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57.心さえ折れなければ、それは絶望なんかじゃない

 



 みんなに敵のステータスを伝え、臨戦態勢を整える。

 アヴェルトハイゼンは動く様子は見せていない。ただ悠然とハンマーを構えているわ。先手を譲ってやるってことでしょうけれど……ポンコツな私でも分かるくらい、マジヤバい感が伝わってくるわ。


「余裕かましてる訳じゃなくて、絶対の自信があるからこそってところかしら」

「相手は前魔王アディム・クロイツに仕えた六王だもの。強さに自負があるのは当然だわ。さて、どうする? この距離で魔法を撃ち込んでもいいけれど」

「遠距離に貼り付けさせてもらえるほど甘い相手でもないと思うの。何より、下手に甘い手を打って、これ幸いと一気に距離を詰められてエルザやルリカを狙われるのが怖いわ。誘いと分かっていても、ここは私とクレアが前に出る。エルザたちは私たちの援護と隙あらば射撃を」

「了解。こんな状況で言うのも変な話だけど、無理だけはしないように。オル子が死ねば、そこで私たちは終わる。けれど、あなたが生きていれば他の誰が欠けようとどうにでもなるのだから。王として在ることを忘れないで」

「嫌じゃあ! 私の頭の中には、みんな生き残って大勝利以外は存在しないもん! みんなで舞踏会に参加して男にチヤホヤされるまで、オル子さんと愉快な仲間たちの爆走ロードは止められぬのだ! いくわよ、クレア!」

「はっ! お供いたします!」


 クレアとルリカのバフをかけ終ったのを確認し、いざ開戦!

 クレアと並び、私たちはアヴェルトハイゼンに向けて突っ込む。とにかく後衛組にこいつは近づけさせちゃいけないわ。

 あんな巨大な岩槌で殴られたら、エルザやミュラでは下手すれば一撃死だってありえる! ルリカだって厳しいかもしれない!

 だったら私とクレアで敵の足を止め、前に出させないようにするしかないわ! いざ参るぅ!


「出てくるか。オル子にオーガの娘よ。接近戦に随分と自信があるようだが……『海王』となったその実力、確かめさせてもらおう」


 私たちの接近に、山王はハンマーを天に掲げて待ち構える。

 その緩慢な動作に、私は初撃の成功を確信する。うぬ! あれほどの重量の武器だもの、振り回されても私の突進速度には対応できないはず! 怖がるな、突っ込め!

 一段階ギアを上げて、私はアクセル全開で突進! その腸、もらったあ! オル子さんのヘッドバッドをくらえい!


 全力で加速する私に、アヴェルトハイゼンはハンマーを掲げたまま――全力で上空に跳躍した。え、えええ!? うそん!?

 そして、私の到来にあわせるように、ハンマーで叩き潰そうと……い、いかーん! 『ブリーチング・クラッシュ』発動!


「――『ドラグ・プレス』。捻じ伏せろ」


 スキルを発動させ、私の体は強制的に天井まで高速で浮かび上がる。

 急な方向転換により、ハンマーはギリギリのところで空を切って、地面に突き刺さり――ハンマーを纏っていた黄色の輝きが爆発して、数メートルはあろうかという巨大なクレーターを発生させた。

 背中を天井にぶち当てながら、私はその光景に息を呑む。

 な、なんつー破壊力なのよ!? ルリカに物理ダメージカットを使ってもらっているとはいえ、あんなのもらったらタダじゃ済まないわ!


「うまく躱したな。我がドラグ・プレスの危険を察知するか」

「はああああ!」


 クレアと打ち合いながら、アヴェルトハイゼンは余裕綽々でそんなことを宣う。

 やばい、クレアの神速の剣に、あんなデカい得物を振り回して対応してる。

 何が凄いって、アヴェルトハイゼンの攻め方よ。技術と速度で翻弄しようとするクレアに対し、アヴェルトハイゼンは一撃一撃を全力で打ち込み、強引にクレアを退かせて隙を生ませている。

 クレアの斬撃を恐れず、斬られ様に一撃を叩きこもうとするからクレアも深く斬りこめない。まさしく、守備SS-を存分に利用した皮を切らせて骨を断つ作戦。

 うわあ、なんて強引にして苛烈。グラファンが武という技によって昇華された強さなら、こいつはまさしく獰猛なまでの力。

 強引なまでの破壊力によってどんな状況をも突破しようという無茶苦茶な戦いぶり……まるでどこかの誰かさんみたいじゃない! ぐぬぬ! パクリよ! 私のパクリだわ!


「サンダー・ブラスター!」


 後方から放たれるエルザの魔法やミュラのビームにも、動じていない。

 避ける動作すら見せず、ただひたすらにハンマーを振り回し、クレアを仕留めんと猛攻をかけ続けている。やばい! クレアが完全に狙い撃ち、劣勢に追い込まれてる! 天井にめり込んでいる場合ではない! ふんぬう!


 岩天井から抜け出し、私は加速をつけてアヴェルトハイゼンに体当たり。

 奴の上半身と衝突し、敵は後方へと吹き飛ばされるが――その刹那、体をねじってハンマーを横から薙いで私の体に叩き付けてきた。嘘お!?

 体の側部に巨大槌を叩きつけられ、私は無様に地面をバウンドする。跳ねます跳ねます、そーれ一回二回三回っ!


「あふっ! おふっ! げふうっ!」

「主殿!」

『下がるんじゃねえ! 前に出ろ! オル子の作った好機だろうが!』

「っ、承知! ――剣舞『紅』!」


 アヴェルトハイゼンとは反対方向に転がった私を追いかけようとしたクレアだけど、ポチ丸に一喝され、すぐに敵を追撃する。

 うむ、良い判断よ。オル子さん、死ぬほど痛い目にあった甲斐があるというものです。脇腹ズキズキ痛いでふ。泣いてない、泣いてないもんね!


「今すぐに癒します! 癒しの撫手!」


 体を起こし、パタパタと浮かび上がる私にルリカが近づいてヒーリングをかけてくれる。

 ふう、少し楽になったわ。しかし、私の守りをこんなに容易く貫くなんて。体勢崩してるのに、これほどの威力とか化け物過ぎでしょう?


「ありがとう、ルリカ! 元気百倍、オル子発進!」


 いつまでもボケっとなんてしちゃいられない。ヒレを必死でパタパタさせて、山王とクレアの戦いに割り込めー!

 クレアの必殺スキルを受けながら反撃を繰り出す奴の背中目がけて頭突きドーン! クレアに攻撃している最中だから、さっきみたいな反撃はできないでしょう!


「一撃を喰らってすぐ立ち上がるか……あのアクア・ラトゥルネが回復を担っているようだな。先に排除しておきたいが」

「させると思う? お前はここで釘付けだよ。私とクレア、二人の美女を放置して他の女を追いかけるなんて失礼にも程があるだろう?」

「ふ、違いない。ならば先にお前たちを排除させてもらおうか――鬼岩槌」


 うおお! また岩ハンマーが黄色に光り出した! これが必殺技のチャージだとするなら、またドラグ・プレスとかいう奴が放たれちゃう!

 通常攻撃ならまだしも、あんな地面にクレーター造るような馬鹿技をくらっちゃ拙いわ。大技を警戒しつつ、私はクレアと共闘してインファイトを続行。

 こいつのステータスで唯一攻めることができそうなのは速度がCだということ。加えて巨大ハンマーを取りまわしていては、機敏な戦闘についてこれないはず!

 対して、わたしとクレアの速度はA! このアドバンテージは活用するべきだわ!


「クレア! かき乱すわよ!」

「承知!」


 私とクレアは、アヴェルトハイゼンを挟むように前後を取り、動きを止めることなく攻撃を加えていく。

 攻撃を加えるのは、奴がどちらかを狙って攻撃した時のみ。敵が動けば、背後を取った方が強い攻撃を加える。そして、受ける側は回避に専念する。

 もしくは、エルザやミュラの援護によって生まれた隙を狙い、呼吸を合わせて踏み込む!


 むふふ、これぞ私たちのコンビネーションよ! いくら魔物界広しと言えども、これほどまでに固く結ばれた女の友情による攻撃は他ではお目にかかれないでしょう!

 いくら守備が固くても、全員がかりで怒涛の攻めを繰り返せば倒せることは糸目ドラゴンで証明済みなのよ! まして私はパワーS、エルザは魔力Sだもの、全く通じていないはずがないわ!

 じり貧となったアヴェルトハイゼンに、私はウキウキで空を舞いながら攻めたてる。よし、あとはこのペースを維持すれば……


「良い連携だ。俺に立ち向かうだけの力を備え、有能な魔物を配下に揃えている。『海王』を名乗るに値する魔物だと賞賛もしよう。だが――俺を殺すにはまるで足りんな」


 攻撃を止め、片手をクレアに翳したアヴェルトハイゼン。

 まるで獲物を狙い定めるように、クレアの姿を手で追い続ける姿に違和感。何、何をしようとしてるの?

 どうする? クレアに異常がないなら、無視して攻撃すべき? ただのはったり? ――そんな馬鹿な! 明らかに最強クラスの実力者であるこいつが、はったりで終わらせるわけがない。こいつ、明らかにクレアへ何かしようとしている!

 私は攻撃を止め、慌ててレプン・カムイを発動させる。タゲ取り効果で敵の対象をクレアから私へ。くそっ、何されるか分かんないけど間に合え!


「我が敵を縛れ、『ドラグ・グラビティ』――ほう?」

「あばっ!?」


 アヴェルトハイゼンがスキルを発動させた刹那、小さな光の玉が私に向かって放たれた。それが私に直撃した瞬間、私の体は急激に動きが鈍くなってしまう。

 ぬわああ! な、なんじゃこりゃあ! 速く動いているつもりが、びっくりするくらい鈍くなっちゃった! まるで尻尾を沢山の関取に綱引きされているかのよう! いや、そんなことされた経験ないけども!

 ジタバタしてもがく私だけど、重力から解放されるよりも早く、アヴェルトハイゼンが私の前に移動し、ハンマーを振りかぶり。あ、これ、まずっ……


「オーガの娘を狙ったのだがな。面白い能力を所有しているようだが、果たしてこれを耐えられるか?――『ドラグ・プレス』」


 光り輝くハンマーが私めがけて振り子のように円を描いて振り抜かれた。

 ハンマーが私に接触するや、黄色の輝きが膨れ上がり、爆発。

 殴打と爆撃、二種類のダメージが私のお腹に叩き込まれ、私はものすごい速度で宙へ打ち上げられ、天井に激突、そのままポテンポテンと地面を跳ねて仰向けに転がった。


「オル子っ!」

「オル子様っ!」

「主殿!? くっ、貴様ァ!」


 やばい、なんか頭がぐわんぐわんする。みんなの声が二重にも三重にも聞こえてるう。

 痛みを通り越して意味不明な状態に体が陥っちゃってるし……尻尾とかピクピクしてるんですけど。これ痙攣してない?


 落ち着こう、落ち着こう私。今、何された?

 クレアに何かしようとしたアヴェルトハイゼンを見て、何か嫌な予感がしたからレプン・カムイでタゲ取りをしたら、光の玉が飛んできて、急に体が重くなって、次の瞬間こうなってた。

 いや、こんなの考えるまでもない。アヴェルトハイゼンが使った『ドラグ・グラビティ』、これはきっとデバフスキルなんだ。

 速度を下げたのか、重力を与えたのか、そのあたりはよく分かんないけど、このスキルであいつは私の行動を抑制した。

 鈍った私なら攻撃を当てるのも容易い。その隙を見逃さず自慢の大砲をぶち込んできたってことでしょう。


 参った、まさかこんな方法で当ててくるなんて思わなかった。

 遠くからルリカが遠距離ヒールかけてくれてるけど、回復が全然追いつかない。

 なんとか体は動くけど、被害甚大。ルリカのヴェールがなかったら意識持っていかれてたかも。


「あたた……ふぬんっ!」


 ぴょこんと跳ね、反動で宙に浮きあがって敵の追撃に備える。

 みんなが魔法や剣で足止めしてくれているので、追い打ちされるのは免れたけど……私は口の中に溜まった血を地面に吐き出し、ヒレで口元を拭う。令嬢にあるまじき行為なのはお許しくださいまし!


「オル子様、お怪我は!?」

「全然平気って言いたいけど、ちょっと効いたわあ……回復の追加プリーズう」


 みんなが足止めしてくれている間に、再びルリカが駆け寄ってくれて、近接ヒールをかけてくれた。

 ちょっとやばいね。敵がこれを繰り返されたら、敵を倒すより先にルリカの魔量値が枯渇してヒールができなくなっちゃいそう。そうなれば私たちは終わりじゃない。

 クレアに再びさっきの技を使わないところを見るに、あのスキルはそう簡単にチャージタイムを満たせないのかな。でも、それを過信して放置すると、またさっきの二の舞になっちゃう。

 つまり、先ほどのように足を使ってちまちまと削るだけじゃ勝てないってことね。


「なるほど、強いわ。実に強いじゃない。流石は元魔王の大幹部様ってところかしら」

「オル子様……?」


 鉄壁の守りを誇り、シャチートボディをも容易に貫く大砲スキルを持ち、そしてそれを確実に当てるための手段も在る。

 それだけ強ければ、私たちを上から見下ろすのも当然ね。魔物の中でも指折りの強さを有しているのでしょうね。


 いや、うん、それは分かる。凄いなあとも思う。でも、なんだろう。そう思えば思うほど、私の中で変な感情がぐつぐつと煮え滾ってくる。

 なんだろ、これ。イライラ? ぬう? オル子さん、こんな怒りっぽい人じゃないんだけど、あいつの強さを認めれば認めるほど、気持ちの昂ぶりが抑えられませんぬ。

 ヒールを貰い、防壁をかけてもらい、私は昂る気持ちのままアヴェルトハイゼンを睨みつける。


「悪いけれど、エルザに伝言をお願いできる? アビス・キャノンの準備を終わらせておいてって。そして、ルリカ、あなたはいつでもオルキヌス・サイザーで踏み込めるように準備だけを整えて頂戴――『海王降臨』」


 そうね、ちまちまと削って駄目なら、一気に押し切ってしまえばいいのよ。

 かつてグラファン相手にそうしたように、私にできるのは愚直に力でねじ伏せるのみ。

 どんな敵だろうと、圧倒的な火力を以って、どんな敵も強引に蹂躙制圧すればいい。この『海王降臨』によって。


 青い光が私の体を包み込み、体にグンと力が漲る。多くのステータスが引き上げられ、私のランクはA+まで引き上げられる。

 準備を終え、ルリカがエルザの元へ駆けだしたのを確認し、私はミサイルのようにアヴェルトハイゼンへ向かって飛び出した。


 クレアと剣を打ち合っていた山王は、私に気づいて手を私へと翳しなおそうとする。

 ハンマーも輝きを取り戻しているし、スキルのチャージが完了しているわね――だから何よ? 速攻で殺してあげるわ。


「何やらまだ手を隠しているようだな。面白い、やってみるがいい」

「どこまでも人を試すような物言い、鼻につくわね。ああ、本当に苛立たしい――私がいつからお前より下になったのかしら? 頭が高いのよ、お前は!」

「何度やっても同じことだ。『ドラグ・グラビティ』、奴を縛れ」


 掌から放たれた光の玉が私目がけて飛んでくる。

 ――はっ、馬鹿め。そうくると思っていたわよ! 飛んできた光の玉を、私はタイミングを合わせ、海王の光を纏った尻尾を振り回して全力で弾き返した。

 私のフルスイングによって打ち返されたドラグ・グラビディは、まっすぐにアヴェルトハイゼンに向けて放たれ、そのまま着弾する。


「ぐっ」


 アヴェルトハイゼンの動きは急激に鈍り、先ほどの私と同じ状態に陥ってしまった。

 よし、狙い通り! 奴の手から放たれる光球を見た時から、これができると踏んでいたわ! 

 形ある遠距離攻撃として放たれる以上、ドラゴンのブレスだろうとエルザの魔法だろうと弾き返すこの『海王降臨』、奴の光球を打ち返せない道理はない。

 あとは私がうまく弾き返せるかどうかだったけれど、上手くいって何よりよ。敵の動きが鈍り、ドラグ・グラビティを封じたのを見て、次の一手が打てるというもの!


「ルリカあああっ!」

「はああああっ! オルキヌス・サイザー!」


 私の声を聞くより早く、動いていたルリカが鎌を山王に振り下ろす。

 その一撃を払わんと敵がハンマーを振るおうとするが、鈍りきった一撃なんて怖くないのよ!

 敵が繰り出すより早く、私がハンマーに向けて体当たり。私たちが打ち消し合うなかで、ルリカの鎌は見事に敵へと吸い込まれた。さあ、何の効果が出る!?


「守備力低下を引きました! 今です、オル子様!」

「くっ……能力低下のスキルか」


 良い引きよ、ルリカ! 速度低下か守備低下のどちからであれば、十分過ぎるわ!

 敵の動きが鈍っている以上、この好機は逃さない! ここは一気呵成に攻め立てる!


「舞い踊れ! 『冥府の宴』!」


 スキル発動と同時に、私の周囲に躍り出る十匹の我が分身たち!

 さあ、お前たち! 餌の時間よ! 今回は全員が青い光に包まれた、『海王降臨』ヴァージョンの分身だもの、破壊力は折り紙付き! 私の必殺、とくと味わいなさい!


「いくわよー!」

「参るわよー!」

「突っ走るわよー!」

「転ぶわよー!」

「ボッコボコよー!」

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、そして我々はどこに行くのか……答えを掴むために流離い続ける、それはまるで旅人のようだな」


 我が分身たちが、アヴェルトハイゼンに対してラッシュラッシュラッシュ!

 相変わらず数匹の分身が漫画読んだりネットサーフィンしたりしてサボってるけど、6回も当たれば十分よ!

 『海王降臨』によって破壊力の増した、見事なまでの六連打! 全方位からの攻撃に山王も殴られるがまま! まだまだあ!


「クレア!」

「今ならば深く斬りこめる! いくぞポチ丸!」

『クカカッ! 鉄鎧族だから何だか知らねえが、本気になった俺たちに斬れねえもんざねえんだよ! 気合い入れろよ、鬼娘!』


 シャチ祭りの終わり際に、クレアの全身全霊を込めた一閃炸裂。

 右肩から袈裟切りに剣を奔らせ、奴の自慢の鉄鎧を真っ二つに分割した。ちい、鉄鎧のせいで切り刻むまではいけなかったけど、自慢の装甲を叩き切れただけでも十分!

 まだ敵にドラグ・グラビティとオルキヌス・サイザーのデバフが効いている、畳みかけるならここしかない! 私は全力で体当たりをして、敵を大きく弾き飛ばして合図を送る。


「エルザ、今よ! とんでもない奴をぶちかましてあげて!」

「良いタイミングよ。その全てを消し炭に変えてくれる――『アビス・キャノン』!」


 宙を舞ったアヴェルトハイゼンに、ルリカの最強無比の砲撃が炸裂した。

 極太ビームキャノンが奴を飲み込み、そのまま溶岩を通り超えて洞窟奥の壁の奥まで突き刺さった。よし! ばっちり! 完璧!


「これは流石に耐えられないでしょう! 命のストックを一気に11消し飛ばすくらいの連携だわ! むふー! 大勝利!」


 パーフェクトなコンビネーションに、私は勝利を確信する。

 海王降臨による冥府の宴、ポチ丸剣全開によるクレアの斬撃、そしてエルザのアビス・キャノン。

 私たちの考えられる最強の攻撃を叩き込んだんだもの、いくらS+だろうと、耐えられる訳……耐えられる訳……


「凄まじい破壊力だな。これほどのダメージを受けたのは、アディムとやり合った時以来か」


 耐えられるわきゃないでしょ!? なんで平然と戻ってきてる訳!? オル子さんたちの最強の必殺技だったんですけど!?

 向こうの大穴から起き上がり、跳躍して戻ってきた化け物に、私たちは唖然とするほかない。

 鉄鎧を刻まれ、剥きだしになった肌色の筋肉質な肉体には傷一つついていない。くそうくそう、ほれぼれする肉体美披露しちゃって!


「あれだけの攻撃を受けて倒れないなんて、笑えない生命力ね。しつこい男は嫌われるわよ?」

「そう言うな。俺とてお前のように『力』を解放していなければ、どうなっていたか分からんぞ?」


 そう言いながら、アヴェルトハイゼンの体はうっすらと黄色の輝きに包まれる。

 ……え、何これ。まるで私の『海王降臨』みたいな……あ! も、もしかしてこいつ!? 私は慌てて識眼ホッピングで奴のステータスを確認する。




名前:『山王』アヴェルトハイゼン

レベル:9

種族:エンシェント・ドラグ・アーマー(進化条件 レベル20)

ステージ:9

体量値:S 魔量値:A 力:S 速度:C

魔力:C 守備:SS- 魔抵:S+ 技量:C 運:C


総合ランク:S+




 あああ……名前の前に『山王』表記の追加。総合ランクの上昇。

 間違いない、こいつも使えるんだ……私の『海王降臨』のように、……恐らく『山王降臨』を……

 ステータス上昇がなく総合ランクが上がっているということは、『山王降臨』は能力上昇ではないの?

 困惑する私に、アヴェルトハイゼンはハンマーを背負い直しながら告げる。


「『山王降臨』――アディムに与えられし『山王』とは鉄壁の力。魔量値消費により、敵の攻撃を防ぐことができる。任意で発動できるものではないのが困りものだがな」


 ちょ……それ、つまり確率で敵の攻撃を完全無効化するスキルってこと!?

 ず、ずるいずるいずるい! インチキ、インチキ! ただでさえ防御力が半端ないのに、確率無効化とかありえないんですけど! その確率ってどのくらいなの!? 一割、三割、まさか五割!?

 つまり、さっきの私たちの連携攻撃は全部が全部入った訳ではないってこと!? 私やクレアの一撃一撃ならまだしも、エルザの砲撃を防がれたりしていたら……あ、あばばばばば。


「ドラグ・グラビティを利用し、俺の体を縛って一気呵成に攻め立てた戦いは見事だったぞ。だが、届かなかったな。種が分かった以上、同じ手をくらうつもりはない。俺を殺すにはまだまだ未熟」

「ぐっ……わざわざ自慢の能力まで教えて、余裕のつもりかしら?」

「この力を知れば心がより絶望に浸るだろう? さて、貴様らの大技も見させてもらった。あとは一匹ずつ、時間をかけて確実に仕留めて勝たせてもらおう。残念だがオル子、貴様の負けだ」


 あ、あかん……絶望感が半端ない……視界が真っ暗になりそう。

 これがゲームだったら、絶対コントローラ投げてふて寝してるわ。何このクソゲー、ボスが強過ぎてゲームにならないんですけど。

 馬鹿みたいに高い能力、そしてチートなディフェンス・スキル。これが『山王』アヴェルトハイゼンの力なの? 魔物のなかでも最強の一角と謳われる男の力なの?


 ああ、なんかもう駄目かも……不安に押し殺されそうになり、ちらりと背後に視線を向けると、私を見つめるエルザやルリカ、ミュラの姿が。

 よ、弱気は駄目よ! 私がみんなを守るんだ! ここで負けたらみんな揃って殺されちゃうじゃない! 絶対諦めない、負けないったら負けない!

 必死に己を奮い立たせ、私はキッとアヴェルトハイゼンを睨みつけて叫ぶ。


「ハッ! たった一度攻撃を防いだだけで勝利宣言とは頭がお花畑過ぎて笑えるわ! その程度の盾、私にとっては紙切れに等しいってことを教えてあげる!」

「フッ、諦めの悪さと理解力の乏しさ、どことなく奴に似ているな……リナの奴ならば貴様を気に入ったかもしれん。さあ、くるがいい。もはや出し惜しみなどするつもりはない。全身全霊を以って貴様らを叩き潰してくれる」


 やかましい! 叩き潰せるものなら叩き潰してご覧あそばせ!

 オル子さんのゴキブリ並の生命力を舐めるなあ! 私は負けないったら負けないったら絶対に負けないのよ!

 何があろうと私がみんなを守るんじゃああああ! うわあああん! 死にたくないいいい!



 

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