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48.見違えたよ、その一言が欲しかったの

 



 困惑しまくりなクレアさんに、私はポチ丸が元『海王』でグラファンという怪物だったことを説明した。

 かつて私たちと死闘を繰り広げ、竜族とは比べものにならないくらいヤバい相手だったことを告げると、本気でビックリしてた。

 いや、そりゃ驚くわよね。私たちを圧倒するほどの強さを持つ存在が、白ポメになってんだもん。私だって倒した当事者じゃなかったら信じておりませぬ。


「なんと……それでは、ポチ丸が普段言っていたことは全て真実だったのですか」

「まあ今の姿がコレだから信じられないとは思うんだけど、本当に中身はとんでもない奴なのよ。という訳で、どうかしら? 魂の強度は折り紙付きだと思うんだけど」


 バトルジャンキーで戦いに飢えまくりなポチ丸の魂がアウトなら、ハッキリ言ってクレアのスキルは死にスキルだと思うんですよ。

 それくらいクレアのスキルにとってポチ丸は理想的な存在だと思う。ポメラニアンの子犬だから激低ランクなのはお察しだろうし。


「主殿たちのお墨付きであれば、私は是非もありません。あとは、ポチ丸が首を縦に振ってくれればというところなのですが……ポチ丸、私の剣として共に戦ってくれぬか?」

「おう、いいぜ。さっさと俺を武器にしな」

「早っ! 即答にも程があるでしょう!?」


 もう少し考えるとか、時間をくれとかあるでしょうに。

 私たちの視線を集めるポチ丸は、ニッと牙を剥きだしに笑ってみせる。


「迷う必要なんかねえだろ。つまりクレアは俺にまた戦場に戻る機会を与えてくれるってことだろ? あの最高の空気の中に舞い戻れるなら、剣だろうと斧だろうと何だってなってやるさ。戦場への誘いを断る理由なんざねえよ」

「言っておくけれど、私たちはあなたの元主であるイシュトスと殺し合うかもしれないわよ。その時になって躊躇したり、裏切られたりはごめんよ」

「しねえよ。『空王』に仕えたグラファンって野郎の生涯はてめえらに負けて終わりだ。今になって俺がイシュトスにつくなんざ、俺とてめえらの最高の戦いに対する侮辱でしかねえだろうが。俺は最高の殺し合いの果てに得た敗北を誇る。俺の敗北を汚し、否定しようとする奴は誰であろうと許さねえ、この俺がぶっ殺してやる」


 やだ、相変わらず発言が格好いい……見た目がチビぶさかわポメで、ミュラに抱きかかえられて下半身のびのび状態でなければ最高に決まっていたのに。

 ヘッヘッと小さな舌を出して、あっけらかんとポチ丸は笑う。


「それに、是非ともイシュトスの野郎とは殺し合ってみたかったしよ。あいつは部下も化け物揃いだから楽しみで仕方ねえぜ」

「結局そこに落ち着くバトルジャンキーであった。それじゃ、ポチ丸はクレアの力になってくれるのね?」

「応よ。こいつの腕なら文句もねえしな。それよりも、俺は総合ランクE+以下の条件を満たしてんのか? この体になってから、自分のステータスが確認できなくなっていて能力が分かんねえんだわ」

「そうなの? ほむ、ちょいとお待ち」


 あれかな。魚人からポメラニアンになったから、ステータス確認方法が変わっちゃったのかな。

 とりあえず、ポチ丸の代わりに私が識眼ホッピングでステータスを確認することに。ぬぬーん! スキル発動! へやっ!




名前:ポチ丸

レベル:1

種族:ポメラニアン(進化条件 レベル20)

ステージ:1

体量値:F 魔量値:G 力:G 速度:F

魔力:G 守備:G 魔抵:G 技量:G 運:G


総合ランク:G-




「これは酷い」

「あ?」

「なんでもありませぬう! ポチ丸のランクなら問題ないわ! クレアのスキル対象よ!」

「おい、俺のランクはどのくらいだったんだよ」

「えーと、Eよりちょっと下くらいかにゃあ? ちょっとだけね!」

「なぜ目を逸らしやがる」


 言えない。いくらオル子さんでも『お前のランクはG-、一番下じゃあ!』なんて絶対に言えない。

 G-なんて初めて見たわ……私が天使さんにアホなお願いをしたばかりに、Aランクが物の見事にポメラニアンになっちゃって。今度こっそりお菓子をおすそ分けするから許して!


「それでは、早速で申し訳ないが、剣化を試させて貰って構わないか? もし熊おこ剣を超える性能を引き出せたならば、是非とも共に戦場を駆ける剣となってもらいたい」

「おう、いつでもいいぜ」


 クレアがポチ丸に向けて手を翳す。

 おお、くるのね! 剣にしちゃうのね!? いったいポチ丸はどんな名前になっちゃうの!?

 クレアのスキルは剣化するときに勝手に名前を決めるみたいだけど、そのネーミングセンスは笑えないレベルで最低だからね。きっとポチおこ剣とかワンだふるソードとかになるに違いないわ!


 どんなダサネームがついても、格好いいと褒めてあげる準備だけはしてあげよう。むふー! 気遣いのできるオル子さんマジ大人の女性!

 静寂に包まれる中、クレアがスキルを発動させる。さあ、何になるの! げきおこポチポチ丸剣カモン!


「汝の強き魂、その銘を我が身に刻め! 創造『剣』――オルトロス!」

「お、オルトロスだとう!?」


 よりによってオルトロスですって!? 謝って! 熊おこ剣に謝って! 何この差、せめて名剣わんこ丸とかにしなさいよ!

 白い霧がポチ丸を包み、そしてクレアの手の中に霧が収束し――そこから現れたのは、黒紫に輝く一振りの両手剣。

 な、何このSSRの風格を醸したあからさまな強武器は! ひえ、黒い焔みたいなのが刀身から放たれたりしてる……ち、ち、チート武器きたこれ!?


「なんという……これがポチ丸の魂だというのか。なんと苛烈な……」

「す、すごいの!? ポメ剣なのに強かったの!?」

「ええ、主殿。オルトロスの性能はA+となっています。しかもこの武器を使用するだけで、ステータスに強化補正がかかるようです」

「流石は元『海王』の魂といったところなのかしらね。それとも、魂とやらの力を引き出せるあなたのスキルが破格と褒めたほうが正解なのかしら」


 あまりのチートっぷりに流石のエルザも驚いてるみたい。

 そりゃそうよ。だって、あの綿あめみたいなポメが最終ダンジョンで手に入るような武器に変化してるんだもん。誰だって驚くから!

 あれかな、もしかしてこのスキル、剣が強ければ強いほど立派な名前になるのかな。武器性能Sランクだったらどんな名前になるんですか! エクスカリバーとかなるんですか!


「まさかオル子のアホなミスが、こんな結果につながるなんて思わなかったわ。こうなると、人化に失敗したことは逆にプラスだったかもしれないわね」

「ぬう、クレアが強くなって嬉しいけど複雑でおじゃる……あの時、人化に成功してたら今頃は美少年を千切っては投げ、千切っては投げのハーレムライフが……いや、でもクレアには出会えなかったわけで……」

「ポチ丸に感謝を――これで主殿の力になることができます。この剣ならば、竜鱗だろうが何だろうが一刀両断にしてみせましょう」


 剣を握りしめ、私を見つめてクレアは力強く言い切ってくれた。

 ぬうう、私の周りって男前キャラが多過ぎ! やっぱりあれかしら、私がヒロイン属性の塊だから、格好いい人が集まっちゃうのかしら。

 あとは女の子じゃなくて男の子が集まってくれれば完璧なんだけどね!


「まあ、クレアが嬉しそうで何よりよ。うんうん、武器問題も解決してよかった……ぬ?」


 嬉しそうに微笑むクレアを見て和んでいると、突然、クレアの右肩の上に何か白いもこもこした小さな物体が。

 白毛玉はどんどん大きくなっていき、手足と顔がにょきんと現れ――ポチ丸の姿に変化した。ぬう!? なんぞこれ!?

 クレアの右肩の上に乗った……もとい、ぶら下がったポチ丸は、楽しそうに笑う。


『これが剣化か! カハハッ! いいねえいいねえ、体に力が漲って仕方ねえ!』

「なんでポチ丸がクレアの肩の上にいるのよ! ポチ丸は剣になったんじゃないの!?」

『おう、俺は剣のままだぜ? これは余剰分に溢れている剣の力によって生み出された俺の分身体のようだな』

「なるほど……主殿、このポチ丸に触れることができないことから、言っていることは本当みたいです」


 触れようとしたクレアの手がポチ丸の肩を素通りする。幽霊か何か?

 なるほど、つまりあのポチ丸は生身ではなくて、剣の精霊化した、言うなればマスコットみたいなものなのね。


『この状態で手出しは出来ねえが、口は出せるからな。戦闘でヤバい時にアドバイスくらいしてやるよ』

「うむ。頼りにしているぞ、ポチ丸。ああ、楽しみだな。早くお前の力を試してみたい、体が疼いてたまらない」

『全くだぜ。カハハッ!』


 なんか意気投合してるんですけど。まあ、クレアもポチ丸も根っこが戦闘大好き武人だから相性ばっちりなのかもね。

 しかし、目つきの悪いチビポメマスコットを肩に乗せて戦うクレア……色々と台無しな気がするけど、気にしないことにしましょう。本人たちが楽しそうだし、絵面的に問題なんてなかった!

 
















 翌朝、私たちはラヴァーレ渓谷へ向けてオルカナティアから旅立つことに。


 私たちの旅立ちに、見送りに来ているキャスやリナ、お髭の領主さんや長老や多くの街の人たち。

 ううむ、ちょちょっと行って帰ってくるだけだから、こんなに大々的に見送らなくても良かったんだけど。

 そういう私に、キャスは笑って首を振る。


「そういうでない。妾たちの王の出陣じゃからの、それを見送りたいと願うのは仕方のないことじゃて」

「そういうものかなあ。まあ、とりあえず留守の間、オルカナティアはよろしくね。キャスとリナだから何も心配はしてないんだけど」

「うむ! 妾に任せるがよい!」


 いつも通り、自信に満ちたキャスにほっこり。頼りになるう。

 キャスに続き、リナが私たちを楽しそうに見つめながらアドバイス。


「ラヴァーレ渓谷のラヴェル・ウイングは癖のある連中ばかりだからな。連中と戦うのか、イシュトスの奴と戦うのかは知らんが、せいぜい暴れまわってくるがいい」


 なんか私たちがラヴァーレ渓谷で大暴れする前提で話してるんですけど。

 オル子さんは暴力が苦手ですので、交渉できる相手なら話合いで進めますよ! ラヴェル・ウイング、快くオルカナティアに協力してくれればいいんだけどにゃあ。

 そして、最後にラグ・アースの長老さんが声をかけてくれた。


「オル子様、どうかくれぐれもお気をつけて。迷惑をおかけしますが、ササラのこと、よろしくお願いします」

「ういうい! ササラが一緒で私も嬉しいしね、任せてくだち!」


 長老さんの言う通り、ササラは今回私たちの旅に同行しているわ。何かの力になれるかもしれないからって自分から希望してくれたの。

 まあ、同行と言っても、他のアクア・ラトゥルネたちのように館の中だから危険も何もないんだけど。

 旅の最中に道具作ってもらうことになるかもしれないし、私は二つ返事で了承よ。旅は人が多い方が楽しいし、何よりササラと一緒にいられるしね!


「時間よ。それじゃオル子、向かいましょうか」

「あい! それじゃみんな、ちょっとだけ旅に出てくるから、オルカナティアをお願いね! いってきまふ!」


 エルザに促され、オル子号発進です!

 ササラに作ってもらった大籠にエルザ、ルリカ、クレアウィズ精霊ポチ丸を乗せ、それをロープで私の体に固定。むふー! オル子気球船よ!


 頭の上にはいつも通りミュラを乗せてレッツ出発!

 目指すは東北、ラヴァーレ渓谷! 冒険が、まだ見ぬイケメンとの出会いが私を待っているううう!




 


・ステータス更新(クレア武器補正・武器スキル)


名前:クレア・グーランド(オルトロス補正)

レベル:9

種族:ソード・オーガ(進化条件 レベル20)

ステージ:3

体量値:C 魔量値:C*(D→C) 力:B*(C→B) 速度:A

魔力:E*(G→E) 守備:D 魔抵:F 技量:S*(A→S) 運:C


総合ランク:B(C+→B)



 

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