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55.準備を終えたなら、あとは飛び出すだけね

 



 暑い……暑くて暑くて死にそうです。

 火山洞を潜り続け、トカゲやらスライミーやらを薙ぎ払いつつ進んでるんだけど、尋常じゃない暑さで気が滅入りそう。


「うわああん! エルザ、水、水ううう! このままじゃ干からびて死んじゃうよお!」


 エルザに限界を訴え、ビタンビタンと跳ねまわる。

 そんな私に、エルザは溜息をつきながらウィッチ式生活魔法を発動。

 頭から冷や水をかけてもらい一息。あああ、生き返るわあ……シャチは水が無ければ生きられぬのです! 気持ちいい気持ちいい。


「洞窟内の敵も強い奴はいないみたいね。総じてDランク以下だから、ルリカの慣らしにはちょうどいいのかもしれないけれど」


 魔法で生み出した小さな氷をミュラに食べさせてあげながら、エルザは視線をルリカへと向ける。

 ルリカは私たちから少し先行して、魔物相手に鎌を用いた近接戦闘の練習をしているわ。先生役はクレアとポチ丸。

 これまで後方支援役で近接戦闘経験が皆無なルリカに、二人が手取り足取りイロハを教えているの。オルキヌス・サイザーだっけ、デバフ攻撃はボス戦で使いたいものね。

 今も飛竜の死体の前で三人が戦いについて話し合ってる。


「だいぶ安定してきたし、思い切りもついてきたが、強者相手に正面からぶつかるのはまだまだ心許ないな。私と主殿が道を開き、その隙を見逃さずオルキヌス・サイザーを敵に当てることに集中するといいだろう。とにかく鎌を当てさえすれば、傷の大小に関わらず効果があるようだからな」

「そうですか……クレアのようにオル子様の敵を切り伏せるのはまだまだ先になりそうですね」

『そう落ち込むほどじゃねえよ。初めて接近戦するにしては筋もいいしな。呑み込みも早えし、回数こなしゃそれなりの形になんだろ。流石はジーギグラエのジジイの娘ってところか』

「ありがとうございます、ポチ丸。今夜はご飯に野菜を沢山入れてあげますね」

『野菜なんぞ入れるなっつってんだよ! お前絶対ワザとだろうが!』



 凄いなあ、この暑い中、ピンピンして戦い談義に花を咲かせていらっしゃる。

 まるで運動部の練習を遠目で眺めているよう。万年帰宅部の私には縁遠い世界ですよ。

 エルザにもらった氷を両手いっぱいに抱えたミュラが、それを私に押し付けてくれる。おほー! きくううう! ちめたい、ちめたい!


「ありがと、ミュラ! エルザ! おかげで元気いっぱいよ!」

「それは何よりだわ。少し歯ごたえのある敵が出てきそうだから、その元気をぶつけてもらいましょう」

「へ?」


 エルザの視線を追うと、洞窟の奥からノッシノッシと歩いてくる大きな何か。

 全身真っ赤で尻尾が轟轟と燃えている炎トカゲさん。大きさは飛竜より二回りくらいあるわね。高さにして三メートルくらいかな? どれどれ、識眼ホッピングっと。




名前:アディム・リザード

レベル:11

種族:ファラ・リザード(進化条件 レベル20)

ステージ:4

体量値:C 魔量値:E 力:B 速度:E

魔力:D 守備:A 魔抵:C 技量:F 運:F


総合ランク:C




 おおう、魔王の眷属ちゃんじゃないの! 魔王アディムが造りだした特別な魔物だっけ。

 会うのは海のイカ以来かしら。総合ランクCだし、普通ならこいつが支配者でもおかしくないんだろうけど、ここでは中ボス扱いなのね。


「アディム・リザード、ランクはC。守備がAってくらいで、あとは特筆した能力はないかにゃあ」

「ミュラの進化への総仕上げにちょうどいい相手ね。やるわよ」

「うい!」


 エルザの言葉に、みんなが臨戦態勢を整える。

 相手の炎トカゲちゃんも既にやる気満々。私たちに唸り声をあげ、全力で突進してきた。体当たりには体当たりで対抗よ! オル子さんも突進ドーン!

 私の突進を受け、アディム・リザードが大きく跳ね飛ばされる。むふん、力Sの私を簡単に押し切れると思わないことね!

 後退したトカゲちゃん、バランスを崩したのはおいしいわ。その間にクレアとルリカが自己バフタイムになっちゃうのですよ。


「剣輝『碧』、はああっ!」

「水のヴェール、移り気な海女神――対象は自身の力と魔力です」


 びゅびゅーん。クレアの速度と技術が上昇した! みんなの物理防御力が上昇した! ルリカの力がDランクからBランクになった!

 開幕バフをかけるのはRPGでの王道ね! 準備が整ったところでレッツ蹂躙! いってみよう!


「サンダー・ブラスター!」

「剣舞『紅』!」

「オルキヌス・サイザー!」

「ぬおおおお! はねる、はねる、ひたすらはねるう! この美しき天女の舞をとくとご照覧あれ!」


 押しも押されぬ美少女五人による集中砲火よ!

 エルザの電撃、クレアの一閃、ルリカの斬撃、ミュラの偽オル子ビーム、そしてオル子さんのまな板の上の鯉劇場! このコンビネーションを耐えられる敵なんて存在しないわ!

 トカゲも頑張って反撃しようとするんだけど、図体がデカくて鈍いから私たちの攻撃が全部命中しちゃって打って出るにも出られない感じ。

 結局、トカゲちゃんは三分と持たずに撃破完了。うそ、私たち強過ぎ……? 少し前まで苦戦していた魔王の眷属だったのに、あっという間に倒せちゃった!


「魔王の眷属がこんなに簡単に倒せちゃうなんて凄くない!? クユルの森の大樹やヴァルガン洞のゴーレムにはあんなに苦戦したっていうのに!」

「二度も進化してランクが上がっている上に、こんなに仲間が増えたんだもの。このくらいは当然だわ。さて、Cランクを倒した訳だけど」


 そう言ってエルザはミュラに視線を向ける。きたの!? ミュラ、きちゃったの!?

 私たちの視線に、ミュラはこくんと頷いた。やっはー! ミュラの進化タイムきましたー! クレアに続いて良い流れだわ! いい子いい子!

 ミュラに頬ずりしていると、エルザが確認の意味も込めて訊ね掛けてる。


「進化先はまた二つかしら? 二つあるなら、『オルカ』と似た響きがある方に進化して頂戴」

「とうとうミュラもステージ3かあ……感慨深いわね。こうやってどんどん成長して、いつか私よりも大きくなるんでしょうね……嬉しいやら寂しいやら」

「ミュラがあなたより大きくなれる訳ないでしょ。それじゃ、ミュラ、進化をお願い」

「うわああああ! エルザが私のこと巨漢デブって言ったあああ! うわあああん!」


 びったんびったん跳ねて抗議する私を放置して、ミュラの進化スタート。

 いつもどおり体が光に包まれ、その光が収束すると、そこにはおニューなミュラの姿が!

 ……ほむ、エルザと一緒でステージ2から3で見た目の変化はなしかな? いつもどおり、シャチぐるみのパジャマがぷりちー。

 とりあえず、まずはステータスチェックかな。どれどれ、どんな風に成長したのかなー。




名前:ミュラ

レベル:1

種族:オルカナ・ルシファス(進化条件 レベル20)

ステージ:3


体量値:E(F→E) 魔量値:S+(S→S+) 力:E(F→E) 速度:F

魔力:E 守備:E 魔抵:D 技量:S+(S→S+) 運:C


総合ランク:B+(B-→B+)




 尖り過ぎぃ! 人のこと言えないけど、ミュラのステータスは極端過ぎじゃない!? 

 ステータスの表記に燦然と輝くS+。Sオーバー表記はリナのステータスくらいでしか見たことなかったんだけど、とうとうその領域にミュラが足を踏み入れてしまったわ。ミュラ、お願いだからあんなドSになったりしないでね。

 ランクもB+まで上がったってことは、エルザやポチ丸剣クレアを抜いて再びミュラが二番手に躍り出たってことね。我が娘ながら才能が恐ろしいわ!


 みんなにミュラのステータスを伝えると、驚きつつもミュラを褒めてくれる。なんだか自分が褒められてるように嬉しいわね!

 

「新しいスキルは何か会得したかしら? もし手に入れたなら、見せてくれる?」


 エルザがそうお願いすると、ミュラが少し不思議な仕草をみせた。

 一度首を縦に振った後、横にフルフルと首を振り直した。ぬぬ? どういうこと?

 ただ、その仕草でエルザはミュラの意図が伝わったらしく、ミュラの頭を優しく撫でながら説明してくれた。


「スキルは獲得した、だけど今は見せられないってことでしょうね。洞窟内では使えない代物なのか、恐ろしく魔量値を消耗するものか、もしくは再使用するまでに時間がかかり過ぎるものか……強敵との戦いが控えている以上、試し打ちはしたくないと判断したのでしょう。そういう判断ができる娘だわ、ミュラは頭が良いものね」

「ほむ、つまり私に似ちゃったってことね!」

「使用のタイミングはミュラに任せましょう。ミュラ、使いどころだと思ったら迷わず発動させなさいな」

「えーるーざーさーん、スルーなんてやだやだやだ! 構って構って構って構って!」


 地面に転がってジタバタする私を、エルザは杖で突いてちょっとだけ構ってくれました。違う、そうじゃない。


 でもまあ、ミュラが進化できて何よりよ! 新スキルの効果は分からないけれど、ステータスとランクアップで十分過ぎるほど心強いわ!

 中ボス退治でウォーミングアップも完了! ルリカとミュラの進化も無事終えたし、あとはボスをボッコボコにするだけね!

 さっさと倒してこんな暑い場所はとっととオサラバしましょう!



 

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