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44.君臨するわ。凛として咲く花のように

 



 暴力を示されれば暴力で、礼を示されれば礼を正す、それがオル子流。

 私も名を名乗り返しましょう。やあやあやあ、我こそは天下一の海鮮系美少女に候。公爵と侯爵の違いが分かりはじめたオリジナルブレンド、オル子ちゃんです。


「オル子よ。見てのとおり魔物でね、ラグ・アースの皆には世話になっているわ」

「お話はラキトンより伺っております。マトルンの村を飢えと病から救い、それだけではなく村を山賊どもから守り、さらには山賊の根城を叩き潰してくれたと。領主として、まずは心より感謝申し上げます」


 そうですか! うむ! ところでラキトンって誰?

 首を傾げていると、ササラが小声で村長の名前だって教えてくれた。そんな名前だったのね、知らなんだ。


 領主さん、なんだか私を褒めまくってくれているけど、流石にそれだけってことはないよね? ううん……目的が読めない。

 はっ! もしや最初に褒めておいて、あとで『ところでオル子さん、あなたまだ住民税払ってませんよね? 不法滞在してますよね?』ってくるのでは!?

 うおお! 領主直々に取り立てだとう!? そ、倉庫の宝石で住民税払えるかしら!? シャチは一匹幾らくらいが相場ですか?


「別に感謝されたくてやった訳じゃないから要らないよ。お前の為じゃなくて、村人の為、自分の為にやっただけだもの。しかし、人間の領地に勝手に住み着いた魔物相手に随分と礼を尽くしてくれるわね。怯えたり追い払おうとしたりしなくていいのかい?」

「冗談にしても笑えませんな。人であろうと魔物であろうと、領民を守るために尽力して下さった恩人相手に礼を尽くせぬ者を民が領主と認めましょうか」


 んまあ、イケメン発言。これならラグ・アースのみんなが慕うのも分かる気がするわ。

 とりあえず、いきなり『出ていけえ!』と追い出される心配はなくなったわね。

 ツンデレササラが認めるくらいの人だもの、そんなことはしないとは思ってはいたけどね! さて、それじゃ本当に何しに来たんだろ。

 ……うむ、私が考えても答えが分かるわけでもなし。もう訊いた方が早いや。


「それで? わざわざ領主ほどの人間が私に何の用? 素性も分からない魔物に領主自ら会うというのに、護衛の一つもつけてないんだ、危険も承知の上で秘密裏に話があって会いに来たんでしょう? まさか礼を言って終わりという訳ではないだろうね?」


 いや、個人的にはそれで終わりでいいんだけどね!

 でもどう考えてもそれで終わる空気ゼロだもんね! 私の問いかけに、お髭さんは頷きながら言葉を返してくれる。


「勇猛にして聡明、弱きを助け強きを挫く在り方、威風堂々たる覇者の風格。なるほど、ラキトンが手放しに褒め称えるのも頷けますな」

「じいさん、領主様になんて説明したんだ……ほとんど詐欺じゃねえか」


 ササラが小声で突込み入れてるけど聞こえないふりをしました。

 村長さんのなかのオル子像っていったいどんだけキラキラしてるのかしら。なんかいつもアホやっては夢を壊しまくってごめんねなの!


「私の要件ですが、一つは山賊退治及びマトルンの村を救って下さった恩人に礼を伝えることで間違いはありませんぞ。自らの足で会い、礼を伝えてこそ意味がある。山賊どもには本国からもささやかながら懸賞金がかかっておりましたので、そちらも馬車にて運んできている次第ですが」

「要らないわよ。人間の使う金銭に何の価値があるというの。領主ならせいぜいラグ・アースの為にその金を使えばいいわ」

「ふむ、やはりそうおっしゃる。では、お言葉に甘えさせて頂くとしましょう。この賞金はラグ・アースの為に使用することを誓いましょう」


 お金なんてもらっても魔物だから使い道がないのですぞ。

 金品宝石たんまり館の地下に溜め込んでいるけれど、こんなシャチボディだからショッピングを楽しむことすら出来ませんぞ。

 だから、私を想うならそのお金をしっかりラグ・アースの発展のために使ってほしいなー。

 もし、この村が大都市くらいまで発展したら、人も増えて、店とかも沢山できて、夢の異世界ショッピングや異世界スイーツ食べ歩きができるかもしれないじゃない!


「山賊の件で礼を告げることが要件の一つ。そして、もう一つの件ですが、オル子様にお縋りしたいことがありましてな」

「縋りたい? それはいったい――」


 内容を訊ねようとしたとき、館の入口の扉が開かれる。

 そして、中から姿をひょっこり見せたのはキャス。


「オル子にミュラよ、そろそろ晩御飯であるぞ! 今夜は妾も手伝った肉料理でな、それはそれは素晴らしい出来だと自負しておる! 存分に舌鼓を打つがよい! ……ぬ?」


 そこまで言って、キャスは来客の存在に気づいて目をぱちくりとさせる。

 そんなキャスを見て、お髭の領主さんはそれこそ目玉が飛び出るんじゃないかってくらい目を見開いて驚いてる。

 あ、そっか。領主様ってくらいだから、お姫様を見たことあるわよね。え、もしかしてこれヤバい状況?

 私、キャスを攫った魔物って思われたりしてる? ひい、冤罪よ! オル子さんは悪くねえ!


「アル爺ではないか! 久しいのう!」

「キャス様! キャス姫様ではありませぬか! おおおお、よくぞ御無事で!」


 地鳴りのするようなダッシュをして、領主さんはキャスを抱きかかえて咽び泣き始めた。

 うむ、よく分からんけれど、これは難しい話にみんなを巻き込むチャンスだわ。

 お風呂あがって、領主との話し合いにエルザたちを全員巻き込むしかないわ! キャス、グッジョブよ! みんなを呼ぶまでの間、男泣きしているお爺ちゃんの相手は頼んだわ!














 お風呂上がりでぽっかぽか。ぬふー! 風呂上がりの一杯、このために生きてるわああ! ルリカが作ってくれた果実ジュースおいちー!

 領主さんと長老、そしてササラを連れて私たちはオル子ハウス内へと移動したわ。


 現在、領主さんと向き合うように長机を挟んでエルザたちが座って対応中。

 私? 私はルリカの用意してくれた毛布の上でごろ寝中。オル子さん、シャチですからね。椅子に座るなんて出来ませんからね。

 ミュラやササラと一緒に横になって、みんなの話し合いを見守ってるわ! 決して面倒事をエルザに投げた訳ではござらぬ!


「アル爺はキャス派筆頭だった貴族での。昔、妾の護衛騎士を務めていた頃からの付き合いで、政争に敗れるまでは陰に日向にと尽力してもらったのじゃ」

「まさか再びこうしてキャス姫様にお会い出来るとは……長生きはしてみるものですな」

「わはは! まだそのような年齢でもあるまいに! まあ、妾が生き永らえているのも、全てはオル子たちのおかげじゃからの!」

「ラグ・アースの民にくわえ、キャス姫様の御命まで守って頂き、何とお礼を申し上げればよいか」

「良いわよお礼なんて。偶然が重なっただけだし」


 ぐでーっと毛布に横になったまま、ヒレを振って答える。

 お風呂上がりで横になると眠たくなるわねえ。やばい、ウトウトしてきた。お腹も空いてるんだけど、それより眠気がやばば。


「それで、爺は何用でマトルンの村に来たのじゃ? 先ほどの様子を見るに、妾がここにいる情報を掴んだという訳ではあるまい?」

「ええ。一つは領主として、山賊を退治して下さったオル子様にお礼を直接伝えたいと思い、参じた次第ですな」

「それはあくまで表向きで、本当の理由はオル子の見極めでしょう? 魔物が人間の村に住み着いているんだもの、どんな裏があるか探っておきたいというのが本音ではなくて?」

「ふむ、魔術師殿の言うことも尤も。ですが、ラグ・アースの為に尽力して下さったという話を聞けば、正直なところ、裏の事情などどうでも良いというのが本音ですな」

「どうでもいい? ある意味、この村は私たち魔物の支配下に置かれていると言っても過言ではない状況なのに?」

「魔物の支配、大いに結構。少なくとも、ラグ・アースの民を使い潰そうとしている『本国』の連中に委ねるよりも余程良い」

「……アル爺、もしや本国でもうラーマ・アリエに対する動きがあったかの?」


 キャスの問いかけに、小さく頷くお髭さん。

 ううむ、渋くて良い感じだけど、年齢がねえ。息子さんとかいないのかなー。

 魔物に理解のある領主の息子、それもイケメン温厚なんて超ドストライクなんだけどなー。紹介してくれないかなー。


「キャス姫様が王位争いから脱落し、残る王子たちは皆ラグ・アースを人と認めておらぬ立場にあります。むしろ、いつ魔物に寝返り人間に牙を剥くか分からぬという考え。姫様というラグ・アースと私の後ろ盾が消えたことで、王都より命令が下されましてな」

「むう、あまり聞きたくもない話じゃが……どんな下らぬものじゃ?」

「ラグ・アースの民全てに対する労役。サンクレナとラーマ・アリエの国境沿いに防壁を造り、もしもの時に備えるというものですな。まあ、労役という名の奴隷扱いと言った方が正しいでしょうな」

「ふ、ふざけんな! 俺たちは今を生きるので精いっぱいなんだぞ! そんな労役まで手なんか回らねえよ!」

「手が回らないだけの話に終わらんでしょう。厄介者とみなしているラグ・アースの命を労役で使い潰し、数を大きく減らした後に、新たな人間をこのラーマ・アリエに移住させる……そういう流れになるかと」

「っ! 馬鹿にしやがって!」


 おおう、ササラが激おこ状態に。そりゃ怒るわよね。

 全く、一部の人間なんでしょうけれど、ラグ・アースのことを何だと思ってるのかしら。

 こんなに小さくて可愛くて愛らしい種族なのに、滅ぼすなんてとんでもない! 見てみなさい、まるで妖精みたいな子たちの姿を。

 可愛い可愛い。ササラをヒレでナデナデしていると、腹部にヘッドバッドされた。なぜに。


「ふむ、そのような要求を飲めばラグ・アースは間違いなく滅ぶの。それで、ラグ・アース保護の後ろ盾であった妾を失ったお主は、オル子に何を頼もうとしていたのじゃ?」

「キャス姫の守りを失った私を王都の貴族どもは放っておかんでしょう。いくら私がラグ・アースを守ろうとしたところで、このままいけば私はそう遠くない内に失脚、ないし消されることは間違いありませんからな。ゆえに、オル子様にお縋りしようかと思った次第です」

「縋るじゃと?」

「そうです。ラグ・アースの民を本国から守るためにも――オル子様にはラーマ・アリエを支配して頂きたいのです」


 ほーれ、高い高いー。私のお腹トランポリンでミュラもご機嫌ね!

 ふう、お風呂の後に娘と愛を確かめあう、最高の時間だわ。そう思うでしょう、みんな……って、あれ? なんか視線が集まってるんだけど。何事? やばい、何も話を聞いてなかった!

 いや、大丈夫、まだ誤魔化せる! それっぽい適当な相槌をしておけば、話の流れが見える筈。いける!


「つまり、どういうことかしら?」

「このラーマ・アリエに住まうラグ・アース族は千人弱。その全てをこの魔物支配域との境界線に近いマトルンの村に移動させてしまい、オル子様の保護下において頂きたいのです」

「なるほどね。強大な魔物に村を占領され、ラグ・アース全てを隷属させられたという形を作りたいのね」

「その通りです、魔術師殿。そうすれば、ラグ・アースたちに労役を課すためには、強大な魔物からラグ・アースを取り戻す必要が出てきます。しかし、サンクレナは現在、隣国ガードラックと睨み合っている状態にあり、こちらに兵を出す余裕などありませぬ」

「少なくともガードラックとの戦いが落ち着くまでは、ラグ・アースを守ることができると、そういうことじゃな?」


 ……いや、つまりどういうことだってばよ?

 お髭さんは他の村のラグ・アースをこの村に移住させたいって言ってるのよね?

 そうすれば、私という魔物が睨んでいるからラグ・アースをサンクレナに差し出さずに済みますよ。もしラグ・アースが欲しいならオル子さんを倒してからにしなさいよ、と。

 でも、サンクレナは他国との戦争で忙しいから、こっちに兵士を向ける余裕ないし大丈夫大丈夫ってことよね? うーん、別にいいんじゃない? マトルンの村の人さえよければ。


「ということじゃが、オル子、どうするのじゃ? もしこの話を飲めば、お主を少なからず人間のイザコザに巻き込んでしまうことになるのじゃが……」

「ラグ・アースを百人守るのも千人守るのも大して変わらわないでしょう? 受け入れるのはマトルンの村の民なのだから、村長やササラで決めればいいわ」

「い、いいのか? 他のラグ・アースのみんなも助けてくれるのか?」

「人間たちがラグ・アースを奪おうと攻めてくるなら、私たちは容赦なく殺すだけだもの。そうよね、エルザ?」


 エルザに話を振るのはあれよ、『と、思うんだけど、私の意見で問題ないかの判断宜しく!』って投げているのです。

 こういうのは頭脳労働に長けた人が判断するべきなのよ! という訳で頼んだわよ、我らがブレーンエルザ様!

 私の問いかけに、エルザは少し考える仕草をみせた後、意見を口にする。


「いいわ。オル子が許容するのなら、ラグ・アース全てを保護下におきましょう」

「ご英断、心より感謝いたします。これでラグ・アースの民の命を守ることができましょう」

「ただし、その代価はきっちり払ってもらうわ。形はどうあれ、オル子はあなたの要望を受け入れた。ならば次はあなたが私たちの要望を飲む番だわ」

「ふむ、当然の要求ですな。ラグ・アースにキャス姫様と、我が希望を全て救って頂いたのです。望まれるなら、この老骨の命でも何でも差し出しましょう」


 おお、エルザが取引を持ち掛けてる。

 ううむ、領主さんに何を要求するのか、私には皆目見当がつきませぬ。

 お金とかもらっても仕方ないし……何を頼むんだろう。エルザは領主さんに対して、要求を突きつけた。


「先ほど、あなたは言ったわね? ラーマ・アリエをオル子に支配してもらいたいと。ならば、その言葉を守ってもらいましょう――この国を、オル子のモノにさせてもらうわ」

「ふむ。それはつまり、『支配者』の権限を譲渡しろということですかな? 境界線を超えて人の支配地は魔物に譲渡できぬ、逆もまた然りだという決まりがなければ喜んで譲渡したのですが」

「いいえ、オル子をこの地の支配者にするつもりはないわ。それをすると、私たちがこの地に潜伏していることが『支配地勢力図』によって魔王軍の連中にばれてしまうもの。支配者をあなたから変更をすることなく、この国を私たちの本格的な拠点……オル子を守るための国として作り変えさせてもらうということよ」


 え、マジで? このマトルンの村が私の国になるの?

 オル子さんの国……小さくて可愛いラグ・アースに囲まれた私。んまっ! まるで白雪姫じゃないの!


「まず手始めに、このラーマ・アリエ内に魔物を呼び寄せるわ。実際に魔物が国内で活動することで、人間たちはよりラグ・アースに手出ししにくくなるでしょう。ラグ・アースを連れ去るためには、国内の魔物を潜り抜け、私たちを倒さなければいけないのだから」

「魔物を呼び寄せる、ですか。それではラグ・アースの民が魔物に襲われる危険性が高まるのではないですかな?」

「心配は不要よ。オル子は魔物領域にて支配地を14も抱えているわ。支配者の命令は支配地の魔物にとって絶対なの。オル子が襲わないように命じれば、魔物たちはラグ・アースにとってこれ以上ない盾になるわ」

「なんと……オル子、そなた、本当に凄い魔物なんじゃのう」


 いや、私もエルザの話を聞くまでそんなことができるの完全に忘れてたんだけど!

 そういえば、そんな話があったわね。支配者になったら、支配地の魔物を倒しても経験値が入らなくなる代わりに、その地で生まれた魔物に絶対の命令権を手に入れることができるって。人間の支配地だから数こそ増やせないけど、住処を移すのには問題ないのよね。

 なるほど、つまりエルザはゴーレムやらカブトムシやらタニシやらを人間からラグ・アースを守るための兵士として使うつもりなのね。ゴーレム以外頼りないんですけど! タニシに何ができるのよ!

 エルザの話を聞き、領主さんは思考しながら確認するように問いかける。


「ふむ。お尋ねしたいのですが、その魔物たちを本国から連れてきた人間たちを襲わないようにすることも可能ですかな?」

「オル子に命じさせれば可能よ。なぜ?」

「いえ、サンクレナ国内に残っているキャス姫派の者たちやその家族をオル子様の支配国の民として何卒加えて頂けないかと思いましてな。姫様が失脚した今、彼らもまた私と同じ死にゆく未来しか待っておりませんでな。むざむざ殺されるくらいならば、オル子様の力として活用して頂ければと。何より、この地には姫様もおりますので」

「キャスだけではなく、オル子に忠誠を誓うのならば構わないわよ。それと魔物やラグ・アースを人外だからと見下すなんて問題外ね。オル子の下ではどの命も等価値よ」

「それは問題ありませんな、我らはキャス姫様の理念に賛同し、道を共にしております故。王都に戻り次第、早急に手筈を整えましょう」

「ええ、そうして。魔物に守られ、横槍の入らないこの地は『キャス派』の立て直しにもってこいの場所でしょうから」

「そういう意図があることは否定できませんな。ですが、決してオル子様の意にそぐわぬ行動はしないと誓いましょう」


 おおう、つまり王都から魔物差別しない人間たちが来るってことよね。

 え、これ良いんじゃないの? つまるところ、このマトルンの村に人もラグ・アースも関係なく集まって、どんどん発展するかもしれないってことでしょ?

 すなわち、私の夢見る人化しても差別されない、令嬢として生きていける土台が組みあがっていくってことじゃないの!

 なんてこと! エルザは私の『人化して魔物差別しない男の人と出会って恋におちる』という夢を叶えるために奔走してくれているのね!

 ああ、心の友よ! なんて頼りになる親友なのかしら! こっそり足元に近づき、キラキラした目で見上げていると、エルザは帽子を深く被ってポツリと零す。


「悪いわね、話を勝手に進めてしまって。何から何まで『あの女』の狙い通りになってしまったけれど……これがオル子を守るうえで一番最良の道だと判断したわ。いずれぶつかる魔王軍に備えるためには、相応の組織を築き上げるしかない。魔王を目指さないあなたの気持ちは理解しているけれど、私はこの判断が正しいと思っているわ」

「エルザ、エルザ」

「何よ」

「大好き」


 こつんと蹴られた。親愛の愛情表現したのにひどい。このツンデレさんめ。

 ぽむぽむと飛び跳ねて毛布に戻る私を他所に、エルザは領主との話を進めてくれた。


「それでは、具体的な話し合いを続けましょうか。オル子を『王』として生まれ変わる――この国のこれからについての話し合いを、ね」


 話し合いはいいんですけど、エルザさん、そろそろ晩御飯にしませんか?

 オル子さん、眠気もやばいんですが、空腹が大変なことになりそうです。キャス自慢の肉料理まだー?















 領主との話し合いから一週間。

 話し合いの通り、マトルンの村には次々と他の村のラグ・アースたちが移住してきて、てんやわんやな毎日でふ。


 新しい家もいっぱい作らなきゃいけないってことで、オル子さんは木材調達に大忙しです。

 体当たりしたり、クレアが叩き切ったりしては木材を村に搬入。むふー、労働って尊いわね!


 人数も増え、食料も沢山必要になったので、並行してエルザたちが魔物領域から魔物を狩ってはアイテム・ボックスに入れてテイクアウト。

 村人たちが自給自足で全部賄うにはもうちょっとかかるかなあ。まあ急激な人口増加だから、そのあたりは仕方ないと割り切ってお仕事お仕事。

 木材だの石材だの食材だの私たちが山ほど持ってきていると、他の村から来たラグ・アースたちからそれはそれは感謝されました。

 マトルンの村の人たちが、何度も口を酸っぱくしてオル子さんが王様だって言ってくれてるんだけど、なんだか王様っていうより神様扱いなんですけど。

私に出会うと一日良いことがあるとの噂まで。オル子さんはドクターイエローか何か?


 それと、話し合いの時に他の支配地から魔物を呼ぶように言われたので、心の中で魔物カモンと念じたら、本当に来たのよね。

 近くの支配地から順にくるので、カエルやらタニシやらザリガニやらが一番手。

 全部の魔物が来ると大変なことになりそうだから、一割程度でお願いって祈ってたんだけど、それでも結構な数だわ。

 軽く数百匹はいるんじゃないかな。もしこの世に生物学者がいたら生態系崩れまくってブチ切れられそう。知らんもーん。


 命令しているので、村の人たちは襲ったりしないんだけど、むしろ友好的過ぎて困る。

 この前、村の外に出たらカエルに取り囲まれ、べろべろに嘗め回されたわ。思わず叩き潰してやろうかと思いました。くそう、カエルなんて嫌いよ。

 最近は、村の子どもたちがザリガニの背中に乗って遊んだりしてるのも見かけるわ。子どもたちよ、カエルの相手もしてあげて。こいつらなんで私ばっかりくるのよ。カエルを魅了するフェロモンでも出てるのかしら。


 続いて、サンクレナからキャス派で粛清されかけた人たちもやってきはじめたわ。

 人間だからね、最初は私みたいな魔物の支配ってことで怖がったりしてたんだけど、そこはキャスと領主さんが上手くまとめてくれてるわ。

 キャス派の人たちはラグ・アースに対して偏見のない人たちだから、溶け込むのはそう難しくなかったみたい。

 現在、人間たちをキャスが陣頭指揮を執り、ラグ・アースと一緒に村開発に頑張り中。キャスってばまるで領地開発令嬢みたい。ごいすー。


 そんな感じで次々と村にラグ・アースやらサンクレナから脱出してきた人間やらが合流し、村を発展していくある日のこと。

 いつものように、他の支配地から魔物がやってきたんだけど、今回やってきたのはヴァルガン洞のゴーレムたち……と。


「久しぶりだな、オル子! ククッ、どうやら私の期待通り、この世界で有り余るほどの馬鹿を貫いてくれているようで何よりだよ」

「げえっ! ドS鬼畜おっぱい!? ひえええ! 遼来遼来! 逃げてえええ! みんな逃げてええええ!」


 なんか無駄にカスタマイズされた巨大ゴーレムの肩の上に乗ってやってきたのは、紅髪白衣おっぱい美女――どう見てもリナ・レ・アウレーカです。本当にありがとうございました。

 前魔王の元カノにして、私が魔王軍に追われる羽目になった全ての元凶リナさんちーっす!

 厄介事の予感しかしないので、満足したならお茶漬けでも食べてさっさとヴァルガン洞に帰ってね! というか、何しに来たのよこの引きこもりチート暇人!



 

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