54.芯の通った男の人に惹かれるの
飛竜さんを無事に狩り終え、ミュラもクレアも籠の中に戻ってきた。ミュラはすぐに私の頭の上に移動したんだけども。
あいつらを倒して私のレベルが1上がったのよね。それはつまり、レベル19だったルリカも上がったということで。
いつも以上にニコニコなルリカさんが上機嫌でご報告。
「レベルが20に達しました。進化条件を満たすことができたようです」
「おおお! オルカっちゃうの!? とうとうルリカもオルカってしまうのね!? おめでとーう!」
「ありがとうございます、オル子様。この日をいったい幾度夢見たことか……」
うぬうぬ! ルリカ、ずっとオルカ化が羨ましいって言ってたもんね!
これであなたも無事オル子一門の仲間入りよ! さてさて、ウンディーネなルリカはいったいどんな進化を遂げるのかな?
「進化先は私たちと同じように二つかしら?」
「ええ、そのようですね。サファイア・ラトゥルネとジュエル・オルカーネの二つが用意されているみたいです」
ほむほむ。サファイア・ラトゥルネっていうのは普通の進化先かな? 対してジュエル・オルカーネは考えるまでもなくオルカ化による進化先よね。
どっちもキラキラした名前で格好いいなー。オル子さんなんてデビル・オルカなんて直球な名前ですよ? もっと女の子らしく、小悪魔・オルカとかで良かったんじゃないかな?
「ふむ、進化先が二つとなると迷ってしまいそうだな。ルリカが選ぶのはジュエル・オルカーネか?」
「勿論です。考えるまでもありません。オル子様が道を示して下さっているのに、迷うことなどありえませんから」
「そ、そうか、すまん」
笑顔で言い切るルリカにクレアさん何故か謝罪。ルリカの笑顔って時々変なプレッシャーあるよね。不思議。
でもまあ、ルリカの言う通り迷う必要ないんだよね。オルカ化のステータス上昇率がおかしいことはエルザやミュラで証明済みだし。
という訳で、ルリカの進化いってみよう! ひあうぃごー!
瞳を閉じたルリカの体に光が集まり、その姿を変貌させていく。
むっふー、ルリカってばどんな姿になるのかしら! ルリカって回復魔法に補助魔法の使い手だし、その方面に沿った進化だと思うのよね! 私のイメージとしてはナースかしら!
どんな姿になるのかどっきどき! さあ、ルリカ! 天然癒し系美少女のオルカ進化を見せて頂戴な!
光が収束し、姿を見せたルリカは――なぜか自分の身長を超えるくらいの大鎌を所持しておりました。
青を基調とし、白黒がアクセントになった軽ドレスを身に纏い、髪にはエルザの杖についてるものと同じマスコットシャチの髪留め。だけど、やっぱり目を引くのは大鎌。
ええと、なんで大鎌? 死神さんが愛用してそうな鎌だけど、ルリカのイメージに全然そぐわないんだけど……癒し系美少女が否死刑美少女方向にいっちゃってるんだけど……え、どう反応すればいいの?
言葉に困り、みんなを見れば私以上に困惑気味。ですよねー。
上から見ても嫌に目立つんだもの、籠の中、至近距離で見てるみんなからすればもっと目を引くでしょうね。
そんなみんなの反応をよそに、大鎌を愛しそうに抱きかかえたまま、うっとりしてルリカが満足そうに感想を告げる。
「これがオル子様のお力……何と幸せなのでしょう。私の体、魂そのすべてがオル子様に染まったようです。これがオルカ化なのですね」
「う、うみゅ、なんだかとんでもない進化しちゃったみたいだけど……大丈夫? 体の方は何ともない? 誰かの魂を刈り取りたくて仕方なかったりしない? オル子さんは良い子だから死んでも地獄に行ったりしないよ!」
「ええ、問題ありません。むしろ力が溢れ過ぎてびっくりしているくらいです」
「ステータスはどう? 総合ランクも含めて向上したかしら?」
興味津々の私たちに、ルリカは能力の変化と新スキルについて説明してくれた。
ルリカの話によると、こんな感じになっちゃったらしいわ。
名前:ルリカ
レベル:1
種族:ジュエル・オルカーネ(進化条件 レベル20)
ステージ:3
体量値:C(D→C) 魔量値:B(C→B) 力:D(F→D) 速度:C(D→C)
魔力:B(C→B) 守備:D(E→D) 魔抵:B(D→B) 技量:C(D→C) 運:D
総合ランク:B-
・(オル子との絆)オルキヌス・サイザー(単体:近:ダメージ1.0倍、敵に守備↓力↓速度↓のいずれかを付与、効果T60:魔力依存、魔量値消費(小):CT30)
・移り気な海女神(味方単体・中:対象の体量値と魔量値以外の任意の能力ランクを一組だけ入れ替える、効果T180:魔量値消費(中):CT180)
「随分と面白いことになったわね、ルリカ」
ルリカの能力を聞き、エルザが開口一番にそう言って笑う。
いや、確かに面白いことになったというか、変な方向にいっちゃったというか。
ステータスの上昇は問題ないと思う。進化したことで全ての能力が底上げされている感じ。
AやSといった突き抜けた能力はないけれど、バランスがとれているのは魅力的かも。というか、ウチには尖り過ぎた娘が多過ぎるんですよ! 私とか私とか私とか!
ただ、新スキル二つはうーん……これ、どうなのかしら?
オルキヌス・サイザーはデバフ能力ね。敵の力か守備、速度のいずれかを削ることができるというのは非常に大きいとは思う。前に出て殴り合う私には敵のステダウンは非常に大助かりだわ。
だけど、これ、どう見ても大鎌による近接攻撃よね。
ルリカは後衛回復アンドバフ役ポジションだっただけに、これまでの戦い方ではこれ使えないのよね。この力を発揮するには、ルリカも積極的に前に出なきゃいけなくなる訳で。
もう一つの移り気な海女神は、二種類のステータスを入れ替える力だけど、どういうタイミングで使うんだろう?
例えばオル子さんは力がSランク、対して運はDランク。この二つを入れ替えると、運がSランクになる……はっ! つまり恋愛運がSランクになり、素敵な彼氏ができてイチャイチャライフを送る可能性が!?
「うおおおお! ルリカ、ルリカ! 今すぐオル子さんに移り気な海女神お願いします! オル子さんの恋愛運をSにしてください! 永遠に効果を持続できるよう、おながいしもふ!」
「無視していいわよ。それよりも、あなたの得た二つの能力は非常に大きいわ。上手く使えば、ルリカも前線で立ち回ってオル子たちをフォローできるようになるもの」
「ええ、私もそう考えていました。これまではオル子様やクレアとの距離が開き、回復や補助が届かず歯がゆい思いをしたのですが、移り気な海女神によって私が前に出ることができれば、その問題もなくなりそうです」
「これから六王と戦ううえで、能力低下のスキルは貴重よ。アルバ火山につき次第、あなたの戦い方、立ち回りについて色々と試しましょう」
「ねえ、聞いてる!? オル子さん今日の星占いとかの恋愛運とかかなり信じるタイプなんです! そうよ、これまでイケメンと出会えなかったのは私の恋愛運が足りなかったせいに違いないわ! 出会いがないんですよ、出会いが!」
アルバ火山に向かう旅路の中、必死に恋愛運向上を訴えたんですが駄目でした。
ああ、頭をペチペチと叩いて慰めてくれるミュラの愛情が心に染みるわ。
くそう、エルザのいないところで絶対こっそり試してやるんだから。イケメンホイホイ能力、意地でも活用してくれる!
飛行続けること数時間。
辿り着きましたアルバ火山。
モクモクと煙が上がっている火山を見下ろしながら、感想を一言。
「暑いんですけど! めっちゃ暑いんですけど! よくよく考えたらシャチが火山を冒険って何かおかしくない!? 海はいずこ!?」
「火山だから暑くて当たり前でしょう。さて、問題はこの火山のどこに支配者がいるかなんだけど……ミュラ、分かる?」
エルザの問いかけに、ミュラはこくんと頷いて火山の麓を指さす。
ミュラに指示されるままに空を飛んで移動。びゅううーん、オル子号、着陸準備に入りまーす。
高度を落としていくと、火山の麓にぽっかりと大空洞の入口らしきものが。おおー。
「ボスのいるダンジョンという空気が溢れているわね! こんなの見つけ出すなんて凄いわミュラ!」
籠を着陸させ、クレアたちに体を固定していたロープを外してもらう。ふう、久々に解放されたわ。コルセットつけてる令嬢もこんな感じなのかにゃ。
尻尾を動かし、ヒレをびたびた。よし、準備運動完了! ここまではみんなにまかせっきりだったからね、戦いでは張り切っちゃうよ!
「恐らく内部は飛竜と火山に生息する魔物がいるでしょうね。それを倒しつつ進んでいけば、ミュラも進化に達するでしょう」
「ういっしゅ! それじゃ火山攻略、そしてボス退治といきましょう! 久々に燃えてるからね、どんな敵だろうとオル子さんがびったんびたんにしてくれるわ! みんな、行くわよ! オル子さんに続きなさい!」
ミュラには偽オル子に乗ってもらい、先陣を切ってダンジョン突入!
入っていきなり奇襲とかされたら危ないからね! ディフェンスに定評のあるオル子さんが盾になってガンガン進んじゃうよ!
私を先頭にミュラ、エルザ、ルリカ、そして殿をクレアにして洞窟を前進!
なんだかRPGのパーティみたいでドキドキするわ……なんて考えていると、洞窟の奥からぴょんこぴょんこと何かが飛び跳ねてきた。むむっ、敵襲ね!
身構える私の前に姿を現したのは、バレーボール大の真っ赤なぷるぷるゼリー。んまっ! これはまさか、RPGでおなじみのアレでは!?
「プランタル・ジェルね。住処によって色を変える性質を持つ魔物よ」
「ほむほむ。このスライミンは強いのかしら?」
「ランクはE-くらいかしら? 個人によっては強敵になりうるけれど、私は苦戦したことないわね。ウィッチ時代によく狩っていたわ」
ふむう。この世界ではスライミンは雑魚なのね。ゲームによっては強敵だったりするからにゃあ。
まあ、そういうことならサクッと殺してあげましょう! 今日のオル子さんは燃えに燃えているからね! いざ圧殺!
「それでは開幕のファンファーレといきましょう! くらいなさい! 必殺、久々のオル子ボンバー! 最近お菓子ばかり食べてるけど太ってないよむしろ標準だよアタック!」
「ちょっと待ちなさいオル子、その敵は」
オル子さんの全力ボディプレスでスライミンをぷちっと圧殺完了!
むふー! 他愛もないわ! この調子でガンガン敵を潰していきましょう! さてさて、ぺちゃんこになったスライミンはどうなったかなっと……あれ?
空を飛んで死体を確認しようとした刹那、赤透明の触手が地面から伸びてきて私の体に次々と絡み付いてくる。
え、えええ!? な、何事!? ひいいい! ぬ、ヌルヌルして気持ち悪っ! なんぞこれ!?
「ひええええ! なんか変なのに纏わりつかれてるんですけど!? ヘルプ、ヘルプううう!」
「……プランタン・ジェルに物理攻撃はほとんど意味を成さないのよ。だから言ったでしょう、個人によっては強敵になりうる、と。人の話をちゃんと聞きなさい」
ぬおおお! なんかジェルが締め付けようとしてくるんですけども!
シャチボディだから全然痛くもなんともないけど、ひたすら気持ち悪い! 理科の実験で作ったスライムを思い出すこの肌触り、トラウマになりそう!
必死で跳ねまわってスライムを振りほどこうとするけど、全然離れてくれぬう! くうう、このセクハラスライム、絶対許さん! こうなったら最終手段よ!
「エルザ! サンダー・ブラスターを私に放って!」
「いいの?」
「こんな気持ち悪いのに纏わりつかれ続けるなど、正統派ヒロインとしての矜持が許さぬ! さあ、私に構わずスライミンを消し炭にしてやりなさい! 私に構わず魔法をぶちかましなさい! 私は一向に構わぬゥ!」
「じゃあ遠慮なく」
「いや、少しは遠慮してくれてもいいんだけどね!? 私があんまり痛くない程度に威力を抑えつつ、スライミンを倒すくらいの神調整をですね?」
「サンダー・ブラスター!」
「ほぎゃあああああ!」
エルザの電撃が私に直撃、見事にスライミンはバラバラに消し飛ばされたみたい。
ふっ、流石はボスのいるダンジョンね。なかなかに骨のある雑魚がいるじゃないの。まあ、それでこそ攻略のし甲斐があるというものだけどね? あ、ルリカさんヒールの注文お願いしまーす。キンキンに冷えたヒールよろしくう!
お気に入り4000件超え、本当にありがとうございましたっ!
この喜びを励みに、これからも頑張ります!




