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49.身長、いつの間にか抜かれちゃったわね。男の子なんだなって

 



 ラヴァーレ渓谷を目指してオル子号は今日も今日とて空をゆくー。

 気球のごとく籠をぶら下げ、みんなを運びながら雑談に花を咲かせております。


「時代はアイドルだと思うんですよ。というわけで決めました。ここにいるみんなでアイドルグループを結成いたします」

「また唐突に意味不明なことを……アイドルって何よ」

「大勢の人の前で歌って踊ってキャーキャーちやほやされる美少女軍団のことです。ほら、私たちってみんな美少女じゃない? 属性もちょうどいい感じでバラバラだし、五人組グループで売り出せばかなり良い線行けると思うんですよ」


 ツンデレなエルザ、ロリクールなミュラ、おっとりほんわかなルリカ、生真面目実直なクレア、そして言わずもがな、海の幸系美少女と評判のオル子さん。

 この五人が揃えば、向かうところ敵なしだと思うんです。テレビ映えもばっちりだし、歌番組はもちろんのこと、バラエティだって余裕でいけるわ。

 私を含めてみんな知的派真面目少女だから、お馬鹿トークが苦手なのが玉に瑕だけど、これほどのアイドル力ならば天下だって狙えちゃうわ。


「アイドルになって人気が出るとね、美形男子アイドルや美形男性シンガーとお近づきになれて、あわよくば恋仲になったりできるんですよ? もちろん、そんな下心は全力で押し隠してオル子さん草食系清純アイドルとして頑張る所存です。みんなも歌に踊りにレッスン頑張りましょう! 目指せ花園よ!」

「主殿、私は歌や踊りはできそうもないので、できれば敵を斬り殺す役目を与えて頂ければ」

「あら、なら私は魔法で敵を撃ち殺す役を頑張りましょうか」

「それでは私は倒れそうになった敵を癒す役目を。向かいくる敵がいなくなってしまえば、アイドルというものが続けられませんからね。オル子様がご満足されるまで敵を回復し続けましょう」

「ぬおお!? オル子さんのアイドルグループ殺伐とし過ぎぃ! ファンを撃って斬って生かさず殺さずを保ち続けるって最早アイドルでも何でもないよね!? 何気にルリカが一番残虐なこと言ってる気がするんですけど!」


 流石は純粋培養魔物娘、発言の切れ味が違うでごぜえますよ。

 これじゃ、全国ツアーなんてした日にはファンの屍が各地に築き上げられること待ったなし! 生き残れるのはアンデットくらいじゃないの! オル子ファンはゾンビですか?


「そもそもあなたは既にオルカナティアの住人からちやほやされてるじゃない。人数が足りないと言うのなら、頑張って支配地と配下を増やしなさいな」

「いや、私が欲しいちやほやはそういう魔王的なちやほやじゃなくてですね……ほら、あるでしょ? 異性に『あの娘可愛くね? 良い感じじゃね?』みたいに見られたい、思われたいって気持ち」

「ないわね」


 バッサリ切り捨てられました。無念なりい。

 まあ、テレビ局も何もない異世界でアイドルなんて最初から無理なんですけども。移動中の話のタネってやつです。

 しかし、オルカナティアを出て二日。エルザが言うには、そろそろ近づいてきてるらしいんだけど、まだかなまだかな。

 そんなことを考えていると、エルザが前方を指さして教えてくれる。


「恐らくあれがラヴァーレ渓谷ね。リナから仕入れた情報とよく似た地形をしているわ」

「おおお」


 エルザの指し示した先に広がる光景、流れる大河とそれを囲うように切り出された断崖。

 うわあ凄い凄い! まるで中国大河ドラマの光景みたい! テレビでしか見たことないような大迫力景色!

 なんだかその上空で空飛ぶトカゲたちと翼人集団みたいなのが全力で殺し合ってるんだけど、きっと気のせいよね。私の見間違いね!


「上空で飛竜とラヴェル・ウイングが交戦状態に突入しているわね。かなり大規模な戦闘みたいだけど、種族同士の戦争かしら」

「えええ……見間違いじゃないのーん。なぜこんなぽかぽか陽気のお日様の中、魔物大戦争なんてやってるのよ……ラヴェル・ウイングは分かるとして、飛竜って竜族の仲間なの?」

「従魔みたいなものかしら。人になれない低ランクの格しか持たない竜が飛竜だから、竜族の仲間といって差し支えないでしょうね」


 つまり、あの飛竜たちは先日ぶっ殺した糸目トカゲの仲間、と。

 おかしいにゃあ。前にエルザ、竜族は他種族や魔選に不干渉って言ってなかったっけ?

 キャスのことで暗躍してたり、ラヴェル・ウイングを襲ったり、こいつら超アクティヴなんですけど。


「竜族って基本的に引きこもりなんじゃないの? 話が違いますぞ、エルザさん」

「私にそれを言われてもね。さて、竜峰の事情は分からないけれど……このままラヴェル・ウイングが全滅させられるのは困るわね」


 私たちの視線の先で、飛竜が逃げ遅れた翼人さんの上半身をぱくりんちょ。

 うわお、上半身ロストえっぐーい。このシーンを映画館とかで見てたらビクってしてポップコーン落としたかも。

 いや、そんなことを考えている場合じゃなくて。とにかく、トカゲと翼人の戦いに武双介入せねば。私がシャチよ! 


「敵は全て飛行種だからこれまでと少し戦い方が変わるかな? 私が前に出るから、エルザとルリカは固まって地上から敵を狙い撃ち、クレアはその護衛、ミュラは偽オル子に乗ってかく乱って感じでいきましょうか」

「ええ、問題ないわ。見方を変えれば、これはラヴェル・ウイングたちにあなたの強さを知らしめる良い機会だわ。鮮烈に印象付けるためにも、せいぜい張り切って暴れて頂戴」


 崖の上にエルザたちを下ろし、体にくくったロープを外してもらう。

 さてさて、進化後初めての戦いだけど、まあ何とかなるでしょう。ミュラも私から偽オル子に乗り換え、準備万端。

 大空を見上げれば、竜がひい、ふう、みい……むっふっふ、より取り見取り。

 とりあえず、戦闘前に飛竜どものステータスチェック入ります! 識眼ホッピングかもん!




名前:ファニール

レベル:6

種族:ファニール(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:E 魔量値:F 力:D 速度:D

魔力:F 守備:C 魔抵:F 技量:F 運:E


総合ランク:D





 ふうむ、ドラゴンと言っても、下っ端だからあんまり強くないね。糸目竜族は自分が特別みたいなこと言ってたけど、本当だったみたい。まあ、さくっと殺しちゃったんだけど。


 総合ランクDならグラファンの部下連中と同じくらい、雑魚にしては強めだけど、今の私にとって大して怖い相手じゃないわ。

 さあて、どいつから狩ろうかしら? よし、赤トカゲ君、君に決めた!

 翼人に喰らいつこうとする飛竜に向かってオル子ブースト!


「キシャアアアッ!」

「くそ、こんなところで……」


 スキンヘッドのおじさん翼人が死を受け入れようとしている最中。駄目だ駄目だ、どうしてそこで諦めるの! ネバーギブアップがぶりんちょ!

 おじさん翼人を噛み砕こうとする刹那、颯爽と横入りドーン! 逆に竜の頭をガッツリ噛み付いて、全力で引き千切る! ぺっぺっ、またつまらぬものを噛み切ってしまったわ。

 無力化した赤トカゲはそのまま大地に真っ逆さま。

 ふ、炎飛行なんぞ水飛行のオル子さんの敵ではないわ! 炎竜になって出直してらっしゃい!


「な……竜鱗で覆われた飛竜を一撃だと……いや、それよりも俺を助けてくれたのか……?」

「目についたトカゲから片っ端に食い殺しただけよ? ふふっ、そういう意味では運がよかったわね、あなた」

「言葉まで話せるのか……いや、違うな。助力、感謝する」

「別に構わないわ。さて、悪いけれど、あなたたちの出番はここで終わり。此度の戦場は今より私たちの仕切りとなる――真なる空の覇者が誰なのか、トカゲどもに身をもって教えてあげましょう」


 私の言葉を皮切りにして、大空に雷撃が舞い踊る。

 むっふー! エルザってばナイスタイミングの演出だわ! これはオル子さん、ばっちり強者キャラを演じきったんじゃないかしら!

 スキンヘッドのマッチョおじさん、私の魔物っぷりを是非とも他の翼人に広めておいてね! さーて、それじゃあ暴れまわりましょう!

 次なるターゲットの黄色ドラゴンに体当たりドーン! 速度Aの殺人的な加速による衝突、耐えられる奴などあんまりいない!


「な、なんだ!? 新たな敵襲か!?」

「いや、それにしては様子が……」


 私に気づいた翼人さんたちが、槍や剣を構えて警戒。

 ち、違うでしょ! 敵はあっち! オル子さんは味方! オル子さんは悪い魔物じゃないですよ!

 攻撃されたらどうしようとヒヤヒヤしていると、背後からスキンヘッドのおじさんが大声で叫んでくれた。


「そいつに手を出すな! どうやらその魔物は竜どもを殺し尽すことが目的のようだ! 地上から援護してくれている魔物どもも含めて、決して手出しするんじゃないぞ!」

「グレナスさん! ですが、こんな正体不明の……」

「いいから従え! そいつは竜を一撃で屠るほどの魔物なんだ! 奴らを追い払うのに、今は一匹でも強い奴の力が借りたいんだ! 里を守りたいなら受け入れろ! 向こうで戦ってる長もそう判断されるはずだ! いいな!」

「りょ、了解!」


 ほほう、おじさんってばグレナスって言うんだ。ナイス一喝、助かるわ。

 これで背中から翼人さんたちに襲われる心配はなくなったから、せいぜい好き勝手戦って経験値を稼ぐとしましょう。

 周りを見れば、ミュラが偽オル子を飛び回らせてビーム連打祭り、下からはエルザの容赦ないサンダー・ブラスターの嵐。


 砲撃が厄介とみて近づこうものなら、一瞬にしてクレアとポチ丸の餌食に。

 うわお、クレアってばドラゴンを全部一太刀で斬り殺してる。一刀両断する召喚獣みたいで素敵。

 むふー! 私も負けてられないわ! ここはひとつ、新スキルでも使っちゃいましょう!


「さあ、我が分身たちよ、美しく舞い踊りなさい――『冥府の宴』!」


 進化によって獲得した新スキル、冥府の宴発動!

 このスキルは私の分身体を生み出し、敵単体に二回から十回のランダム回数連続攻撃を行うというブリーチング・クラッシュに次ぐ必殺スキルよ! 相手は死ぬ!

 スキルの発動によって、私の周囲に十匹のオル子さんが具現化! さあ、ぷりちーな我が分身たちよ、悪いトカゲをこらしめてやりなさい!


「あいさー!」

「ほいさー!」

「あらほらさっさー!」

「えいさー!」

「たんほいざー!」

「さんばいざー!」

「我思う故に我在り。人の姿を失えど、私という一個が存在する事実は決して変えられんさ」


 スキル開放と同時に、七匹の私がドラゴンに向けて突撃開始!

 そして怒涛のシャチタックル! わあい、名付けてオール子レンジ攻撃! 今回は七回発動、まずまず良い感じね!


 このスキルは、まず十匹の分身体を生み出し、そこから発動決定回数の数だけ生み出したオル子さんがタックルしてくれるという技なの。

 ちなみに発動ミスした残りの分身オル子さんたちは、私の傍で好き勝手だらけてます。

 こら、オル子4号、スマホゲーに夢中になってるんじゃない! オル子7号、少女漫画を読み耽ってニヤニヤしない! オル子10号、あんた何で頭に鉢巻巻いて腕立てなんかしてるの?


 発動を終え、分身体が全部消え去るころには、かつて竜だった成れの果てが地上へと落下していった。あんだけ全力タックル喰らいまくれば、そりゃあもう、ぐちゃぐちゃにもなるってもんです。

 私の猛攻に、周囲の翼人さんたちも唖然として言葉を失って見入っちゃってる。

 むふー、注目されるとさらに調子に乗っちゃうのがオル子流! もっともっと派手にやっちゃうわよー!


 その後も、空を右に左に泳いで八面六臂の大活躍。

 全部で飛びトカゲをいったい何匹殺したかな。少なくとも三十は殺したと思うんだけど。レベルも上がったし、良い感じ!


 全ての敵を殺し終え、ミュラと共にエルザたちと合流。

 そして、崖の上で翼人たちが接触してくるのを待つことに。

 エルザ曰く、これだけ盛大に暴れまわって翼人の味方をしたんだから、必ず向こうのトップが接触してくるとのこと。


 待つこと数分、数十人の翼人たちが群れを成して私たちの元へと舞い降りてくる。

 本当にラヴェル・ウイングって天使さんみたいね。彼らが進化したら天使さんになれるのかな?


 さてさて、翼人さんたちのボスとご対面。

 いったいどんな奴がくるのかしら。事前にエルザに口酸っぱく言われれてるからね。

 どんな相手だろうと強い魔物としてふんぞりかえって駆け引きするわよ!


「――先の戦闘における助力、心より感謝いたします。あなたのおかげで大切な仲間の命が救われました」


 そこに現れたのは、目の覚めるような美少年だった。

 ミディアムくらいの髪型、そしてくりくりとした青い瞳が特徴的。この異世界で初めて出会った美少年かもしれないわ。ただ、ただ……


「どう見てもストライクゾーン外です、本当にありがとうございました……ぐふう」

「何を小声でぶつぶつ言ってるのよ、あなたは」


 その美少年は、どう見ても小学校低学年くらいの外見でございました。

 ぬおおおおお、どうしてあと十年早く生まれてこなかったのよあなたは! いや、魔物だから十年で足りるかは分かんないけど、勿体ないいい!

 さっきのスキンヘッドさんを背後に従えた美少年は、柔らかく上品に笑って私に名を告げた。


「僕の名はライル、見てのとおりラヴェル・ウイングの長を務めさせて頂いてます」

「長って、あなた、どう見ても子どもじゃない。それなのに長なの?」

「ああ、すみません。見た目でよく勘違いされるのですが、それなりに歳は重ねているんですよ。それこそ、ここにいる仲間たちなら全員の赤子時代を知ってるくらいには」


 なんという衝撃の事実。なんとこの美少年、スキンヘッドおじさんよりも年上らしい。

 つまるところ、巷でいうところの合法ショタ……だからなんだっていうのか! 見た目が子どもならその時点でオル子さん的にはアウトじゃい!

 でも、これまで美少女続きだった出会いを考えれば、だいぶいい方向に近づいてきてる! このままいけばイケメン美青年のラヴェル・ウイングとの出会いがワンチャンあるかも!


「さて、見知らぬ強き魔物の皆様。僕らラヴェル・ウイングに助太刀して頂いたその理由をお聞かせ願えますか? 何の理由もなく僕らに手を貸した訳ではないでしょう? その理由次第では、お力にもなれますし、もしかしたら刃を交えることになるかもしれませんね?」


 むむっ、言葉にしにくい異様な迫力を感じたわ。

 ちびっこに見えて、流石は長かしら。私たちの心の内を見透かすように微笑む姿は天使か悪魔か。


 さてさて、ラヴェル・ウイングをオルカナティアに引っ張り込むためにも頑張りどころ! できれば穏便に済ませてくだしあ!

 まあ、交渉するのはあくまでもエルザなんですけどね。

 オル子さんはエルザの邪魔にならないよう強そうな魔物の振りして待ってます。難しい話は全部エルザにお任せよー!






・ステータス更新(レベルアップ一覧)


オル子:レベル1→2 (ステージ3)

エルザ:レベル1→2 (ステージ3)

ミュラ:レベル17→18 (ステージ2)

ルリカ:レベル18→19 (ステージ2)

クレア:レベル9→10 (ステージ3)


ポチ丸:レベル1→3 (ステージ1)



 

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