザの砲撃によってフルフェイス鉄兜が完全に破損していた。

 そして、露わになる奴の顔にびっくりぽん。短い茶髪を逆立て、意志の強さと頑固さを感じさせるような美青年がそこにいたわ。あと額に途中で折れた角が二本あるかな。

 くうう! よりによってなんでこいつイケメンなのよ! 愛しのミュラをぶん殴るなんてギルティを犯さなければ全力で突撃したのに!


 私が奴のイケメンフェイスに意識を奪われていたのに対し、他のみんなは別の部分がひっかっかったみたい。

 アヴェルトハイゼンから折れた二本の角、それを見ながらポチ丸が問いかける。


『てめえ、竜族だったのかよ。鉄鎧族とはその素性を隠すための手段だったってのか』

「違うな……竜族でもある、というだけだ。俺は竜族と鉄鎧族との間に生まれし呪い子よ」

「竜族と魔物の間に子を成す……ラグ・アースがいるのだもの、境界線上ならば無理という訳ではないわ」

『魔物である山王が竜族とつながり、飛竜を配下として支配地を広げることができた理由はそういうことかよ』


 ほむ。つまり、アヴェルトハイゼンは糸目男と同じ血が半分入っていたから、鉄鎧族でありながら竜を使役できたってこと?

 アヴェルトハイゼンは、視線を私に向け、力強さを失ったイケボで語り掛けてくる。


「……貴様の勝ちだ、『海王』オル子。貴様は『山王』である俺よりも強かった」

「嫌味かしら? こっちは五人がかりでようやく掴んだ辛勝じゃない。これは私の勝利ではなく、みんなの勝利よ。仮に私がお前と一対一で戦ったとして、勝てるなんて微塵も思えないわ」

「これだけの強き魔物たちが貴様の手足となり、勝利のために戦った……それが貴様の強さでないはずがあるまい」


 いや、そう言ってもらえると嬉しいんですけども。

 オル子さんは一人じゃ何にもできない駄目子ちゃんなので、みんなに依存しまくって勝利を掴むのです! オル子さんはあくまでヒロイン! ヒロインなんですよ! おほほ!


「俺に勝ったことで、これから貴様は『魔選』から嫌でも逃げられなくなる。『小魔王』ハーディン、『空王』イシュトス、そして『竜王』ドラグノス……『魔王』を目指す三人は貴様を逃しはしないだろう」


 あれ、何か一匹増えてるんだけど!? 『竜王』さんに狙われるなんて聞いてないんだけど!

 えええ……おかしいじゃん。竜王って魔物でも何でもない純血の竜族だから、『魔選』参加できないはずじゃない。とりあえず、そこんところ確認しとこう。


「『竜王』も参戦するの? 魔物でもなんでもないのに?」

「他の竜族と奴は違うからな……俺とミリィを失ったことで、『魔選』の駒を失ったドラグノスは自ら動かざるを得なくなる。『魔選』を勝ち抜くために、最早手段を選ぶまい」

「なぜそこまでして『竜王』は『魔選』の勝利を欲するのかしら。『魔選』とは単なる魔物の強者、支配者である『魔王』を決める戦いではないの?」

「違うな。『魔選』で得る『魔王』の称号は、その先にある道を行くための道具に過ぎん。『魔王』となり、『聖地』の扉を『鍵』で開くこと……それが『魔選』の勝者が得られる報酬だ」


 聖地ってあれよね。リナが私に押し付けてきた支配地のことよね。

 『魔選』に必要不可欠で、私がハーディンに狙われることになった元凶だけど……うがー! 何かばっちり『魔選』に絡んでるじゃない!

 最後の最後で必要ってことは、間違いなく私を殺してでも奪いに来るってことじゃないの!

 ぷんすかと憤慨していると、アヴェルトハイゼンの口からとんでもない話が飛び出してきた。


「その扉の奥には、いったい何が存在しているというの?」

「――『奇跡』だ。『魔選』の勝者に『奇跡』を与える存在が、そこには在る」

「な、なんですって!?『奇跡』を与えるですって!?」

「そうだ。その『奇跡』に触れたが故に俺たちは道を違えることになったのだろうな……リナは道を失い、ガウェルは服従し、俺は妄執に囚われた」


 いやいやいやいや、これ、きたんじゃないの?

 もし『魔選』に勝ち上がって、『奇跡』とやらにお願いすれば、私は人になれるんじゃないの!? 美少女オル子ちゃんになって男の子にちやほやしてもらえるんじゃないの!?

 う、うおおおお! 盛り上がってきたああ! まさか私の夢を叶える道が、『魔王』への道だったなんて!


 ……あれ、でもリナからはそんなこと一言も聞かされてないわよね。

 もし『魔選』の報酬が人化の願いを叶えてくれるものなら、私を『魔選』へ参加させるための餌に嬉々としてぶら下げてくるでしょうし。

 つまり、この『奇跡』とやらは、私を人化してくれるようなものではないってことよね。なーんだ、つまんない。

 落胆する私を他所に、自嘲気味に笑いながら、アヴェルトハイゼンは私に告げる。


「その俺の妄執も、ようやく終わりを迎えられる……さあ、殺せ。これから先、貴様に待つのは更なる戦火よ。この『山王』を血肉とし、先の戦いの力とするがいい」

「一応訊いておいてあげるけれど、私の下につくつもりはあるかしら? 私の下につき、全てを捨てて力となるならば……」

「フッ、つまらん話はよせ。全てを尽くし敗北したのだ。ここが俺にとって最高の死に場所に他ならん。それに――何があろうと俺はアディム以外を主と認めるつもりはない。俺の王はただ一人、アディムであって貴様ではない」

『オル子、殺してやれ。戦士にとって心満たす敗北の中で死ねるっつーのは最高の幸せなんだよ。こいつのことを思うなら躊躇するんじゃねえ』


 やばい、ポチ丸の奴、説得力があり過ぎる。リアルで満足死した犬の発言は違うわね。

 でも、まあ、多分そうだろうなって分かってたけどね。アヴェルトハイゼンの奴なら、それを選ぶんだろうなって。

 だから私は心を決めて決行する。強敵であったアヴェルトハイゼンに、敬意を表し、最後の言葉を送って。


「そう、それじゃ仕方ないわね――さようなら、アヴェルトハイゼン。本当に強かったわよ、あなたは。魔王アディムに与えられた『山王』の名に恥じない、恐ろしいほどの強さだったわ」

「粋な言葉を送ってくれる……負けるなよ、『海王』オル子。ハーディンでもイシュトスでも、ドラグノスでもない……俺に勝った貴様が『魔選』を制し、アディムの後継者となることを望む」


 奴の言葉を耳に、私は天井ギリギリまで舞い上がる。

 頑丈な奴のことだから、きっとこのくらい加速付けないと仕留め損ねてしまいそうだから。

 狙いをしっかり定め、そこから一気に加速。さながらギロチンの刃の如く。


「アディムよ、しばし待たせてしまったが……ようやく貴様に会える。強かったぞ、貴様の名を継ぐであろう魔物と、貴様の血を継ぐ――」


 私のラスト・アタックによって、『山王』アヴェルトハイゼンの生涯は閉じた。

 返り血に塗れた私に、エルザはウィッチ式簡易魔法で綺麗にしてくれた。そして、ポンポンと頭を撫でて言葉をかけてくれる。


「……強かったわね、『山王』は」

「……うん。洒落にならないくらい強かったわ。もう二度と、戦いたくないって本気で思えるくらい強敵だった」


 アヴェルトハイゼンを殺し、何故か胸に溢れる寂しい気持ち。

 うーん、なんだろう。ジェットコースターから降りて、遊園地を後にするような感じっていうか……言葉にしにくいこの気持ち。人の心って不思議ね。

 この寂しさを解消するために、エルザの足元にゴロゴロと擦り寄ってみたら杖で頭を叩かれました。あふん。

 寂しい気持ちを満たすために、エルザにこれでもかと構ってもらっていると、脳内に間抜けなファンファーレ音が。おおお、これはっ!




『レベルが3から11に上がりました。条件を満たしたので、スキル『キラーホエール・ダイブ』を獲得しました』


『山王を倒しました。称号『山王』がアヴェルトハイゼンからオル子に譲渡されます。特殊スキル『山王降臨』を獲得しました』


『『はじまりの竜族雄』所有者を倒しました。スキル『はじまりの竜族雄』がアヴェルトハイゼンからオル子へ譲渡されました』


『支配者の討伐に成功しました。『アヴェルトハイゼン』の所有支配地が全て『オル子』へ譲渡されました。現在、あなたの統治する地域は25です。所有支配地が20を超えましたので、特殊スキル『支配地勢力図』の能力が強化されました』




 ほぎゃあああ! な、なんか脳内でピンピロピンポコ鳴りまくってるうううう!

 まるでメタルな魔物を倒したときの如く、怒涛のファンファーレの連続。

 やばい、ステージ3なのにレベルが一気に8も上がっちゃった。レベル上げに一日費やしても1すら上がらないって状態なのに、山王ってしゅごい。


「レベル11。一気に8もレベルが上がったわね。新スキルも覚えることができたし」

「私は9まで上がりました。新スキルはまだみたいです」

「私は19だ。新たなスキルはないが、ステージ4が目前になったな」

『俺は36まで上がったぞ。カハハッ! 流石は『山王』ってところだな!』


 みんなも一気にレベルがあがったみたいね。

 というかポチ丸、あなた進化可能レベルの20を一気にスキップしちゃってるんだけど……進化して1スタートになったらそのレベル無駄になっちゃうのかしら?

 おっと、今はポチ丸のことは置いておくとして、自分のことよ。


「オル子はどうだったの?」

「えとね、レベルアップで獲得したスキルが一つ、称号で得たスキルが一つ、アヴェルトハイゼンから譲渡されたよく分かんないスキルが一つ、そんで支配地数で強化されたスキルが一つって感じ。ううむ、一気に増えちゃったわね」

「それは凄いですね。主殿、そのスキルはどういったものなのでしょうか?」

「うん、ちょっと識眼ホッピングで調べてみるね。にゅにゅにゅーん!」


 新スキルに対して識眼ホッピング発動、説明文かもーん!




・キラーホエール・ダイブ(自身:効果中、他の攻撃スキルを使用した際、その攻撃が命中した後に必中の追い打ちを放つ。ダメージ1.0倍。効果T45:力依存、魔量値消費(小):CT120)


・山王降臨(自身:確率によって発動する無敵障壁を張る。発動確率は基本値30パーセントプラス運のランク補正、Dから一つ上がるごとに5パーセント上昇。効果T600:魔量値消費発動ごとに(小):CT86400)


・はじまりの竜族雄(魔量値を消費し、新たな竜を生み出す。対となる『はじまりの竜族雌』のスキルを所有する相手がいなければ竜は生み出せない:魔量値消費(大))


・支配地勢力図+(常時発動可。アストライド内における支配地の勢力状態を色分けで表した地図を生み出す。また、色分けされた支配者ごとの正確な支配地数を表示することができる。『魔選』中にのみ使用可)




 ほむほむほむ。なるほどなるほど。


 キラーホエール・ダイブは攻撃補助スキルね。これの効果中に攻撃スキルを発動させれば、さらに追撃が掛かる、それも必中と。地味だけどかなり便利なスキルじゃない?

 ブリーチング・クラッシュだろうと、冥府の宴だろうと……あれ、冥府の宴って連続攻撃だけど、これ、判定どうなるの? もし、一発ごとにスキルが発動したりしたら……凶悪過ぎて冥府王の宴になっちゃう!


 山王降臨は予想通りというか、体験した通りのチートスキルだわ。

 発動確率は運で決まるのね。ええと、つまりアヴェルトハイゼンは運がCだったから、35パーセント。つまり、三分の一で無効化だったのね。えぐいわあ。

 なるほどなるほど、んでんで、オル子さんが使った場合はというと、運のランクがDだから30パーセント。ちょっと落ちるけど、十分過ぎるかな?


・はじまりの竜族雄は……何これ? どう使うの?

 多分、この能力を使ってアヴェルトハイゼンは飛竜を増やしていたんでしょうけれど……というか、竜族『雄』ってなんだ!

 私は女の子なんだから、与えられるべきは竜族『雌』でしょう!? 誰が雄じゃ! 激おこですよ激おこ! 責任者を呼びなさい! ふんがー!


 支配地勢力図の強化項目は、地図の色ごとの支配地数が表示されるようになったことかな?

 支配地って線分けされたりしていないから、同じ支配者の支配地が隣接していると塗りつぶされて何個その場所に固まってるか分からなかったのよね。

 ハーディンやイシュトスの色は分かっているから、これで連中の正確な支配地数が分かるかなあ。

 とりあえず、取得したスキルの説明文をそのまま読み上げてみんなに伝えてみた。


「キラーホエール・ダイブは便利そうですね。私などは攻撃を連撃中心に組み立てていますので、非常に羨ましい能力です」

「山王降臨は予想通りとんでもないスキルね。ルリカがいるから、より凶悪なスキルとして運用できそうだし」

「ほむ? ルリカが山王降臨に関係あるの?」

「オル子様、私には『移り気な海女神』がありますから。この力でオル子様の運のランクを、他の能力のランクと入れ替えることが可能です」

「一例をあげれば、あなたの力と運を入れ替えれば、無敵障壁の発動率が跳ね上がるでしょう?」

「おおお! な、なるほろ! つまり、ルリカのスキルによって運をSにすると、無敵障壁の発動率は……45パーセント!?」

「50パーセントよ」


 50パーセント! 攻撃を半分もシャットアウトしちゃうの!? わはー!

 なんて有用過ぎるスキルなの! これがあれば、痛い思いをする回数が格段に減ってくれるじゃない! ありがとうアヴェルトハイゼン! あなたの力は私が大切に使うわ!


「残るは二つ……支配地勢力図はいいとして、問題はもう一つのスキルね。『はじまりの竜族雄』、この力でアヴェルトハイゼンは配下を増やしていたのでしょうけれど」

「女の子に雄だなんて失礼しちゃうわよね! オル子さんは生物学的に完全に女の子なんです! 今すぐスキルの改名を要求するわ!」

「持ち主の性別は関係ないのでしょう。このスキルを発動させるには、対となる『はじまりの竜族雌』が必要となるとのことだけど……」


 そう言って、エルザは視線を上へと向ける。エルザだけじゃなくて、他のみんなも私の頭上へ。ぬぬ? どうして視線を上に?

 つられるように、私も視線を上にあげると、私の頭上につぶらな瞳の桃色ドラゴンちゃんが。うおおお!? い、いつのまに!?

 私たちを見下ろす桃色ドラゴンちゃん、尻尾をばったんばったんと振り回してる。


「アヴェルトハイゼンとの戦いのせいで、あなたの存在をすっかり忘れていたわ。桃色ドラゴンちゃん、あなたのご主人様は私が殺しちゃったけど、怒ってたりしない? 襲い掛かっちゃやーよ、反撃しないといけなくなるものね」

「きゅるくー」

「あらま、ラッコのような可愛らしい鳴き声……って、おほおおお!?」


 ドラゴンちゃんを見上げてたら、突然ベロベロと舐め回されたでござる。な、何事!?

 落ち着いて桃ゴンちゃん! オル子さんは食用魚じゃなくてよ! 村の子どもたちから『オル子様、おいしい?』とよく訊ねられる私だけど、決して食べられませぬ!

 べろんべろんに舐められ、ゴツンゴツンと頭を摺り寄せられ、されるがままの私。あの、誰か助けてくれませんかね? オル子さん玩具状態ですよ?


「懐かれたわね。アヴェルトハイゼンの支配地を得たことで、あなたを主とみなしているのか、『はじまりの竜族雄』を手に入れたことでオル子を番とみなしているのか」

『飛竜じゃねえな。おそらくは竜族だろうが……大きさ的にはまだまだガキっぽいな。人化できねえところをみるに、ステージも低いんだろ。恐らく、このガキが対となる『はじまりの竜族雌』を持ってるんだろうな』

「……オル子、この竜のステータスを見てくれる?」


 あの、唾液塗れになってるところに突込みはないんですか。そうですか。

 桃色ドラゴンちゃんに甘嚙みされされたまま、私は識眼ホッピング。おおう! 噛みながら舐めないでくださいまし! 私はキャンディではなくてよ!




名前:ミリィ

レベル:1

種族:ドラゴン・ベビー(進化条件 レベル20)

ステージ:1

体量値:D 魔量値:D 力:C 速度:F

魔力:F 守備:C 魔抵:E 技量:G 運:C


総合ランク:D




 おおう、見事に初期レベル初期ステージ。

 それでいて、このステータスは凄いんじゃないの? 力と守備、運が既にCランク。竜族って凄いのねえ。

 尻尾を咥えられ、ぶら下がった状態のまま私はみんなにこの子の能力を説明する。UFOキャッチャーの景品かなにか?


「やはり竜族の子どものようですね。オル子様への行動を見る限り、じゃれついてるだけの無邪気な幼子のようにしか見えませんが」

「オル子、どうするの? その子は『はじまりの竜族雌』のスキルを持っているでしょうから、出来ることならオルカナティアに連れて帰りたいのだけど」

「どうするって……いやいやいや、こんだけ懐いてくれてるんだもん。流石に放置したり、殺したりするのはちょっと……桃ゴンちゃん、私と一緒に来る?」

「きゅるくー!」

「ぬおおおおおおおおん!」


 私の問いかけに、桃ゴンちゃん歓喜の大暴れ。私を咥えたままブンブンと上下に首をシェイクシェイク。

あ、意思の疎通はできてるっぽい。まるでミュラと会話してるみたいね。子どもは無邪気で可愛いね。


「もしオル子と竜族のスキルによって、オルカナティアで飛竜の飼育に成功できたなら、よりオルカナティアの戦力増強につながるわ」

「ラヴェル・ウイングの皆さんと併せて、空の戦力が恐ろしく強くなりそうですね」

「問題はどうやって連れて帰るか、だな。この大きさでは流石に主殿が運ぶという訳にもいかんだろう」


 そうなのよね。この子、子どもと言っても高さにして十メートルくらいあるのよね。

 そもそも、この大きさでは洞窟から外に出ることすらままならないでしょうし。どうしたものかなあ……


「あなたが他の竜族みたいに人化して小さくなれれば問題ないんだけど。流石にそれはね」

「きゅるくー」

「……ぬ?」


 桃色ドラゴンちゃん、私の尻尾から口を離してくれた。

「きゅるくー!」


 そして、一際大きな鳴き声を放ったかと思うと、その体をぐんぐんと小さく縮めていってしまった。おおおお!?

 十メートルほどあった体は、あっというまに三十センチほどの小動物へと早変わり。こぢんまりした桃ゴンちゃんに、びっくり。


「おおー! 桃ゴンちゃんが小さくなっちゃった! 小さくて可愛いわね!」

「あ、主殿、その、少しだけその子を抱かせてもらっても……」

「え? いや、別に私の許可なんかとらなくても。どうぞどうぞ」


 小さくなったドラゴンちゃんを、クレアは抱きかかえて嬉しそう。

 ……クレア、デレデレね。ポチ丸の世話もよく見てるみたいだし、もしかして小動物大好きっ子なのかしら。

 クレアの腕の中で楽し気な鳴き声をあげるドラゴンちゃんを眺めながら、エルザは安堵の息をつく。


「小型になれるようで何よりだわ。まあ、この能力がなければ、そもそもアヴェルトハイゼンがこの洞窟に連れてきたりできなかったはずだものね」

「エルザ、エルザ、もしこの子が小さくなれなかったらどうやって連れて帰るつもりだったの?」

「通路にひたすら『アビス・キャノン』を撃ち込んで、クレアの瞬間移動で脱出できる場所まで掘り進めるつもりだったわ。外に出た後は、ラヴェル・ウイングたちを総動員してこの子をオルカナティアまで運搬することまで考えていたけど」


 エルザって時々恐ろしいことを平然と言うよね。オル子さん、崩落して生き埋めなんて嫌よ。


「なんにせよ、目的は達したわ。ラヴェル・ウイングを案内しながらオルカナティアに戻りましょう。戻り次第、リナに問いめなきゃいけないことも沢山あるもの。『魔選』に関して、色々と……ね」


 ひい、エルザが何か怖い!

 とりあえず、リナとお話合いをしているときは、避難することにしましょう。

 チキンでビビリなオル子さんに、エルザとリナの口論に参加なんて出来ませぬ。

 エルザの静かな怒りを見なかったことにしつつ、私は元気に宣言をする。


「それじゃあ、みんなでオルカナティアに帰りましょう! 本当にしんどい敵だったし、帰ったらしばらくはのんびりすることにします! オル子さんもうクタクタです!」


 みんなを引きつれて、私はアルバ火山を後にする。

 ああ、本当に長くて大変な戦いだったわ。おっと、最後に……っと。

 私は地に斃れたアヴェルトハイゼンに視線を向け、ヒレとヒレを合わせてお祈り。


「さようなら、アヴェルトハイゼン――もし次があるのなら、今度は一対一で、ね」

『ハッ、一対一とは剛毅じゃねえか! だが、間違いじゃねえ! あれだけの強者が相手だったんだ、次はタイマンで勝ちてえと思うのが魔物の性ってもんだよな! それでこそ俺を倒した魔物だと褒めてやりてえぜ!』

「なんと……流石は我が主殿、より高み、より貪欲に強者を求める姿……このクレア、心打たれました」

「ないわ。絶対に、この子に限ってそれはないわ。いい加減付き合いも長くなってきているのだから、この子のアホな思考回路を理解してあげなさい」


 みんなの声を華麗にスルーして、私は笑ってアヴェルトハイゼンに別れを告げ、アルバ火山を後にする。


 そう、もし次があったなら、今度は一対一で――結婚を前提にお付き合いして頂戴ね!


 さようなら、この世界で初めて出会った、私好みの超絶イケメンイケボさん。

 来世で出会う時は、是非とも王子様とヒロインでよろしく! ……なんてね。


「――もっとも、あなたは死した後も魔王アディムの魂と共に在ることを望むのでしょうけれど、ね。死んだ後にそこまで想われるなんて、ちょっと羨ましいかな? あいたっ」


 ぽつりとそんなことを呟くと、エルザに杖でコツンと叩かれた。なぜに。

 そんな私に、エルザは溜息をつきながら諭すように告げる。


「あなたがそんなものを羨む必要なんてないでしょう。私たちがアヴェルトハイゼン程度に『想い』で負けているとは思わないもの」

「ほむ……あれ? 今、さりげなくエルザってばデレた? ねえねえ、今、オル子さんのこと大好きって言ってくれた? 私が死んでもずっと想い続けてくれるってこと?」


 私の問いかけに答えず、エルザは早足で前へと歩いていく。

 ぬおおお! 逃がすかあああ! 貴重なエルザのデレタイムを無駄にする訳にはいかぬう! 強敵とのバトルで疲れ切ったオル子さんの心には、エルデレという癒しが必要なのです!

 びたんびたんと飛び跳ねながら、私はエルザの背中を追いかけながら絶叫する。


「エルザあああ! さっきの台詞、お願いだからもう一回言ってえええ! 生まれ変わっても私の親友だよって言ってええええ!」

「そこまで言ってないわよっ! ああもう、お願いだから擦り寄らないでっ! あなた体中がドラゴンの涎塗れじゃないのよっ! 擦り寄るならルリカにしなさい、ルリカに!」

「いえ、私はミュラ様を抱いておりますので……ここはクレアを」

「わ、私も小竜を抱いていて主殿を受け止めるのは難しい! やはりエルザが適任ではないかと!」

「ルリカ、クレア、あなたたち……後で覚えてなさいよ」

「あれ、なんかオル子さんの押し付け合いが始まってない? オル子さんってみんなに愛されてるんだよね? ね? ね? みんな私のこと好きなんだよね?」


 まるで罰ゲームのようにみんなの間でたらいまわしにされる私。私はババ抜きのジョーカーか何か?

 アヴェルトハイゼン、あの世から見ているかしら? これがあなたとアディムの絆にも負けない、私たちの絆パワーよ。みんなに愛され過ぎなヒロインで申し訳ない! えへ!








 ~四章 おしまい~





 

 

以上で、四章の終わりとなります。ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました!

まさかここまで話が進むとは思っておらず……本当に皆様のおかげです!

幕間を挟んで、また次章開始という形になると思います。まだまだ続くおバカなオル子の物語、これからも何卒よろしくお願いいたします!


 


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