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46.旅を経験し、女に磨きをかけなきゃね

 



 オル子ハウス、最上階に存在する会議室――通称、円卓の間。


 オルカナティア最高幹部のみに入室を許されるその室内。

 私は神妙な面持ちで、顎を重ねた両ヒレに乗せてぷかぷか浮いていた。頭の上には当然いつものようにミュラがライドオン。


 周囲を見渡せば、円卓に座る愛しき仲間たちが勢ぞろい。エルザ、ルリカ、クレア、ササラ、キャス、リナ、そして私の上のミュラね。

 みんなの視線が集まっているのを確認し、私はゆっくりと語り始める。


「忙しい中、集まってもらって悪いわね。今日はオルカナティア七魔将であるあなたたちに重要な話をしようと思って集合してもらったわ」

「オルカナティア七魔将なんて初めて聞いたのだけど。四天王じゃなかったの?」

「四天王もいいけど、七魔将も素敵だなって思いました。今日から皆さんは四天王であり、七魔将でもありますので、そのつもりで」


 くいっくいっとヒレで眼鏡をずらす仕草をしながら力説すると、隣に座るエルザから盛大な溜息が。ロマンなんですよエルザさん。


「こうして皆を呼び出すほどのことじゃからの。よほど緊急なことなのじゃろう」

「ええ、その通りよキャス。皆に集まってもらったのは他でもない。ある衝撃の事実について知ってもらうため」

「衝撃の事実、ですか。オル子様がそこまでおっしゃるとは、相当なことなのですね」

「魔王軍や人間たちに動きでもあったのでしょうか? 何にせよ、戦いの際には是非とも私めに先陣をお命じ下さい。必ずや主殿の期待に応えましょう」


 ルリカやクレアの言葉に、私は小さく頷く。二人の忠誠が心に響くわ。

 張りつめた空気の中で、私はみんなに衝撃の事実、その内容を語る。みんなを集める必要があるほどの、とてもとても大切な話を。


「私が魔物として誕生してからというもの、既に三カ月もの月日が流れてしまった。三カ月、異世界転生をして三カ月も経っていながら――なんとオル子さん、未だ魔物のままなんです」

「……はあ? いや、意味わかんねえから」


 私の言葉に、ササラは頭のてっぺんから抜けるような、小馬鹿にした声で訊ね返してくる。

 たまらず机の上に乗りだし、べしべしとヒレで机を叩きながら、私は力説する。


「オル子さん、異世界魔物転生して三カ月も経ってるんですよ! それなのにまだシャチの姿ってどうなんですか! 普通、魔物転生したらあっという間に人化するものでしょ!? それなのに、なんでオル子さんは人化もできなければ異世界で彼氏の一人も未だにいないんですかね!?」

「そう、それは大変ね。話はそれで終わりでいい? 満足したかしら?」

「お願い、聞いてエルザさん! 適当に流さないで! オル子さん結構真剣に切羽詰まってきてるんです! 異世界にきて三カ月も経ってるのに人化する気配が微塵もないなんて、こんなの絶対おかしいよ! 普通、異世界に来たのなら、無条件で美少女になって男の子にちやほやされるもんなんじゃないの!? 私の周りは押しも押されぬ美少女オールスターなのになんで私だけシャチなの!?」

「馬鹿! 机の上で跳ねようとするんじゃねえ! 俺が頑張って作った机を壊そうとするな! お前が欲しい欲しいって駄々こねまくるから頑張ったんだぞ!」


 ササラに怒鳴られ、私はすごすごと引っ込むことに。

 そんな私に、けらけらと笑いながらリナが慰めてくれる。


「そう焦る必要もあるまい。お前は着実にレベルを上げ、進化を続けている。進化の果てに人化が存在するかもしれんし、他の方法があるかもしれんからな。後者は私が暇なときに探ってやるから、オル子は自身を鍛えることに集中していればいい」

「おお、優しい言葉……普段のドSっぷりからは想像できない言葉を頂きました! やっぱり大人は違うわね! TPOを知っているというか、人心掌握に長けるというか! 流石は年の功ってやつかしら!」


 頭にたんこぶが出来ました。リナのことを全力で褒め讃えたのになじぇ。

 ミュラにたんこぶをナデナデされていると、エルザが溜め息をつきながら口を開く。


「リナの言う通り、オル子の人化は気長に進めていくとして……今日、こうして集まってもらえたのは良い機会だわ。折角だもの、これからのことについて話し合いをさせてもらいましょうか」

「ほむほむ。これからのこととな?」

「現在、オルカナティアはキャスとリナのおかげで安定状態に入ったと言えるわ。キャス、人間とラグ・アースの生活に問題は?」


 話を振られ、キャスは待ってましたとばかりに立ち上がり、胸に手を当てて自慢げに答える。


「うむ! オル子の代行として、しっかり切り盛りさせてもらっておるぞ! アル爺とラキトン老を補佐に、二種族が協力し合える体制を取りまとめておるでな」


 キャスの発言の通り、私に代わってオルカナティアの内政ポジションを担ってくれてるのよね。

 少し前まで普通平凡の女子高生だった私が、数千人もの人たち相手に内政なんて出来るわけがないから、代わりにキャスが立候補してくれて助かってるわ。


 次期王位継承権を争い、王になろうとしていただけあって、キャスはそういうのが大得意みたい。

 生き生きしながら、日々、お髭さんや長老と朝から晩まで国の安定のために尽力してくれているの。

 私? それを横目に見ながら、ゴロゴロしたり、お風呂に入ったり、『キャスー! 野球しようぜー!』って声かけてみたり、大忙しの毎日です、ええ。

 一度、内政チートキャラとして活躍してみようかと思い、キャスの執務室で『食料自給率を上げる策があるわ! パンがなければお菓子を食べましょう! 今日からオルカナティアの国民は一日三食スイーツにします!』と語ったらポイっと部屋の外に放り出されました。解せぬ。


「結構よ。リナ、街の建築状況は?」

「既に十分過ぎるほどの家屋は立て終えている。少なくとも雨風に困ることはないだろう。だが、この程度では物足りんな。更に建築を進めてやるから、さっさと新しい人間なり魔物なりの住民を連れてこい。魔王軍とぶつかることを見据えたとき、非戦闘員だけしかいない現状のオルカナティアでは話にならんことは分かっているだろう?」

「分かっているわ。だからこそ、行動を起こすのよ。オル子、『支配地勢力図』を」

「ふぉい!」


 エルザに促され、私はスキル『支配地勢力図』を展開する。

 宙に浮かぶ色とりどりの地図にみんなの視線が集まり、それを見ながらエルザが話を始めていく。


「みんなも知っての通り、オル子は『魔選』という次期魔王争いに巻き込まれているわ」

「そうね! 誰かさんのせいでね!」


 チラチラとリナの方を見つめるも、ククッと楽しそうに笑うだけ。くきー!

 そんな私たちのやり取りをスルーして、エルザは状況説明を続けていく。


「オル子が支配地を抱えており、手放せないうえに次期魔王となるために重要な『聖地』とやらを支配下においている。ゆえに、この先、オル子は必ず魔王の座を狙う魔物に狙われることになる」

「だ、断言されるとやっぱり怖い物があるわね……死にとうないでござる!」

「何もせずにオル子を殺させるわけにはいかないわ。そこで、私たちが現状で二つの対策を取っている。一つは、オル子をはじめとした戦闘要員のレベルアップよ。魔王の座を狙う魔物に襲われ、戦闘になってしまっても負けないよう力をつけ、返り討ちにするためね」


 うむ! これは初めてリナに会った時に、エルザと二人で決めた作戦ね!

 とにかく強くなれば殺されない。弱肉強食、魔物のルールに従った生存戦略! 死にたくなければ殺すしかねえのです!


「そして、もう一つは勢力の増強よ。配下を集め、魔王軍に負けないくらいの一大勢力となれば、敵も手出ししにくくなるわ」

「そうか? 魔王になろうって連中なら、お構いなしに襲ってきそうな気がするんだけど」

「そうはできない事情があるのよ、ササラ。地図を見て頂戴」


 そう言って、エルザは地図を指し示し、噛み砕いて理由を説明してくれた。


「次期魔王になろうとしている勢力は一つではないわ。地図上で勢力図の色が別れているでしょう? 連中は勢力を拡大しつつ、巨大勢力同士で睨み合い、牽制しあっているというのが魔物領域の現状なのよ」


 例えば、そう前置きをしてエルザは真っ黒に染まった東の果ての領地を指し示す。


「前魔王アディムの息子、ハーディン率いる新魔王軍。見てのとおり、魔物領域の四割ほどを手中に収めていて、次魔王の最有力候補でしょうね。だけど、ハーディンの支配地がここから先、大きく伸びることはあり得ない」


 そう言って、今度は黒の領地を包むように色塗りされた灰色の領地を指し示す。


「ハーディンに離反し、次期魔王として名乗りをあげた『空王』イシュトス。空王はハーディンの動きを遮るかのように、周りの支配地の大凡を手中に収めているわ。割合にして二割程度だけど、ハーディンを囲うように支配地を抱えているから、ハーディンは支配地を広めるに広められずにいるのでしょう」

「だが、内側にハーディンがいる以上、イシュトスも外に支配地を広げにくいな」

「その通りよ、クレア。ハーディンとイシュトスが常にぶつかりあっているから、外に組織の頭が遠征してまで支配地を広げる余裕などないの。だからこそ、イシュトスはグラファンを遠い地に送り込み、自分ではなく部下に支配地を獲得させて間接的に領地を増やそうとしたのでしょうね」


 それは失敗に終わったようだけど。

 そう言葉を一度切ったエルザに、私はびっくり。エルザ、よくどこの支配地を誰が支配しているかなんて分かるわね。

 地図には色分けしかされてないし、名前が出てるわけでもないから、私には微塵も分かんないんだけど。


 そんなことを考えていると、エルザは私の考えを読んだのか、視線をリナへと向ける。あ、そっか。リナから情報を得たんだ。リナならこの手の情報は色々掴んでそうだもんね。納得。


「このように、大きな勢力は互いにけん制しあって動けない状態なのよ。私たちはハーディン、イシュトスの間にオル子を割り込ませなければならない」

「つまりあれか、将来的にオル子が邪魔だからって動こうとすれば」

「下手に大軍を動かせば、他の勢力から背後を突かれ、私たちとの二面作戦を強いられることになるのではと思わせて縛る。つまり、私たちはこういう手を出しにくい状況までオルカナティアを育てなければならないの」


 なるほど。エルザの言いたいことはなんとなくわかったわ。

 現状のオルカナティアでは、大軍どころか少数の強者を送られるだけで壊滅状態になりかねない。それでは他の勢力に攻めることを躊躇させられない。

 だからこそ、うかつに飛び込めないくらいの勢力までオルカナティアを育てないといけないと言ってるのね。なるほろ!


「現状、オルカナティアの存在は他勢力に知られていません。それを利用して、これからは可能な限り戦力増強のために舵取りをするということですね?」

「そうよ、ルリカ。現在、オルカナティアには人間とアクア・ラトゥルネ、そしてラグ・アースがいるけれど、そのどれもが非戦闘員でしかない。人型の魔物がこれだけでは他勢力にあっという間に蹂躙されてしまうわ」

「それじゃどうするの? エルザのウィッチやクレアのオーガみたいな、戦える種族のところに『ウチに来ませんか!』ってお願いするの?」


 おお、なんだかスカウトみたいで格好いいかも。オル子Pが勧誘しまくればいいのね!

 むふー! 腕が鳴るわ! オル子Pのプリンス・プロジェクトは全員イケメンで統一! 熱血、クール、天然、腹黒、属性も盛り沢山でお送りします! 明日の王子は君だ!

 ワクワクしていると、エルザは首を振って否定する。あれ? じゃあどうやって誘うの?

 首を傾げる私に、エルザはきっぱりと言い放つ。


「それだけで全てが受け入れられるはずもないわ。もちろん交渉はするけれど、それで駄目だったら支配者を倒すのよ。仲間に加えたい種族の領地そのものをオル子の支配地にするの。支配者の命令に支配地で生まれた魔物は逆らえないのだから、それだけで問題は解決するわ」

「えええ!? そ、それって拙くない!? 意思のない魔物ならまだしも、人型の魔物にそれしちゃうのは怒られたりしない!?」

「オル子様、お忘れかもしれませんが魔物とは強さこそが絶対なのです。オル子様が強さを以って支配者を打倒するならば、何も問題はないかと」

「お前がその魔物たちに死ねというような命令を下すなら反抗もするだろうが、お前がやろうとしていることは『王道』だ。実力を示し、種族の強さを買われ、道を共にするよう願われて胸躍らない魔物などそうはおらんよ。ましてや、お前が仲間にしようとしているのは戦闘種族だからな。戦闘種族はいつだって強き主、従うに値する主を魂が求めているものだ」


 そう言って、リナはチラリと視線をクレアに向ける。

 ああ、そう言われればちょっと納得かも。つまりあれだよね。『俺を仲間にしたい? よかろう、ならばその資格があるか強さを示せ!』ってことなのよね。

 まあ、とりあえず無理強いするつもりもないし、支配者を倒してオルカナティアに興味持ってくれた人だけ連れていけばいいよね。


「それじゃ、これから私たちがするのは、支配地を増やすこと?」

「そうよ。そして、その領域は極力オルカナティアから離れた場所でなければならない。この近隣の場所を支配地においてしまうと、オルカナティアが活動拠点だと『支配地勢力図』によって他の魔物にばれてしまう可能性があるから」


 あ、そうか。支配地を10以上持つ魔物なら、このスキルを使えるんだっけ。

 なるほどなー。エルザってば色々考えてくれてるのね。私の命の為に、こんなに尽くしてくれるなんて……むっふー! 愛されてる! 私ってば凄く愛されてるう!


「こういう理由から、オル子、オルカナティアのことはキャスとリナに任せて、私たちは再び旅に出ることを提案するわ。他の巨大勢力に支配されていない領域を支配地として確保しつつ、レベル上げを行って進化を狙う。支配地に存在した強者はオルカナティアに逐次送り込む。どうかしら?」

「どうもこうも、大賛成でございます! 是非その方向でいきましょう! 私に対するエルザの愛、しかと受け取ったわ!」

「また意味不明なことを……そういうことでキャス、リナ、オルカナティアを任せても?」

「うむ! 任せておけい! そなたたちが戻るまでに、サンクレナの王都にも負けないくらい賑やかな都市へと変えてくれようぞ! くふふっ、次期魔王の代行とは胸躍るのう! 何もさせてもらえぬお飾りの姫で終わるよりもよっぽど面白いわ!」

「まだまだ弄りたい部分は山ほど残っているからな。こっちは面白おかしく作業を進めておくから、その間に可能な限り支配地を確保してくるがいい」


 二人の許可を得て、私たちのこれからの方針が決定したわ。

 久しぶりの旅、それも積極的に支配地を得るために動く冒険なんてドキドキね! 


「それでは、どの地域を狙うのかについて話を進めていきましょう。まず、このハーディンの支配する領域とそれに対抗する『空王』イシュトスの領域には極力近づかないとして、より狙うべき場所は……」


 うむ、話も綺麗にまとまったし、気持ちがすっきりしたら何だか眠くなってきたわね。

 真面目に会議に参加したからね。仕方ないね。オル子さん、こういう真面目な話し合いで充電パワーが持つのは三十分が限界なのです。私、今日頑張ったよね!

 ミュラも私の頭の上で既におねむだし、私も一緒に昼寝としゃれこみましょう。よし、床にごろりん完了。おやすみぐー。


「おいエルザ、オル子のアホが床で涎垂らしながらぐーすか眠りこけてるんだけど」

「放っておきなさい。あとでしっかりお仕置きしておくから気にしないでいいわ」

「後で怒られるって分かってるのに堂々とこれだもんな……こいつ、やっぱり本物のアホだわ」

「私、オル子様とミュラ様の毛布を取ってきますね。ふふっ」


 にゅふー、ぎゅっと抱きしめてくるミュラの体温が気持ちいーい。ぬっくぬく!




 

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