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59.勝ち続けるわ。大切なあなたのために

 



 これまでのあらすじ。

 みんなが突然アヴェルトハイゼンの後ろに現れ、ミュラが黒い大玉を奴にぶつけたら何かスキルが封印されました。まる。


 ええと……急にみんなが転移してきたのは、間違いなくクレアのスキル『転移「瞬」』によるものだと思う。

 敵に全く気付かれず、一瞬にして移動する方法なんて、クレアの瞬間移動以外に考えられない。


 そして、ミュラがアヴェルトハイゼンのスキルを封じた大玉。

 あれは多分、ここに辿り着く前にミュラが進化によって覚えた新スキルなんだと思う。

 ボス戦を控えていたので、ミュラが試し打ちをしなかった技だけど、まさか敵のスキル封印効果だなんて……

 ううん、『山王降臨』、『ドラグ・プレス』、『ドラグ・グラビティ』の発動および発動準備をまとめて消してもいるから、封印+ディスペルなのかな?

 何にしても、恐ろしく強力なスキルだわ! 流石私の娘! 可愛くて強くて天才だなんて、お母さんに似たとしか思えないわ! むっふー! 戦闘が終わったらいっぱいナデナデしてあげなきゃ!


「剣舞『紅』!」

「オルキヌス・サイザー!」

「ライトニング・フレア!」


 ボディ頭突きで体勢を崩したアヴェルトハイゼンに、好機とばかりにみんなが襲い掛かる。

 よし! 頭突きからの連携が決まり、みんなの攻撃がまともに入った! 乗るしかない! このビッグウェーブに! シャチだけに!


「『冥府の宴』! これが最後のチャンスと思って暴れなさい!」

「おけい!」

「時計!」

「模型!」

「家計!」

「理系!」

「草食系!」

「滑稽!」

「胡蝶の夢という言葉があるだろう? 命尽き果ててなお、人理に外れた場所で異形として生きる私たちの今は夢でないとどうして言い切れる? いいや、そも既に死を経験した我らにとって死とはなんだ?」


 よし、八匹発動! 異世界名物シャチ祭り、いっけえええ!

 解き放たれた獣のように、マイ分身たちは次々に山王へ向けてアタックアタックあんどアタック! 追撃、連続、突撃って感じでおらっしゃー!

 どうよ! とれたてぴちぴち鮮度抜群、美シャチのほんのり塩味は! 『山王降臨』というチート防御がなければ、耐えられ……


「――俺を、『山王』を、舐めるなっ!」

「うひょお!?」


 私の顔面すれすれを巨大ハンマーが通過した。風切り音ヤバすぎ!

 ま、まだこいつ、こんな力が残ってるの!? 絶対おかしいわよこいつ! 私にエルザにクレアにルリカに……いったい何発殴られたと思ってんの!?

 ボロボロになりながらも、ハンマーを構え直し、アヴェルトハイゼンは叫ぶように声を張り上げた。


「俺の名は『山王』アヴェルトハイゼン! 魔王アディムの盾であり、堅牢不落の守りこそ我が誇り! この程度で倒れるなど、『山王』としての矜持が許さん!」

「くっ、馬鹿な、ここにきて反応速度を上げるなどっ……」

「あ、当たりません!」


 うおおお!? な、なんかクレアやルリカの斬撃を全部ハンマーで弾き返してるうう!?

 なんで!? ハンマー軽量化のスキルも使えないはずなのに! く、くそっ、もうちょっと、あと少しで倒せるのに!

 私が体当たりしても、アヴェルトハイゼンは体をねじって強引に回避し、私の体を蹴り上げる。ぐふう! こ、こいつ体術までっ! 何なのよ、何なのよこいつはあああ!


『追い詰められて底力を解放しやがった! お前ら、絶対に下がるんじゃねえぞ! ここで下がったらこいつの気迫に呑み込まれちまう!』

「そ、それは分かってるけどおっ! ぶふう!?」


 私の尻尾アタックを避け様に回し蹴り。その足が見事に私の顔面にヒット。死ぬう! こいつ、体術も半端じゃない!

 空いた手でハンマーを薙ぎ、ルリカとクレアをまとめて吹き飛ばし、飛んできたエルザの魔法は致命傷にならない程度に回避する。は、発狂モード持ちとか聞いてない!

 ううう、あとちょっとなのに! もう一度、もう一度私たちの連続攻撃が決まればこいつを倒せるはずなのよ!

 こいつだって苦しいはずなのに、ぬわああ! 負けるかあああ!


「勝つのは、勝つのは私たちなのよ! 死になさい!」

「いけません、主殿!」

「――大振りになったな! もらったぞ!」


 あ、やば、こいつ、私の攻撃が雑になる瞬間を狙って……うわあああ! ハンマーがくるうう!

 半身を逸らし、私に向けて巨大ハンマーを振り下ろそうとしたアヴェルトハイゼン――けれど、その奴の背後に回り込む黒い影。

 全身を黒色に染めた、無骨な鉄鎧。まるでもう一人のアヴェルトハイゼン。

 だけど、その正体が誰かなんて私にはすぐにわかってしまう。あれはミュラが敵に変化した姿に他ならない。


「させんぞ!」

「っ、『レプン・カム』」


 背後のミュラに気づき、ハンマーの軌道を急遽後方へ変える。

 それは私のタゲ取りスキル発動よりも早く、鉄槌が吸い込まれるようにミュラの変化した鉄鎧の腹部へと叩き込まれてしまう。あああっ、ミュラあああああ!

 ――だけど、敵に攻撃される刹那、ミュラは掌に集めていた光を既に奴へと解き放っていた。

 光の玉がアヴェルトハイゼンに吸い込まれ、奴の体を重力が縛る。そう、ミュラが身を犠牲にしてまで切り出した最後のカードが今、オープンされた。


「『ドラグ・グラビティ』だとっ!? 他者に変化してスキルを使うなど、まだそんな手を!」


 ミュラが使用した敵のスキル――『ドラグ・グラビティ』によって、敵の動きは拘束された。


 ああ……多分、ミュラはずっとこれを狙っていたんだと思う。

 こいつが私にスキルを発動させた時からずっと、この力を利用して敵を縛るための一手を。そのためなら、自分が傷つくことも恐れずに。

 こうすれば、私たちが何とかしてくれると信じているから。私たちが、必ず勝つと信じてくれたから。


 私たちの前に今、最高にして最後の好機が与えられた。

 ミュラがその身を犠牲にしてまで作ってくれたんだもの――これを活かせずして、何が母親よ! 仕掛けるわ、ラスト・アタックよ!


「はああああ! 剣舞『紅』!」

「全てを込めます! オルキヌス・サイザー!」

「『冥府の宴』!」

「うおおおおおおっ!」


 クレアとルリカの初撃に合わせるように、私はもてる最大の大技を繰り出した。

 『ドラグ・グラビティ』によって鈍り、ろくにハンマーを動かせない奴に回避する術なんてない。

 私たちの攻撃を全てまともに受け、宙を舞うアヴェルトハイゼン。だけど、まだ終わらない! こいつを倒すには、まだこれじゃ足りない!

 ここで倒し損ねてしまえば、私たちに二度とチャンスなんてない。何より、ミュラが体を張って作ってくれた今を逃すつもりなんて、ないっ!


「うああああああああっ!」


 奴の腹部に頭を押し付け、私は全力で加速し続ける。

 そして、洞窟の岩壁に奴の体ごと叩き付ける。だけど、止めない。力を緩めず、アヴェルトハイゼンの体を押し付け続ける。

 『ドラグ・グラビティ』の効果が切れたのか、奴は私から逃れるために、ハンマーを振り上げ、何度も私の背を殴りつける。うぎぎ、ひ、退くもんか! 壁に押し付けられて、腕の振りだけになった攻撃なんて、き、効かないのよ!


「ぐっ、貴様、何を狙っている。俺を押し付けたところで、この状態では貴様とてまともな攻撃などすることが……」


 そこまで言い放ち、奴の言葉は途切れる。どうやら気づいたみたいね。

 そう、グラファンとは違い、こいつには自慢の装甲がある。壁に押し付け、前みたいにヘッドバッドを繰り返しても、到底倒せるとは思えない。だったら――私ではない、別の力に頼ってお前を仕留めればいいのよ。

 私たちの後方では、エルザが杖を構え、その先端に強大な魔力を溜め続けている。


「馬鹿な、あの砲撃を放つつもりか!? この状態で放てば巻き込まれるぞ!」

「うぎぎ……ミュラが、娘が頑張って作った機会よ……逃してなるもんですか……それに、お前はミュラを殴った……その行為、万死に値するわ……」

「くっ、離れろ! あれを喰らえば、貴様も死ぬかもしれんのだぞ! それを分かっているのか!?」

「貴様『も』ってことは、やはりエルザの一撃を今のお前は耐えられないのね……勝負あったわね」


 必死にもがいて抜け出そうとするけれど、させないわよ。アンタはここで終わりなのよ。

 ボロボロになった私に向けて、チャージを終えたエルザが呟く。


「よくやってくれたわ、ミュラ、オル子。さあ、終焉よ。この一撃にして、全てを終わりにする――『アビス・キャノン』! いきなさい!」


 解き放たれた破壊の光、それは私たちにできる最強にして最高の一撃。

 全てを飲み込む一撃に、アヴェルトハイゼンは最後まで諦めることなく脱出を試みようとする。でも、私が抑え続ける限り抜け出せない。

 破壊の光に呑み込まれる刹那、私は彼へ、自分に出来る最高の笑顔で呟いた。


「さようなら、『山王』アヴェルトハイゼン。死にゆくあなたへ、私から最後の言葉を送ってあげる――『死ぬなら一人で死ね』。じゃあね」

「――なっ、うおおおおおおおおおおお!」


 次の瞬間、私の体は空気に溶け、クレアの隣に転移していた。よし、成功!

 これぞ私たちの温め続けた最後の連携! 私が敵を釘付けにし、エルザが砲撃を放ち、クレアの『転移「瞬」』によって救出! 名付けて『シャチで鯛を釣り上げる作戦』よ!


 エルザの破壊の光に呑み込まれ、光が霧散した先には大地に仰向けに転がるアヴェルトハイゼンの姿が。

 奴が倒れたのを確認し、私は慌ててミュラを探す。ミュラは、ミュラは無事なの!?

 私の視線の先には、気絶したミュラを抱きかかえ、笑顔を浮かべて頷くルリカの姿が。よ、よかったあああ!

 安堵する私の背を、隣に立つエルザがポンと叩いて告げる。


「『山王』アヴェルトハイゼンはもう立ち上がれない――あなたの勝ちよ、オル子。本当に厳しい戦いだったけど……よく頑張ったわ」

「勝った……う、うわああああ! 勝てた! 勝てたああああ! やったああああ!」


 喜びを抑えられず、地面を跳ねまわって感情を爆発させた。

 すやすや眠るミュラの前で、ぴょんこぴょんこと跳ねまわりながらシャチ式勝利の舞!

 

 ミュラ、本当によく頑張ったね! ミュラ、あの化け物を倒したMVPは間違いなくあなたよ!

 目を覚ましたら、いっぱいいっぱいナデナデしてあげるからね! ミュラ、大好きよ!



 

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